第4話 唯の勘
唯は何というか、遠慮がない。まっすぐでネガティブ面がない。突然変な場所に飛ばされたのに、全く動じない。彼女は落ち着いている。一方、結城は普通の反応というべきか、挙動不審である。やっとよく分からない呪文を唱えおわったと思いきや、今度は唯にしがみついて離れない。唯は振りほどこうとしながらもずんずんと先へ進んでいく。海岸を目指して小川を辿っている。もちろん流れに沿って。沼地があっても草むらがあっても全く気にせず進んでいく。見ていて清々しいほどに。
「そろそろ海じゃねぇか?」
そう呟いて数分、海に出た。白波が押し寄せている。鮮やかなエメラルドグリーンが視界いっぱいに広がっていた。
「海に、出た。」
結城はぽかんとした様子でそう呟いた。
「海、何年振りかなぁ。結城、泳いで来い!」
そう言って結城を押し飛ばす。
「おわっ!!」
ざぶん。いい音だ。唯は愉悦に浸っている。水も滴る良い男、ではあったが、ぷかぷか浮いている彼は”良い男”には見えなかった。顔は良いのだが。
「結城は休んでいろ。私が火を起こしておいてやる。」
そう言い放ち、唯は草木を集め始めた。どうやって火をつけるのか。彼女はずんずんと森に入り、そこそこ太い幹や枝を担いで砂浜に積み上げていった。その間10分。彼女、デキる!体力がある!見た目はモデルのようなすらっとした体つきのくせに、その体力と行動力。なんとも素晴らしい逸材。何なんだ、彼女は。何者なんだ!
「おい、結城!火をつけるぞ~。」
唯は何処からともなく虫眼鏡を取り出し、太陽光を一点に集中させた。理科の実験でやったことがあるかもしれない。そう、光を集めて段ボールを燃やすやつ。あれだ。みるみるうちに木から煙が立ち上り、発火した。
「唯、虫眼鏡なんてどこから出てきたんだ?」
「ふっふっふ。舐めてもらっては困る。私は常に虫眼鏡くらい、持ち運んでいるのさ。」
どうやら普通に持っていたようだ。なるほど。虫眼鏡を携帯しているのは最近の若者にとっては普通らしい。大変勉強になる。
そうして待ってましたと言わんばかりに日が落ち、起こした火で暖を取りながら夜を明かすことになった。
「ここって無人島なのかな。」
結城が不安そうに呟く。
「そうかもしれないけど私の勘ではこの近くに古い館があるわよ。」
唯の勘、野生の勘?当たるのかどうなのか。確かに最初向かった先に都合よく小川があり、海岸に出るタイミングも言い当てたとも言う。彼女、もしかして野生の勘が強い野生動物なのか…?ふーん。野生、野生、やせ、、、。なるほどなるほど、いろいろと激しそうだ。気性も荒いと言えそうだし。…おおっと、こちらが妄想に浸っている場合ではない。ちゃんと様子を見ていなくては。
「明日はその館を探そうと思うの。」
「なるほど、なるほど、?おばけとかってでちゃったりしないよね…?」
結城はビビりなのだな。うん、絶対そうであろう。
「おばけなんて出ると思うのか?私は予言も占いも宗教も神も人の話もぜ~んぶ信じてないぞ。ろくなことないからな。」
「最後のは信じたほうがいいこともありそうだけど…。」
「あのな、人間っていうのは嘘つきなんだ。騙すことに人生を費やすやつだっているんだぞ。誰が信用できて誰が信じられないなんてどう判断するんだ?みんな腹の内は黒いんだよ。私もな。」
おお~!しびれますなあ。唯様、あなたなかなか言うこと言うじゃないですか。そうですよね、そうですよね。信じられるのは自分だけ。いや、むしろ自分さえも信じられない。そうでしょう?むふふふふ。
そんなこんなで夜は過ぎ去っていく。