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盲点だったこと


「あんたら、いい加減ここじゃない場所で話してくれないか」


 ペリドットがいなくなったあとには、デカい男三人しか残らなかった。

 宿屋の主人は変な噂が立ちそうだからと三人をとりあえずミスティラポロの部屋へ引っ込ませた。


 ただ、備え付けの椅子以外に座る場所がないからと椅子を二つ持ってついてきてくれた。

「椅子は後日返せ」とだけ告げて、宿屋の主人は立ち去った。


「貴方がペリドットの仮オーナーさんだね」

「まぁ、一応?さっきので認めてくんなくなったかもしんないけど」


 ミスティラポロは頬をかきつつ、ペリドットの二体の兄自動人形たちから目を逸らした。

ここにペリドットの身内がやってきたということは、あの子の言っていた通り本契約候補との顔合わせなのだろうと思った。

 かと言って、先ほど彼らと遭遇した状況があまりにも気まずいものだったのだが。


「うーん、なんというか、あの態度は申し訳ない。あの子は生まれて数か月しか経っていないから…男型とはいえ、内面が少年にもなっていないというか…うん、とても繊細なんだろう」

「え」


 ヘリオドールにとっては、ペリドットはまだ『子ども』の区分に入る。

 いきなり予定外のことを口走って仮オーナーや自分を混乱させたことに関しても、ペリドットが少年にすらなっていない情緒を持っているからで、人間というか、男性のそういった遊びに疎いからだと思い込んでいた。

 対し、ミスティラポロは一度確認せねばならないような、重大なことをあの子の身内から聞かされたような気がして、思わず聞き返した。


 生まれて数か月…?いや、それ以前に自動人形という存在に未成年者や成人というものは適応されるものなのだろうか。


「あの子は末っ子で、今年に入って父に作られたばかりだよ。私たちは見た目年齢に則した行動を取れるようにはなっているけれど。ペリドットの内面はまだ人間の子どもに近いね。私たちはだいたい三年くらいかけて内面が完成するから」

「一応確認しときたいんだけど。つまり、あの子、自動人形における未成年者…?」


 表面上、ミスティラポロの顔色は変わらなかったが、彼は思い切り血の気が失せていく心地がしていたし、嫌な動悸で体全体がバクバクし始めて冷や汗が出てきた。

 そんなこと、シャヘルから聞かされていた覚えがなく、仕様書兼誓約書にも書いていなかった気がする。

 彼は絶対未成年者には手を出さないと決めている。この国での成人は15歳だが、それでも彼には子ども過ぎる。


「未成年者、といえるかどうかは人間の考え方次第かな。一応、見た目年齢というのはあくまでもうちの父の作った指標であるから。兄弟の中には、見た目年齢が幼いものもいるけれど、内面がとても大人の自動人形もいるからね」

「…はー…(自警団のみなさん、俺です。俺を捕縛してください)」


 ヘリオドールから聞かされた説明に、ミスティラポロの心の中にある『大人としての罪悪感』が強く殴打された。

 おそらくヘリオドールたちはミスティラポロとのことを何もペリドットから聞かされてはいないだろう。

 それでも、彼は自身の中で線引きして避けていた『未成年者には絶対手を出さない』というタブーを完全に犯しはしなかったものの、思い切り踏みつけるようなことをしていたことに愕然としているのだった。


「あ、そうだ。自己紹介がまだだったね。私はペリドットの兄で、第4自動人形、ヘリオドールだ。よろしく」

「第7自動人形、ジャスパーだ。今日は兄と弟の護衛でついてきた」


「ああ、はい。ミスティラポロ・ノイネーティクル。一応、アンタらんとこの末っ子…ペリドットの仮オーナーやってんよ」


 ミスティラポロは初対面の相手には敬語を使うタイプではあるのだが、ヘリオドールとジャスパーが普通に敬語なく話していたので、それに則った。

 彼はこの際、ペリドットのことは一旦置いておくことにした。ここであの子とのことを二体に打ち明けて話がこじれるよりかは何倍もいい。


「改めて言わせてもらいたい。夜に押しかけてきて申し訳なかった。なんというか、今日の夜のお相手との邪魔までしてしまった」

「あー、いーっていーって。気にしないで。『赤夜光』との初戦が上手くいって浮かれてただけだから」

「しかし、お相手が…」

「あの子はそういう商売だから。多分気にしてないって」

「なら、いいのだが…」

「それで、御用件は?こんな時間から本契約候補として顔合わせとか?」

「いや、それはない」

「は?」


 ミスティラポロはちょっとびっくりしてヘリオドールを見た。てっきり、ペリドットが言っていた通り彼が本契約の自動人形候補だと思っていたからだ。


「仮契約、とは言うが、貴方はペリドットと契約をした」

「まぁね」

「人間の感覚ではわからないだろうが、自動人形にとっての契約というのは、とても重いものだ。ペリドットのように、三年経過していない子どものような自動人形であれば尚更。それこそ、本来ならばうちの父こそ理解して、契約者に教えていなければならない前提条件なんだが…」

「待って。それだけ聞くと、クオレさんは天才自動人形師という肩書持ちでありながら、自動人形のことを理解していないってことになるけど?」


 ヘリオドールの言葉にミスティラポロは鋭く突っ込む。


「実際そうなんだ。父は私たちのことを理解していない」

「はぁああああ?!」


 椅子に座っている状態から前のめりになるようにミスティラポロが叫んだ。

 それと同時に、調整用特殊鍵の存在が思い起こされた。あの調整用特殊鍵にはシャヘルも理解していないという術式が組み込まれていた。

 自動人形の動作にも関わってくるものだとペリドットが説明していたが、そんなに大事な術式を理解できていないわけがないはずだが…


「すまない。そもそも、詳しいことは私たち自身もよくわかっていないんだ。ただ、契約という行為に関しては本能が知っていると言えばいいのだろうか」

「本能…」

「自動人形としての特性なのか、精霊としての特性なのかはわからない。ただ、自分が選んだオーナーの願いを叶えようとするのが私たちなんだ。例え、願いを叶える力が無くとも、最良の結果をオーナーへもたらそうとする」

「それってさー、前から思ってたんだけど、ほんと?『赤夜光』は精霊としての特性の突然変異種だったよな?そのレプリカである人工精霊が封入されている『楽園シリーズ』は、同様に願いを叶えずに絶望させる個体なんじゃないのか?」

「まさか。だとしたら、私たちは大元の契約者である父、シャヘル・クオレを最低でも十一回は消滅させていることになる。私たち自動人形を起動させる度に願いを聞かれていたはずだからね、あの人は。手元に置いておきたいだけなら起動させなければいい話なのに」


 ヘリオドールが言うように、だからこそシャヘルという自動人形師の行動にはひっかかる部分のほうが大きい。

 負担の大きい契約をあえて重ねた理由は何なのか。


 ミスティラポロにこうした事情を話しているヘリオドール自身も、シャヘルには不信感を抱いているのだった。


「…ふーん。まぁ、俺からしてみれば、クオレさんの話も、アンタら自動人形の話も胡散臭いんだけどね」

「どちらも信用できないのはわかる。けれども、私が貴方と今日話したいのはそうしたことに対する弁解でもなく、ただ、ペリドットとの仮契約についてなんだ」


 ヘリオドールとしては、痛くない腹を人間から探られたくはない。今日はペリドットのためにここへ来たのだから。



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