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こうして魔界は誕生した


『その子は…自動人形?』

『いや、天使だ。”神々”からこの地に派遣された勇者のための天使…』

『勇者と天使…じゃあ、貴方は…』

『ザイという。こうなったのはすべて、僕が最初に勇者としての役割を拒絶したことが原因だ。貴女の一族が滅ぶに至ったのも、僕のせいになるといってもいい。それでもお願いしたい。リリスを元に戻してほしい』

『…私の知る限り、召喚の儀については”神々”からこの帝国に対して警告が出ていたはず。それでも行ったのは帝国よ。貴方には拒絶できる権利があったのではなくて?』

『!!』

『これでも、”神々”の一人とは腐れ縁でね。任せて。すでに残り少ない私の命と引き換えにしてでも、直してみせるわ』

『すまない…』


 こうして、ホーク第二皇子の命は、ブレーム皇帝の軍が見つける前にプシュケの手によって摘まれた。


 けれども、これですべてが終わったわけではない。


 ホーク第二皇子の部下たちはザイが薄い魔素に包んで気絶させておいたのを縛り上げた。彼らを全員ブレーム皇帝の軍へ引き渡すと、その後方からやってきたブレーム皇帝とサフィール皇太子は三人に青ざめた表情で謝罪した。


 それから、魔素に染まった今のザイは、勇者としての枠組みから外れた存在となってしまい、浄化はおろか崩落補修すらできないと説明があった。

 勇者をこうした状態にさせないためにも、勇者のための天使は存在していたというのに、それを奪ったホーク第二皇子は悪手も悪手を打ったのだという。

 そんなホーク第二皇子の愚行に巻き込まれた挙句、プシュケとサガ以外を残して全滅したクオレ一族に関しては、本当にかける言葉が見つからないため、彼らは謝罪を重ねるしかない。

 ホーク第二皇子の首で済めば良かったのだが、もちろん”神々”はチイイダリムネ帝国を許してはいなかった。

 というのは、ホーク第二皇子の件で帝国の民草が紛糾している最中に、再び“神々”の神託が再び帝国内の全教会に降りてきたのだという。


 曰く、ホーク第二皇子の行った補修は不完全であり、約一年後の朱色の月に差し掛かる頃にはまた帝国全土を巻き込む大崩落に見舞われる。だが、"神々"の力で帝国の民すべてが避難するまでの加護を授けるし、避難先への交渉はすでに終えているため安心してほしい、というものだ。

 帝国全土の崩落から逃れることは、ホーク第二皇子の愚行糾弾よりも、帝国の民にとって一大事になった。


 ブレーム皇帝とサフィール皇太子は責任を持って、属国である隣国へ帝国民を避難させることを決意し、その助力だけでもしてもらいたい一心でザイの元へやってきたのだった。

 ザイはそれを了承した。元より“神々”から、役割を拒絶しても良いという言葉は貰っていたものの、自身が勇者という役割を放棄した結果、大きな犠牲が生まれてしまったというのは事実だったからだ。


 魔素を取り込んだザイは、勇者という枠組みから、魔王という枠組みに変化していた。魔王はエルフ並みの長命種に分類される。もしかすると、不老不死かもしれない、という曖昧な定義を持っている。

 読んで字のごとく、魔の王であるからして、渓谷に住む魔獣や魔物たちは皆、ザイの命令を聞いた。

 おかげで、全ての避難民たちは、身の危険なく隣国へ移ることができた。


 帝国の民が避難を開始した頃。プシュケはまず、工房の焼け跡をひっくり返した。

 流石と言うべきか。プシュケの依代を務めていた他の10体の人形はすべて無事だった。その他にも、人形用の衣装はすべて燃え尽きていたものの、彼女の一族が創り貯めた人形のパーツや人工精霊、魔術回路などはすべて無事だった。

 リリスに足りないパーツはすべてそこから補うことができた。


『これが私の最期の仕事…サガ、よく見ておいで。大ばばのこれまでの人生全てを注ぎ込んだ仕事を。お前が引き継いでいく一族の仕事を』


 リリスの修復を最期の仕事だと評したプシュケは、自身とサガ以外のクオレ一族が全滅する少し前から、人工声帯を介して会話することができにくくなっていた。人工声帯は魔術回路を操作するため、それを介さない発声よりも魔術を消費しやすく、また、疲れやすくなっていたのだ。

