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2話

 あたしは夕食をとり終えた後、エマーソンと話をしないままだった。


 もう、自室に戻ろうとする。あたしに彼が再び、声を掛けてくる事はなかった。さっさと食堂を去った。

 自室に戻ると、あたしはさてと考える。上手く離縁をするためにだ。既に白い結婚になってから、4年が過ぎようとしていた。子を懐妊する気配もないから、成立はするだろう。まあ、エマーソンの側が受け入れるかは未知数だが。仕方ない、実家の両親や兄弟達に相談をしてみよう。秘かに決めたのだった。


 翌日には、行動に移した。まず、実家に久しぶりに帰りたいと家令を呼び出してエマーソンに伝えさせる。家令はしたり顔で頷く。


「確かに、奥様は嫁がれてから全くご実家に戻っておられません。たまには、気晴らしに戻ってはいかがですか?」


「ありがとう、そう言ってもらえると助かるわ」


「ええ、旦那様にはちゃんと伝えておきますので」


 家令は快く了承してくれた。あたしは再度、お礼を言った。


 この日の夜には、実家に帰る支度を始める。メイド達が手伝ってくれた。カリアも衣類などをスーツケースに入れていく。ちなみに、カリアはあたしの実家から付いて来てくれた唯一のメイドでもあった。なので、気心が知れている。


「……奥様、旦那様にはご実家に帰る旨はお伝えになったのですか?」


「伝えたわよ、家令に頼んでだけど」


「直接ではなかったんですね」


 カリアは呆れ顔で言う。あたしは仕方ないかと思った。カリアはあたしとエマーソンが不仲である事を知っている。白い結婚である事もだ。


「仕方ありませんね、旦那様には申し訳ないけど。私も付いて行きます」


「あら、それは嬉しいわ。カリアがいれば、何かと心強いし」


「私がいても、奥様1人よりはマシというくらいですけど」


 何気に酷い事を言われたが。事実なので文句は口にしない。黙々と、荷物を纏めるのだった。


 翌日の昼頃には、荷物を纏めるのも終わった。後は馬車に積み込むだけだ。それは家令が気を利かせて、男性の使用人と数人でやってくれていた。動きやすい旅装に着替えて、背中の真ん中まである髪を三つ編みで一束ねにする。あたしの髪は淡い紅茶色だが、瞳も濃いオレンジで自己主張が激しくはあった。それを隠すために、つばの広い帽子を深く被る。カリアも似たような格好であった。旅装につばの広い帽子を被り、編み上げのブーツを履いている。あたしは踵の低い靴だが。


「では、奥様。馬車に乗りましょう」


「わかったわ」


 カリアと2人でエントランスホールを抜けて、外に出た。馬車が既に横付けしてある。カリアが先に乗り、あたしが乗るのを手助けしてくれた。御者が扉を閉めると、馬車はゆっくりと動き出す。馬の蹄の音と車輪が回る音がしばらくは響いた。


 あたしの実家のレマーニ男爵家はしがない下級貴族だ。両親と兄が2人、あたしの5人家族だった。あたしが嫁いでからは全く帰っていなかったが。それもそのはず、エマーソンが嫌がったからだ。あたしと不仲である事がバレるのを厭ったのかと思うけど。ちなみに、婚家のロビンソン伯爵家は中級貴族ながらに伝統もあり、権力がある家だ。本来であれば、格下も良いところのあたしのような男爵令嬢が嫁げる家ではない。なら、何故あたしが嫁げたのか。

 理由はロビンソン伯爵家の経済面にあった。何でも、新しい事業をやって失敗したからだと聞いた。そのせいで金策に困り、経済的に裕福である我が家に頼らざるを得ない。結果、先代の伯爵と父が取り引きをしてあたしと当代伯爵のエマーソンとの婚約が成り立った。後に結婚と相成ったが。エマーソンはこの結婚を心底嫌がっていた。

 初夜にあたしは憎々しげな表情と共に言われたものだ。


『貴様と愛し合うつもりは毛頭ない、お飾りの正妻でいてもらう!』 


 そう言い放ち、エマーソンは寝室を出て行った。あたしはあまりのショックで茫然とする。仕方なく、1人で明け方まで過ごしたのは今でも忘れられないでいた。

 実は、エマーソンには数年来の恋人がいたらしい。名前はキリアさんと言ったか。身分は子爵令嬢だ。あたしと似たような身分だが、彼女には婚約者がいない。何でも、父君があるメイドとの間にもうけた庶子らしいのだ。つまりは愛人の子だが。まあ、キリアさんを正妻に迎えたってあたしは一向に構わない。なのに、あたしを渋々正妻に据えてキリアさんは愛人扱いときた。これには呆れ返って言葉も出ない。あたしはため息をついた。


 回想を終えると、なんとはなしに馬車の窓の景色を眺めた。カリアは疲れたのか、船を漕いでいる。ウトウトしているようだ。あたしはぼんやりしながら、両親や兄さん達の事を思い出す。

 穏やかながらにやり手な父様と明るく朗らかな母様。父様と似たような感じで穏やかで温厚な長男のアレド兄さんと真面目で寡黙な次男のイアン兄さん。アレド兄さんには、婚約者のエレナ義姉さんがいた。イアン兄さんにも同じく、婚約者のクレハ義姉さんがいたが。確か、アレド兄さんは結婚したとか聞いた。エレナ義姉さんとの間に第1子が生まれとも。

 早く会いたいなと思った。


 

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