表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/64

1.イヴという少女①

よろしくお願いいたします。

 ある日、道に落ちていた子供を拾った。

 ――ら、こんなことになった。


「――行ったぞ、そっちだ!」

カンカンカンカン、警笛とともに青い制服を着た憲兵が駆け回る音が響く。堅い革靴が走る音に合わせ、周囲にかん高い音を響かせていた。

(まったくしつこい人達だわ)

 イヴは嘆息した。

 こんな罪もない“いたいけ”な女の子を追いかけている暇があるのなら、近頃盗賊が良く出ると噂の街道でも見張って市民の平和に役立てばいいのだ。

 イヴの緩やかにウェーブのかかった栗色の髪が、駆けるのに合わせて宙に舞う。

 振り返ると憲兵達は街の入り組んだ道に手間取られ、イヴの姿をしっかりとはとらえられていないようだった。

「犯人に告ぐ! おとなしく今すぐ投降しなさい!」

 しかし、引き離せているわけではない。着かず離れずの距離で着いてくる連中にうんざりと彼女は目を細める。

 ふと目についた裏路地に飛び込むと、それと同時に背後で激しい光が弾けるのがわかった。

 背筋がぞっとする。魔法だ。それはとてもポピュラーで多くの人が持っている魔法で、憲兵などがよく犯罪者を捕縛する時に使用する光の帯だった。一発では止まずに次々と襲いかかってくるそれらから逃れるため、イヴは路地の更に深くへと進む。

 逃げ込む先は決まっていたが、それまでに少しでも連中を巻かなくてはいけなかった。

 次はどこに逃げ込むべきか、きょろきょろと辺りを見渡しながら走っているうちに、気づけば彼女は行き止まりに逃げ込んでしまっていた。

(どうしよう……)

 背後からは憲兵の足音が近づいてくる。

 迷っている余裕はない。

 ぱっ、と目についたはしごに取りすがる。それは元は管制塔の役割を果たしていたのであろう。しかし今はもう錆び付いて避雷針くらいにしか用をなさないような鉄の塔だった。

「あそこだ! 取り囲め!」

 塔の下はたちまち憲兵に覆い尽くされた。

 空高くからそれを視認してイヴはにやり、と小さく笑むとそのままはしごから手を離し、一気に下まで落下した。

 憲兵達がどよめく。

 さすがに死ぬほどの高さではない。

 それでも大怪我をしかねない高さではあったし、落ちたところで落下地点は憲兵達の中心だ。

 行動の意味がわからない。

 しかし、そんな周囲の戸惑いをものともせず、イヴはスカートをはためかせながら、その戸惑いの中心へと降り立った。

 赤いスカートがふわりとめくれ上がり、着地と同時にイヴの足を覆い隠す。

 それに合わせて足をかがめるとイヴはくるりとその場で回転してみせ、ゆっくりと優雅にお辞儀をした。

 彼女の栗色の髪がぱさりと肩に落ち、琥珀のような茶色い瞳がゆっくりと瞬いた。

 その場にいる全員の目がイヴへと集まる。

 その全員と目を合わせるように周囲を見渡すと、イヴはにっこりと、花のつぼみがほころぶようにほほえんで見せた。

 その姿は絵画のように美しかった。

魅了魔法(チャームチャーム)

 それは魔法の呪文(ことば)だ。

 憲兵達の、動きがぴたりと止まる。

 その様子にイヴはほほえむと、目の前の憲兵の鼻をちょんっと小突いた。

(う、動けない……)

 憲兵はまだ何が起こったのかわからず、動かない体で目だけをせわしなくきょろきょろと動かしていた。

 イヴの魔法――魅了の魔法だ。

 イヴの任意の相手の動きを一定時間停止することができる。――ただし、イヴのことを美しいとか、綺麗だとか、つまりは魅力的に感じた相手にのみ効果が発揮される。

「おつかれさま」

 軽くほほえんで挨拶をして、目的地に向かって足取り軽く歩みながら、イヴは腕の中の存在をぎゅっと抱き直した。

 なんとしてでも、この子を連れて行かなくてはならない。

 遠くからはまだ、別働隊の憲兵達がイヴを探している音が響いていた。

おもしろいなと思っていただけたらブックマーク、評価、いいねなどをしていだだけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