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『お人形遊び』


「三大大陸共通歴になる以前から、三大大陸には数多の宗教が存在していますしね。大元は似たようなものであるとはいえ、完全なる共通化は不可能に等しい…」

「キオヤハ大聖国の場合、黎明の大陸全体の五分の一の宗教勢力から成り立ってるせいで、偏った考え方をするやつも多いからな」

「『黎明の大陸以外に住む人間は、黎明の大陸に住む人間よりも劣っている』っていう選民思想的なやつですね」

「しかも、キオヤハ大聖国の人間は、黎明の大陸外に住む人間たちのことを奴隷か何かだと思ってるからな。宗教儀式としても定期的に人さらいするし。そりゃあ各国からは警戒されるって」


 うへぇ…っとした表情のミスティラポロに、火事を起こそうとしたやむを得ない事情を理解したペリドットだったが、「それで、自称・フラメルの術式はどういった経緯で?」と本題からは逸れようとしなかった。


「うーん。術式自体が俺の趣味みたいなもんだってのは、言ったと思うけどー。本当に偶然だったわけ。自称・フラメルのゴーレムについて書かれた文献を読んだのは。書物庫を燃やすタイミングまでは、そこに潜んでいることになっていたから、試し読みする時間もあってなー。何か売れそうな本でも無いかなーって、漁ってるうちに、自称・フラメルの書いたゴーレム研究の文献を見つけたんだ」

「やっぱり泥棒しようとしてませんか、それ」

「いやー?結論から言うと、ざっくり確認した感じ、売れそうな本なんて一冊もなかったんだよ。師匠上製の目利き用アイテムも使ってそれだぜ?そりゃ先に取捨選択されてただけあるわーって思ったし」

「…それでも、ラポロさんが後々こうやってプシュケ・クオレの術式との共通項を見出しているわけですから、無駄な研究なんてなかったのかもしれませんよ?」

「そうかもしんないけど、もう焼いちまったあとだし」

「…もったいないですね」

「そう思うのは、プシュケ・クオレの術式を齧ってる人間だけだって。結局、キューブの術式の解析は、プシュケ・クオレの術式の解析に等しいわけじゃん?で、クオレさんはそれを国の上層部にさせてる。俺からしたら、自分ところで秘匿してる技術をなんで開示するような真似すんのか、わっかんねーわけ」

「確かに。解析されてしまうと、上層部への優位性がなくなるのは必定ですね」

「考えられるのは、術式自体がクオレの自動人形に特別性を持たせているわけではないってことか、クオレさんが術式を理解するために利用している協力者が専門機関に在籍しているってことか…」

「…その二択なら後者ですかねぇ。ボクたち『楽園シリーズ』がオーナー無しに起動できるようになったのは、偶然の産物に等しいみたいですし」

「え?」

「レッド姉さまがおっしゃってました。レッド姉さまは、お父さまからクオレ一族の自動人形技術を継承する役割も担わされていますから」

「(自動人形に技術を継承…。本当に自分の子どもとして扱っているってわけか)…それで?」

「仮契約鍵もその偶然の産物である法則に則って作成され、使用されているそうです。本契約鍵の作成は、プシュケ・クオレの代からまったく変わっていないらしいので」

「ほーん…?」

「そもそも、お父さまのお父さま…サガお祖父さまがプシュケ・クオレから確実な技術継承を行えていないというのも理由でしょうね。クオレの一族の名前が各国王族からある種の畏怖を向けられるきっかけになったチイイダリムネ帝国の件は、知っていますでしょう?」

「今の魔王さんが生まれることになったきっかけの事件か」

「はい。そのときにクオレ一族においては自動人形の製法と一部の術式のみを習得したサガお祖父さまだけが生き残りました。そして、自動人形の技術を医療パーツに応用することで財を成し、発展させていくことを選択した。お父さまとはそうした点でそりが合わなかったと…。プシュケ・クオレの意志を継ぐのは、自分なのだと」

「それで、術式の解析を望んだわけね…なんでも自分の思うとおりに事が運ぶと思ってんのかね、あの人は…」

「…」


 ペリドットが黙り込むと同時に、一人と一体は作戦のポイントに指定した大通りまで到着した。


「んじゃ、始めますか」

「ボクは指定された地点で待機します」

「あいよ。頼んだ…っと、そうだ。はい、これ。日傘」

「え?」


 ミスティラポロがどこからか真っ白なふわふわレースのついた日傘を取り出し、ペリドットへ向かって放り投げた。この子は慌ててそれをキャッチすると、困ったように彼のほうを見やった。


「今日は思ってたよりも日差しが強いから」


 彼は人間の女性に優しくするように、ペリドットを扱う。持たされるものも、彼がペリドットに見繕った可愛らしい女性モノだ。だが、男型の自動人形としての役割をシャヘルから担わされていたペリドットにとっては、少し違和感もある。

 そして、その違和感は、ミスティラポロの『理想の恋人』『理想の伴侶』として、自身が形作られていく感覚とつながって、とても心地よく感じられたのだ。

 それは、自分のオーナーを得ることができた自動人形として最高の極致。ミスティラポロに染め上げられていくことの快感でもある。


「…ラポロさんって…」

「ん?」

「本当に自動人形ドールのオーナーに向いてますよね」

「え?」

「『お人形遊び』が上手ってことです」

「この図体の男にそれ言う??」

「ふふっ。ボクはあなたのための自動人形ですから。嬉しいんですよ」


 ミスティラポロはペリドットの言葉に、微かに表情を歪めたが、ペリドットはそれを意に介した様子は一切ないようだった。


(改めて本人…本人形?からこう言われんのは、きっついなー)


 人間と自動人形の決定的な違いは、その意識の違いだ。

 そして、ミスティラポロは自覚していながら、そこに目を背けている。自身の理想の恋人として、ペリドットは申し分ない。

 それは、そうなるように自身が自動人形としてのペリドットに望んでいるからなのだろう、と彼は思っていた。


 その自覚があろうと、彼は絶対にペリドットを手放すことはできそうになかったのだが。


 破れ鍋に綴じ蓋…ある種、常人から見れば軽蔑されそうなそれは、彼らにとっては楽園そのものなのだった。



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