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勘付く者


「あ、リディちゃん!『オリジナル』だって!ジェットの!」

「んーんー…了解です。シャワー浴びてから行きましょう」


 ミスティラポロの連絡用リングに飛んできたメッセージの中身を聞いたペリドットは、シーツをさっさと体に巻きつけて、ん、と隣で寝転んでいる彼へ向けて腕を広げた。

 それを見たミスティラポロは「いい感じに可愛く慣れてきたわー、この子」と上機嫌に抱き上げてそのままシャワー室へと入っていくのだった。


〓〓〓〓〓〓〓〓


「フェーム、大丈夫ですか?」

「う、うん。ごめんな。アクア」


 モルフェームを背負ったアクアマリンは、アリス・リシアと共に『鹿の大聖堂』へ向けて走っていた。

 フリデリケはミスティラポロ組にだけ『ジェット・オリジナル』出現の報告を出していたのだが、そこからさらにモルフェーム組に連絡が行った。

 フリデリケとしては、シャヘルに報告する気はいっさいなかった。

 また、彼女は人形を愛好する者としての側面からか、ミスティラポロからの情報で、モルフェームが『柘榴の魔女』と呼ばれる自動人形の贋作師であったことを知り、信用できないと判断したようだ。

 加えて、地理的な理由もある。

 『楽園シリーズ』は転送で移動できるが、人間はそうもいかない。『鹿の大聖堂』は『三つ首塔』よりも国立治癒魔法魔術院の近くに位置するわけではないが、利便性の高い大通りが多数あるため、アクアマリンとアリス・リシアがモルフェームを回収すれば、すぐに駆けつけることができる。

 つまり、モルフェーム組はフリデリケたちと初めて遭遇することになったのである。


「え?ジェットとカルセドニー??」

「先行して戦っているのはヴェストさまとハーゼだよね」

「!ヴェストさまの武器を見ろ、リチェ。あれは、ジェットの魔銃剣だ」

「じゃあ、本契約を…??」

「いや、おそらくは、複製鍵のほうだ。ジェットの魔力はいつもと変わらない」


 カルセドニーの歌声で結界を張り、フリデリケはジェットと共に『ジェット・オリジナル』を相手にしていた。ハーゼはその蹴撃でフォローへ回っている。

 銃撃による煙が立たないように、『ジェット・オリジナル』への一撃一撃を狙い定めるフリデリケの手腕は、誰の目から見てもその筋の暗殺者よりも正確なのがわかる。

 おそらく、隊長職を失ってからこれまで訓練を怠ってこなかったのだろう。


 ッタァーン!!!ッタァーン!!!


 見ている側が気持ち良いほど、『ジェット・オリジナル』の頭部や胸部への狙撃が当たる。それは魔銃剣の力を貸しているジェットが、思わぬ楽しさから口元に笑みを浮かべてしまうほどだった。

 それを見ていて、フランケルは何故かおもしろくないらしい。姉の服の袖をくしゃっと握った。


「フランケル?」

「戦う力やスベを持たないということは、こんなにも口惜しいものなのですね、姉さん」

「…嫉妬ですか」

「ジェットは、僕のモノになるはずでしょう?彼だって、それを望んでいるはずなのに」


 冷たい瞳と声音でそう言葉にする弟に、バレットは今の弟とはかけ離れていってしまった昔の弟の面影を重ねながら目を伏せる。


「…すいません。フランケル」

「え?」

「私が貴方の属性を書き換えたせいですね。自分の好意を告白すらしていない受けに対して、本音をなかなか晒そうとしない上、自分のモノムーヴを取る。それは、一昔前のBLにおける攻めの悪いところです」

「…姉さんのおっしゃることは、いつもよくわかりません」

「そうですね。簡単に言えば、好きな子には!誰よりも先に!素直に!率直に!!!言葉と態度に表して、好意を伝えなさい!!報連相大事!!ということです。下手に拗れるよりも、ハッピーエンドを目指すのです!」

