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素質の選定条件


「自力で願いを叶えることができて、術式の書き込みに長けている人間が前線に出ているほうが良い、という前提の片方を崩している気はするな」

「確かに、術式の書き込み能力の有無は他の『楽園シリーズ』の運命のオーナーには関係なくて、自力で願いを叶える、って点に集約されそうな気ぃする」

「その自力で願いを叶えるという点に関してだが、私的には自分自身で叶えられる願いを選択できる人間、というふうに置き換えられそうではあると思う。そして、その建前が崩れることが、『楽園シリーズ』やその運命のオーナーにとってはマイナス要素でしかない。建前を維持し続けるためには、お前の複製鍵という抜け穴は…『楽園シリーズ』に固執しているクオレや自動人形の技術を軍事転用しようと考えるようなこの国の上層部に知られるわけにはいかないんだ」

「…やっぱ早急に残りの『楽園シリーズ』の運命のオーナーを探し出すのが一番いいのかもしんないねー」

「あとは、複製鍵と人工パーツを使用した能力値同期に関する秘密を守れて、前線に出てくれる人材の確保」

「…あ!いるじゃん!一人!」

「え?」

「第二王子!」

「は???」

「第二王子なら、『楽園シリーズ』の力を利用したいだけだから黙っててくれんじゃねーの?」


 名案、とばかりにミスティラポロがイリスカルン第二王子の存在を挙げたが、それはすかさずハーゼが口元のクッキーの欠片を気にしないまま「それは無理!ルンルン王子はハーゼたち自動人形のことを憎んでるんだから!」と却下した。


「ノイネーティクル」


 フリデリケが一段と声を低める。


「ん?」

「自動人形にとっての運命のオーナーとは何だと思う?『楽園シリーズ』に限ったものじゃない。自動人形全体にとっての、だ」

「え?そりゃあ、俺とリディちゃんみたいにイチャイチャラブラブーって感じじゃねぇの?ヘリオやジャスパー、それに、お宅んとこもそうじゃん?」

「…否定はしない。だが本来、人間にとって自動人形は、人形やぬいぐるみと同じ役割を持っている。家族の代わりや友人の代わりという意味合いもあるということだ。クオレの自動人形が特別であり、その中でも『楽園シリーズ』がこうして、オーナーを選べていることが奇跡なだけで。例えば、特公。彼は公式愛妾のティルトが亡くした御子の身代わりとして作られた自動人形だ。ゆえに、運命のオーナーというものには出会うことなく、その身に与えられた役割を全うしている最中だ。契約に縛られているがため、ティルトが死ねば、彼の生もまた終わる」


 フリデリケから特公ことシンクの名前が出たことで、ハーゼがまたもクッキーを食べるのを一旦やめて口を挟む。


「…んきゅ。特公は、『楽園シリーズ』にだってなれたはずの出来だったのに、運が悪かった。ティルトは特公を子どもの代わりにすらしなかったから。その点、ハーゼは運が良かったんだ。愛玩用自動人形として目覚めたときの相手がフリデリケ-運命のオーナー-だったから。そもそもフリデリケ専用だからな。ハーゼは」

「これでも飲んで少しお黙り。私の仔兎さん」

「む」


 ふふん。と得意気な表情で自身を誇るハーゼに、話が脱線する気配を感じたフリデリケは、そのグラスにジュースを注いでやることでこの話題への興味を逸らさせた。


「話を戻すぞ。ようは、あの坊やは婚約者のフェリルがコンビを組んでいた自動人形…『獣シリーズ』のヒュントヘンについてお前のように自動人形の役割を誤解していたんだ」

「…あー、つまり、婚約者がその自動人形になんらかの形代としての役割を兼ねさせていたのを、恋人や愛人役にしていると誤認したわけだ?」

「簡単にまとめてしまえばそういうことになる。面白くはなかっただろうさ。だからこそ、『獣シリーズ』が乗っ取られ、フェリルを消したと知ったあいつは…」

「生き残ったあんたとハーゼを憎んでいる、と」

「私たちだけじゃない。すべての自動人形を、だ。そんなわけで、あの坊やに自動人形を与えることは…」

「危険、ってことかー」

「そういうことだ。あの坊やについては不憫だとは思うが…」

「ふーん」


 ミスティラポロはここでイリスカルン第二王子の婚約者の話題を蒸し返すようなことはしなかった。

 それだけ、自動人形という存在が、色々と不安定な位置づけであるとうっすらと理解したからだ。

 フリデリケはそれからハーゼの耳と耳の間をふわふわと撫でる。


「私は『赤夜光』の件が片付いたら、ハーゼを連れてこの国を出るつもりだ」

「え?」

「宵闇の大陸へ行きたい。クオレ一族の自動人形創作が始まったその地へ」

「そりゃあまた、なんで?」

「私の最終目標は、乗っ取られた『獣シリーズ』たちの奪還だ。そして、彼らの中に封入されていた精霊を元に戻す術式の手がかりがクオレ一族発祥の地にあるらしい、という情報を得ていてな」

「精霊を元に戻す術式…?」

「私も半信半疑さ」

「そんな情報、どこから…」

「さぁな」

「…俺よりヤバいとこから仕入れてそう」

「想像に任せるよ。とにかく私は、『獣シリーズ』たちの中から、乗っ取っている『赤夜光』を取り除いたうえで、できれば無傷でその地へ運びたいんだ。そこで、『獣シリーズ』たちを、オーナーや契約とは無関係な状態で自由に暮らさせたい。それができるはずであるのが、クオレ一族発祥の地だ」

「ガセ掴まされてない?それ」

「…敵討ちも復讐も私の部下であった『人間』への贖罪だ。ただ、『自動人形』たちに償うには、その方法がわからないから…」


 ぎり、とフリデリケは自身の人工パーツの腕に爪を立てる。ミスティラポロには、それを、ハーゼが少し寂しそうな表情で眺めているのが印象に残った。

 ミスティラポロは腕の中にいるペリドットの重みを感じ取りながら、「目先の幸せのことだけ考えて、それを守れたら…それだけでいいんじゃねーの?」と、フリデリケのほうを見ずに問いかける。



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