第5話 ヤ・カ・タ
あるかないか分からないものを探すことになった。唯の勘は当たる、多分…。でも館を探してどうするのか。まあ雨風がしのげるというのは強いかもしれないが。
「こっち、ある。」
語彙力がお亡くなりになられた唯の呟きを聞きながら結城はついて行く。唯は集中しているとき、退行するのだ。決してそういう目で見ることはないが、可愛い。
「まだ歩くの…?」
かれこれ歩き始めて1時間。インドアの塊である結城はもう既にバテていた。
「あれ。見えてる。」
足が疲れて体が上がらず、地面とにらめっこしていた結城が顔を上げると、洋館の一部が木々の間から顔を覗かせていた。
「おほぉ!」
思わず声が漏れる。結城は足が軽くなったように感じた。膝を上げ、足を下ろすと体が進んでいくのが実感できる。自分の身軽さを認識した結城はただひたすらに足を進めた。
「…、おいていかないでよ……。」
唯が後ろで呟いた。その瞬間、結城の身体はピーンと硬直し、瞬く間に唯の横へと帰還した。
「唯さん、行きますよ。」
超絶イケボでそう声をかけ、手を取ると同時に、再び軽やかに進み始めた。
そうして2人は館へとたどり着いた。洋館である。建物の外壁はツル科の植物で覆われ、入口は分厚い扉である。ただ不思議なことに、門はピカピカで真新しい。銀色の光沢を纏ったアルミ製の門のようだ。
「いい雰囲気があると思ったのに、門新しすぎて台無しだな。」
冷静に突っ込む結城の隣を唯はスタスタと通り過ぎ、館の門をくぐり抜けて扉へと近づいて行った。そして一言。
「これが館かぁ。」
お嬢さん、館っていうのは貴族の建てた大きな建物って意味らしいですよ。私もよく分からないですけども。
「あら、あなたたち、この館に興味があるの?」
突然館の前に見慣れない女性が1人。結城はビビりらしく、震えあがってアワアワしている。
「と、とつぜん現れたぁああ!!!だ、だ、だれだぁ!うわあああぁぁ…!!!」
「初めまして。私、森をさまよう天使、天草林と言います。テキトーに歩いていたらこの館にたどり着いたのです。よろしければ入れてもらえないでしょうか。」
礼儀正しく?挨拶をすませた林?は微笑んで館の前に現れた女性の反応を見ている。誰だよ、天草林って笑。
「ようこそいらっしゃいました。私はこの館の管理を任されている花と申します。驚かせてしまってごめんなさい。どうぞお上がりください。ゆっくりしていって。」
館は見た目以上に広々としていた。そして他にも来客がいた。どうやら何かイベントが行われるようだ。しかし、散策していて人に全く会わなかったのにも関わらず、人が集まっている館。妙である。しかも何故か偽名を名乗る唯。名乗る余裕もない結城。何か変である。小さな異変がたくさん…。そう、全てが変なのかもしれない…。
こうして、謎のパーティーの幕が上がる。