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好みと第一印象と実際


「っ…これ…球体関節…」


 ペリドットは驚きと共に彼の肘に移植された球体関節へ手を添えた。移植痕はどこか痛々しく、この子の表情には心配が滲んだ。


「あ、やっぱ気付いてなかったかー。昨日の晩はいっぱいいっぱいだったもんねー」

「そんなことはどうでもいいです!なんで、なんでこんな…」


 うろたえているペリドットに、ミスティラポロは目の前でその関節を反転させると、そこに現れた鍵穴へこの子の手を触れさせた。


「これでわかる?」

「!ヘリオ兄さまとジャスパー兄さまの、魔力…なんで、戦闘時以外で同期していることなんてないはずなのに…」


 ミスティラポロの体の中に巡っている魔力が彼のモノだけではないことに気づいたペリドットは、目を見開いて驚くだけだ。


「俺にはそれが必要だったわけよ」

「え?」

「極論になるけど、普段からリディちゃんよりも弱いんじゃ、何かあったときリディちゃんを守れないからさ」

「は…ぇ…ぁ…」


 腕の球体関節へ触らせるため、すぐそこにミスティラポロの真面目な目があり、それを真正面から受け止めてしまったペリドットは、一気に顔が赤くなった。

 この男、真剣な表情をここぞとばかりにタイミング良くペリドットへ突き刺してくるものだから、良い意味でこの子が冷静になる暇を一切与えない。

 ペリドットの様子をそのまま放置して、ミスティラポロは空間魔法でさっといくつかの複製鍵を取り出した。


「ヘリオから契約鍵と調整鍵の作り方を教えてもらって、そこからこの複製鍵を作った。それと並行して、鍵穴付きの球体関節を移植」

「っ危険すぎますよ…」


 ペリドットは未だ顔の熱が引かないままだが、それでも彼の移植痕をゆるゆると撫でている。なんとなく、くすぐったかったらしいミスティラポロがやんわりとこの子の手をつついて撫でるのをやめさせ、反転させたままだった球体関節を元に戻して鍵穴を収納した。

 彼が片手で包帯を巻こうとするのを、ペリドットが止めて、代わりに球体関節を隠すように巻き直す。


「自動人形の人工パーツを人間に移植することは、最近じゃ珍しくもない。それに、この鍵穴付き球体関節移植は前例があったし」

「前例?」

「星見人の百合、元隊長のフリデリケ・リーリエ・ヴェスト。彼女の場合は複製鍵が無かったから、調整鍵と調整鍵のスペアでどうにか相棒のハーゼと常時同期した状態を保っていたみたいだ。俺がこの球体関節の移植ができる人間を探して、その伝手をあの人に依頼したときにお互いの事情を知ってさ。俺からは第3自動人形・ジェットの複製鍵を、彼女からはその見返りに無料で球体関節移植を担っている治癒師を紹介してもらった」

「それは、ヴェストさまも、『赤夜光』対策を続けるために…?」

「だろうねぇ。部隊を全滅させちまったわけだし。それでまぁ、ヴェストさんも俺が想定してたような球体関節と鍵の使い方をしてたから、移植に踏み切っても大丈夫か、と思って」

「…」

「それに、この方法なら、運命のオーナーでなくとも他の自動人形の力を使えるし」

「あの、この方法って、お父さまによりも、この国に知られることのほうがリスク高い気がするんですが。なんか前に、宰相が『転魂魔術』で人間の魂を戦闘向きの自動人形とか装甲兵に封入して軍隊作ろうと国王陛下へ進言していましたし」

「は?!マジで?!」


 本業の情報屋としては、ペリドットが話したそれは、見過ごしてはならない大きすぎる情報だった。


「でも、『転魂魔術』は人間の魂への負担があまりにもかかるので、アクア兄さまがちゃんと説明して諦めてもらったんですけど…でも、こんな方法があるのだとしたら、またバカなことを考える人がでてきてしまいます…」

「言うつもりもないけど、まぁ、何が原因で露見するかわかんないもんな。一応、何か手を打っておくか…」

「そのほうがよろしいかと」

「うん。で、この時点で気づいてると思うけど、俺とヘリオやジャスパーの間には契約関係はないわけ」

「…はい」

「その代わり、俺はあいつらの運命のオーナー探しを手伝った」

「それってどうやって探したんですか?」


 ペリドットはなんとなく、兄二体の様子から運命のオーナーを見つけたのだろうとは思っていたが、その経緯を全くもって知らされていなかった。

 直球に投げられたその質問に、ミスティラポロは少々目を泳がせる。


「…リディちゃんが怒ると思うけど、この際だから正直に話しとくわ。まず、綺麗なねーちゃんがいっぱいいる店に連れてった」

「は?」


 ぴきっ。


 瞬発的にペリドットの視線に殺気が纏わりついた。だが、ミスティラポロにはそれが想定の範囲内だ。


「あー、やっぱり怒った。何もそういうことするお店ばっかりじゃないから安心してよ。あいつらの好みの外見を知るためだったわけだし」

「…だからって…」

「ごめんごめーん。ほんとごめん。あとで怒っていいから、とりあえず、話だけ続けさせて」


 ミスティラポロは謝り倒しながら、見るからに拗ねたペリドットのふっくらつやつやとした唇にカップサラダのトマトを押し付けた。


「んむ…もきゅもきゅ…んく…わかりました」

「うん。ごめんね。それで、ヘリオもジャスパーの外見上の好みはそれで掴んだから、あとは情報屋仲間の伝手を使って、人探しのテイでキャラ濃い目の女の子から順番に当たっていったわけ」

「キャラ濃い目…?」

「ヘリオもジャスパーも、というか、『楽園シリーズ』の自動人形自体、どっかクセが強いからさ。クセつよにはクセつよをぶつけたほうが早いと思って」

「その法則でいくと、ボクもラポロさんもクセつよってことになりますけど?」

「…それでさー」

「あ、誤魔化した」

「そこはそこで流してー」

「はいはい」

「そんでまぁ、色々と当たってってみたら、ヘリオのほうは『嘆きの塔』の管理人の一人で通称『監獄姫』って呼ばれてるリノス・ナヌリズマ。ジャスパーのほうは二番街の異国料理屋『沙羅双樹』のヒノトっていう看板娘に反応した」

「へぇ…って、ん?『嘆きの塔』って囚人を収監してる塔ですよね?」

「そ。だから、『監獄姫』。…ていうか、面白いのがさぁ。最終的にヘリオもジャスパーも、最初の外見上の好みとか一切関係なかったんだよね」

「え?」

「ヘリオは最初いわゆる清楚系がいいって言ってたんだけど、『監獄姫』はめちゃくちゃ気が強そうな妖艶系だし、ジャスパーは明るい子がいいって言ってたけど、ヒノトちゃんは奥ゆかしい感じのしっとり系、みたいな」


 ミスティラポロが説明する兄二体の運命のオーナーの印象を聞いて、ペリドットは目の前にいるこの男の第一印象がとても最悪だったことを思い出した。



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