「…ハッピーエンド、ですか」

「私はそれを目指して云十年以上生きてきていますよ」

「姉さんはまだそんなに長く生きていないと思うんですけど…」

「前世からの分を足してお考えなさい」


 バレットはそう言って、フランケルの頭のてっぺんをつつくと、ジェットの戦闘へ集中するように促した。


〓〓〓〓〓〓〓〓


「フリデリケ嬢!!兄妹が到着した!!」

「!この展開は予想していたが、ノイネーティクル組はまだか…」

「どうする?」

「お前の本契約前というのが関係しているのか、出力が足りてない。ハーゼの自己修復も少し鈍いな。協力を仰ごう」

「了解した」


「…」


 フリデリケとジェットは連携においてもバランスがいいようだった。ハーゼはそのことに、自身が元々フリデリケの最愛のお人形として作られたという事実を思い出して複雑な気持ちになる。


「ハーゼ、私から離れるな!!」


 蹴撃でかく乱に回っていたハーゼとの距離が想定以上に開き、フリデリケが叫んだ。


 その刹那。


「!」

「ハーゼ!!避けろ!!」


 カルセドニーが結界を一度解こうと歌をやめたのを見計らったように、『ジェット・オリジナル』がその姿をぐもぐもと変化させて、赤い発光体を多数、辺りにまき散らした。

 その大量の光線からハーゼを守ろうとしていたフリデリケだったが、口頭で注意を促すしかできない。

 間に合うか間に合わないかの瀬戸際で、青い閃光がハーゼと『ジェット・オリジナル』に割って入った。


「?!フェーム?!」


 その深い青は紛れもなくアクアマリンの青である。だが、その青を纏って乱入していたのは、彼の運命のオーナーであるモルフェームだった。

 アクアマリンの力を纏い、その手には彼のステッキとシルクハットを手にしている。


「その自動人形を壊-殺-すことは、俺が許さない」


 体力皆無であるはずのモルフェームのその動きや様子は明らかにおかしかった。彼はステッキでシルクハットをとんとんと叩いて、たくさんの青い光の鳩を『ジェット・オリジナル』へ向けて飛ばし、赤い閃光を全て封殺した。

 続けざまにぱらぱらと音が鳴り、彼の手にはアクアマリンがよく攻撃に使用するカードが現れ、次々と標的を切り刻んでいく。


「フェーム…??」


 その戦い方は、アクアマリンにも、アリス・リシアにも予想出来ないほどのもので、的確であった。


「美しい作品を-人形-を傷つけるものには、断罪を…」


 そうして、次々と攻撃を浴びせていくのを周囲が呆気にとられて見ている中で、たった一体、結界が張られていないことに気付いたジェットが、補佐するように結界を紡ぐ歌を歌い始めた。


「ちっ。このままでは聖堂が…!!【結界展開】!!楽曲!!【君へ黒の花束を】!!」


 白い王冠の形をした結界が、辺りを破壊から守るように展開されていく。モノクロのパッチワークのようなエフェクトが、ざわざわと空間を包み込み、ジェットが何よりも守りたいもの-フランケルとバレット-はさらに強固に守られた。

 猛攻や結界から逃れようとする『ジェット・オリジナル』を、フリデリケとカルセドニーが妨害しにかかる。

 やがて、『ジェット・オリジナル』はその力を失っていき、最終的に【結界格納】によって、モノクロのキューブへと変換された。

 おそらく、今回の例はこれまで以上に上手く行った『赤夜光』退治だったと言える。


 ツカツカツカツカ…


 何もかも上手く行っていたにもかかわらず、フリデリケはある一点が気にかかり、今回の攻撃の主軸となったモルフェームの前へ立ちふさがった。

 すでに、モルフェームは戦闘時のときの異様な雰囲気は消え去ったあとだったが、それでも彼女は彼の胸倉を掴んで目を覗き込んだ。


「貴様、クオレと同じような目をするな?」

「え?」

「なるほど。だから、貴様が『柘榴の魔女』か」

「!!なんなんですか、貴女…」



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