 人工声帯を介さない彼女の声は、魂の年齢に吊りあった“田舎のおばあちゃん”といった風情を滲ませたものだった。


 プシュケの手によって復活したリリスは、天使の羽根の代わりに黒い羽根を背負うこととなったが、再びザイの元へと戻ることができた。


 それから、プシュケは一族の者たちすべての墓を造り、最後に自らの墓標もそこへ立てた。


『さぁ、サガ。これが私の最後の愛情だ。持ってお行き』


 実質的な不老と言えど、エルフほどには生きられない。

 プシュケはそれがわかっていたからこそ、一族にその技術を遺そうと考えていたし、最後のクオレ一族となってしまったサガには徹底して全てを教え込んだ。

 サガは『人工精霊創造』と『状態保存』のスキルは習得済みだったが、造形に関する『美容整形ガチ課金勢』のスキルは持っておらず、『状態保存』のスキルを『転魂魔術』のスキルへ進化させることが出来ないでいた。

 間に合わないと判断したプシュケは、すぐにザイの力を借りて、レアスキルである『スキル譲渡』を持っている人間を呼んでもらい、『美容整形ガチ課金勢』と『転魂魔術』を譲渡した。


 実を言えば、彼女の生きている間に、『美容整形ガチ課金勢』『人工精霊創造』『状態保存』のスキル習得へ至った者は数名いたのだが、『状態保存』を『転魂魔術』へ進化させた者は一人もいなかった。


 レア中のレアスキル『転魂魔術』は、プシュケが最後の子孫に与えられるたった一つの愛情だった。


『さて…ザイ。あとはサガを隣の国へ連れていっておくれね。重ねて申し訳ないのだけれど、この子が15歳で独立するまでは、度々様子も見てやってほしい』


 全ての技術や魔術をサガに譲り渡したプシュケは、最期の最期にそう頼むと、椅子に座って目を閉じ、やがて物言わぬ人形となった。


 寿命が、その瞬間に訪れた。

 ただそれだけのことだったが、まだ幼かったサガに大きな孤独感や寂しさを与えるには充分すぎた。

 彼は一族の遺した人形のパーツと、プシュケが『転魂魔術』で依代にしていた人形十一体を持って、ザイとリリスに伴われて隣国へ渡った。


 やがて、神託通りにチイイダリムネ帝国全土の大崩落が起こった。


 三大大陸の一つ、宵闇の大陸の地図は大きく描き変わったのである。

 チイイダリムネ帝国は一日で消滅し、大崩落によって一層下の国が出来上がった。

 魔素に満ちたその地は”魔界”と呼ばれるようになり、魔界を創り上げてしまったザイは魔王と称され、その魔界を“シズカノクニ”として建国した。

 これに関しては、ばらばらに存在した属国をミクスボウルとして新たにまとめ上げたブレーム皇帝やサフィール皇太子とも様々な盟約と共に話がついている。


 ザイは、サガが15歳で独立するまでの間、配下である魔獣を護衛として渡しておいたが、ある日その魔獣は魔界へと帰ってきた。

 人語を解するその魔獣は、『サガは番ができて、白昼の大陸へ旅立った』とだけ報告をした。


 しかし…


 もしもザイが、白昼の大陸へ移住したサガと連絡を取り合っていれば、そして、サガの息子の誕生と成長までをある程度見届けていたのなら、きっと、これから起こる物語は始まることはなかっただろう。



 ここから始まるのは、異世界転生も異世界転移もざまぁも復讐もハッピーエンドも終えた物語。

その先にある物語だ。




第一章 終


第一章はここまでとなります。お疲れ様でした。

第二章からはサガの息子で、題名にある天才自動人形師のシャヘル・クオレ寄りの視点で物語が展開します。ヒロインの自動人形であるペリドットが創作されるまでを書きたいと思います。

第二章の更新は来週の月曜日(2022年9月12日)です。

連休中には第三章でようやく主人公のラポロが出せるかと思いますので、よろしくおねがいします。

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