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運命の手がかり


「…あー…なんかちょっと心当たりあります…」

「?どゆこと?」

「ボクも、ラポロさんは好みではなかったので。あまり印象も良くなかったですし」

「そうなの?!」

「むしろ好印象持たれていたように見えたんですか…」


 ペリドットが少し呆れたような声を出す。

 しかし、この子のミスティラポロへの受け入れ方があまりにも寛容だったことは、彼が多少そう思っていても仕方ない要因としては大きい。


「だって、調整んときとか、ほぼなすがままって感じだったし。結局こうやって俺んところ来たし」

「それは否定しませんけど。なんていうか…最初の仮契約を行ったときに、体に巡ったラポロさんの魔力が…巡っちゃいけないところに巡っちゃったみたいな…」

「リディちゃん?」


 ペリドットは少し恥ずかし気にミスティラポロから目線を逸らして、テーブルの上のカップサラダをフォークでざくざくとつつきまくる。


「すごく…相性が良すぎて、ボクの入ってはいけないところまで入ってきて…ボクの中にある空洞を自覚して…だから…もっと欲しくなって…」

「リディちゃーん?」


 このままだとカップサラダのキャベツやトマトが完全に潰されて食感も何も無い物体になってしまうところを、ミスティラポロがペリドットの手を抑えて止めた。


「!」

「今、どんな顔して物凄いこと言ってたか、わかる?」

「……え?」

「いや、なんでそんなこっちがおかしなことを言ったよー、みたいな反応すんの」

「…照れ隠し?」

「リディちゃーん」


 ミスティラポロは、真っ赤になっているこの子の頬を優しく人差し指で撫でる。


「でも、その…ボクの場合は仮契約のあの接触が大きかったのはまず間違いないですね。実際、相性が悪すぎると、レッド姉さまの腕みたいに腫れあがってしまうことになるので」

「あー…そういえば、クオレさんも激痛がどうのこうの言ってたっけ。仮契約んとき。あんときのリディちゃん、痛がってたわけじゃなかったんだ」

「…まぁ、そういうことです」

「ふーん」

「なんで嬉しそうなんでしょう」


 ペリドットがミスティラポロを見ると、どういうわけか優しい目でこちらを見てきているのが気にかかった。こんな目を向けられたことは、多分、兄弟自動人形にだってないことだ。


「なんでだろうね」

「…ラポロさん」

「ん?」

「それで結局のところ、ボクが知らなかったことは、ボク以外の兄弟の誰には話してありますか?」

「俺から話したのは、ヘリオまでの上の子たちと、下の子たちだとジャスパーだけだね。それ以外は、事情知ってる各自に一任してる」

「それはどうして?」

「どこからクオレさんに話が漏れるかわからないから、っていうのがデカい。そうなる前に、なるべく早く『楽園シリーズ』に運命のオーナーを見つけ出すことが目的だ。良くも悪くも、自動人形は純粋だからなぁ…」

「純粋…ボクもですか?」

「実際そうじゃん?」


 ミスティラポロが、さも当然というような感じで言った。そのことに、ペリドットはちょっと嬉しそうに笑った。


「…ラポロさん」

「ん?」

「お腹、いっぱいになりました」


 話している間に、ペリドットはカップサラダと二つある惣菜パンのうちの一つを完食し終えた。グラスの水も飲み干してある。


「そっか。えっと、一応聞いておきたいんだけど、それ、好みの味じゃなかった?それとも、量が多かった?」


 ペリドットが完食したのは野菜多めのカレーパンで、もう一つ残されていたのはソーセージが大きくはみ出た惣菜パンだった。


「…ごめんなさい。実はまだわからないんです」


 ミスティラポロからの問いかけに、ペリドットは困ったような表情を浮かべつつ、ゆっくりと考えたあと、その言葉を返した。


「わからない?」

「ボク、ずっと姉さんが好きなもの…同じものしか食べてこなかったので」

「(ああ、だいたい父親シャヘルのせいかな)…そっか。じゃあ、今度から好みの味、見つけよっか」

「!はい…」


 ペリドットのホッとした安堵の表情を見て、ミスティラポロは痛々しいような気持ちになった。もしかしたら、この子はどこかで自身の返答次第でミスティラポロから怒られることを恐れていたのかもしれない。


(…まいった…この子のこの状態が可愛いと思っちまうくらい俺って歪んでたのか…)


 彼はそんな風に思いながら、ペリドットの額にキスを一つ落とした。


〓〓〓〓〓〓〓〓


 本日の自動人形工房『人形の微睡』では、帰宅しなくなった『楽園シリーズ』が一体、出払っている『楽園シリーズ』が七体、残っている『楽園シリーズ』が三体、という割り振りだった。


「あれ?ジェット兄、帰ってくるの早くない?」

「ああ。用事があってな」


 世間向きは人間として騎士団で働いている第3自動人形・ジェット。そんな彼が、早く帰宅してきたことに疑問を持った第6自動人形・カルセドニーは、玄関先で声をかけた。

 カルセドニーはちょうど、自室から広間のほうへ行って、メイドに冷たい飲み物をいれてもらおうとしていたところだった。そのため、二体で連れ立って、広間へやってきた。


「ジェット兄のお勤め先-騎士団-に、『星見人の百合』元隊長の手紙が…?」


 お目当てのアイスティーを一口飲んだカルセドニーは、ソファに寝転びながらジェットのほうを見やった。髪型が崩れるためか、いつものポニーテールはほどいている。さらさらとしたミルキーパープルの髪が、カルセドニーの顔や首にはりつく。そんな状態で、いつもどおり白いワイシャツにしているミルキーパープルのリボンタイをきっちりとしているのは、シャヘルに見つかると色々と面倒だからだった。

 この暑さに加えて、お説教まで喰らいにいくなど、ドМどころの話ではない。

 夏と言い切るにはまだ早いとはいえ、暑さは日に日に増しており、人間と同じく汗をかく自動人形もまたじんわりとした汗をかいていた。


「ああ。そのため、今日は早帰りして、午後より面会する予定である」


 今日のジェットの短髪の黒髪は汗でさらにつんつんととがって見える。カルセドニーはそれを見て、内心、(触ったら刺さりそうだな)と思っていたが、言葉にはしなかった。


「それって、パパは…」

「教えてはいない。だが、父上は見ていないようで見ていることが多い。部分的には勘付いているだろう」

「罰を受けるかも…」

「そのときはそのとき。だが、一応聞こう。カルも一緒に参るか?」

「え」


 兄からの問いに、カルセドニーの表情が凍った。ペリドットが目覚めるまではシャヘルからの冷遇で委縮する立場にいたのはカルセドニーだったからだ。


「運命のオーナー探しの手がかりになるやもしれん。俺はそのつもりで行く」

「運命のオーナー…っだったら、ゴッチたちも連れてかなきゃ」


 運命のオーナーという単語を聞いて、必死さを隠さないカルセドニーが身を起こした。



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