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しくじりと修羅場


 末っ子の一大事だ、と言わんばかりの上の兄弟自動人形たちの勢いに押され、ペリドットはヘリオドールとジャスパーを『三つ首塔』まで案内することになった。

 この子にとっては初めて他の兄弟自動人形と外へ出かけることになったのだが、経緯が経緯だけに気が気ではない。

 いったいどんな話の切りだし方をするのかという点でもひやひやしていた。ところが、『三つ首塔』の主人に聞いたところ、ミスティラポロの部屋にはまだ彼は帰ってきていない、とのことだった。


「彼はどこに行ってるんだ…???」


 ヘリオドールはこてんと首を傾げる。

 ジャスパーも仮面をしたまま、両手をくいっとあげて、わからない、と意思表示する。


「あ…」


 ペリドットだけには心当たりがあった。


「どうしたんだ、ペリドット。彼がどこに行っているのか見当がついているのか?」

「…多分、お父さまがおっしゃってた場所…」


 この子はもにょもにょと言葉を濁した。


「どこなんだい?」


 シャヘルの思惑を汲むのであれば、おそらくミスティラポロが本契約する自動人形の候補はヘリオドールだろう。

 どうせ本契約するのなら、この際、ミスティラポロの行動範囲などを話しておいたほうがいいのかもしれない。


「ユウガオ通りの…どこかの娼館…?」


「おや」「あー」


 兄二体は何とも言えない反応をした。

 この二体、様々な事情から女性の体を知っている上、表向きの同僚と共にそうした店にも随行することがある。

 二体にとって、まだまだ『子ども』であると認識している末っ子にはどう反応するのが正しいのかわからないのだろう。

 その末っ子の、仮オーナーとの普段の行動を把握していないからこその反応とも言える。


「だから、もう帰りましょうよ、兄さまたち」


 ペリドットは二体の兄の服の袖を引っ張って帰宅を促す。だが、この二体の兄、びくともしない。


「うーん…」

「まさか、ユウガオ通りに探しに行こうなんて思ってないですよね?」

「え?行かないのかい?」

「だって、娼館のあるような場所ですよ??お父さまに知られたら怒られます」


 むん、と怒っているようなシャヘルの真似をしてみせるペリドットにヘリオドールは噴き出し、ジャスパーは狼の仮面越しに「…?もしかして、ユウガオ通りにある娼館を片っ端から調べていくと思っているのか?」と問いかけた。


「はい、それしか方法が無いじゃないですか」


「…ヘリオ兄上」

「うん。直球に言いたくはないけれど、お父さまは本当に性格が悪いね」


 どう言ってあげればいいかわからなくなったジャスパーがヘリオドールを見ると、彼は大きく頷きながら核心を述べた。


「ペリドット、君は『繋がりを辿る』ということをしたことがないのかい?」

「繋がりを?」

「うん。オーナーと自動人形が契約したら、オーナーの魔力と繋がりができるだろう?その繋がりを辿れば、オーナーの居場所を簡単に探すことが出来るんだよ。目を閉じて、一回やってごらん」


 ヘリオドールに促されたペリドットは、目を閉じてミスティラポロの魔力を自分の中に探した。


 すると、中にあるものとは別に、外側まで繋がっている何かを発見した。


 ああ、これだ。と思ったペリドットはその気配を追う。


「あれ…?だんだん近づいてくる」

「そうなのかい?だとすると、この宿に帰ってきているのかもしれないね。しばらくここで待っていよう」

「え」

「何事も早く解決したほうが後々ずるずると長引かないものだよ」

「…」


 ヘリオドールとジャスパーに伴われ、ペリドットは近づいてくるミスティラポロの気配を待った。『三つ首塔』の主人は受付から、そんな三人を不思議そうに眺める。


(あ、来る…)


「おっちゃんただいまー!今日ね、この子と泊まっから一人分一泊追加料金いくらー?」


 酒が軽く入ったような陽気な声音で、ミスティラポロは宿へ戻ってきた。


「…っ」


 ペリドットは息が止まるのを感じた。

 彼の隣には、細身で長身の女性が佇んでいる。


「ラポロ!お前何かしたのか?」

「え?」

「あちらさん、ずっとお前を待ってたぞ」


 宿屋の主人に言われてペリドットたちのほうを「んー?」と振り返ったミスティラポロが、「あー…」とゆーっくりとまた主人側に体の向きを変えていく。

 明らかに気まずいのだということを前面に押し出した反応だ。


「だいたい、あの美少年、昼間によくお前が連れ込んでる子じゃないか。その横の騎士団服のにーちゃんを見てみろ。そっくりな男前だ。多分兄弟だぞ。痴情のもつれか?」

「いやいやいや、違うっていうかー。違わないっていうかー」

「いいから話してこい!受付周りにずっといられたんじゃ商売の邪魔なんだ」

「はーい」


 ミスティラポロはとりあえず、ペリドットのところまでやってきた。


「…こんばんは、ミスティラポロさん」

「こ、こんばんは。えっと…さっきぶり?」

「そうですね」

「あー、えっと、用事かなんかあった?」

「…いえ、その…」


 気まずい空気が一体と一人の間に流れる。

 そこに、ミスティラポロが連れてきていた女性がとことこと近づいてくる。


「ラポロ、変な修羅場になるなら私帰るから」

「え、タチアナ。そりゃあないって」

「だいたい、あんたの相手するのって三日分の稼ぎが無くなるのと一緒なんだよね」

「は?そんなに???」

「じゃーねー」


 手をひらひら振りながら、彼女は宿から出ていく。


「ごめんなさい、ボクが邪魔したから」


 暗い声音のペリドットがミスティラポロに謝った。


「いやいやいや、謝らなくていいから!ごめん、俺てっきり今日はもう来ないと思ってたから、外に遊びに…」

「先に連絡を入れるべきでした。すいません」

「だから、謝らなくて大丈夫だって。むしろ、この状況は俺が謝るべきなんだって」

「…」

「えっと…それで、何かあった?そっちの二人は…」

「兄たちです」

「あ、おにーさん。そっかー」


 やはりの身内登場に、ミスティラポロの声が変なトーンで発されている。彼は誰の目から見ても分かるように動転していた。

 しかし、動転していたのは彼だけではなかった。


「あの」

「うん」


 ペリドットもまた、色んな情報と感情が処理しきれずに動転していた。

 自分でもどうしたいのか何を話したいのかなどわけがわからなくなり、とにかく、この場から離れてしまいたかった。


「ミスティラポロさんの本契約候補が決まりましたので、連れてきたんです」

「ペリドット?!」


 最終的にペリドットの口から発されていたのは、ここへこの子を連れてきたヘリオドールすら予測していなかった言葉だった。


「あちらボクの兄の、第4自動人形、ヘリオドールです。よろしくお願いいたします」

「え」


 棒読み早口のペリドットがヘリオドールの存在を示せば、ミスティラポロの目は混乱して動いた。

 ヘリオドールもペリドットが何故決定もしていないことを口走ったのかが分からず、困惑した様子で一体と一人を見ている。


「それを、お伝えしたかったんです。ただそれだけです。仮契約満了まではボクが来ることになりますが」

「ええええっと…」

「じゃあ、おやすみなさい」

「は??」


 吐き捨てるような勢いだった。

 ペリドットは言いたいことだけを言って、そのまま兄二体を置いて、転送で工房へ帰っていってしまった。

 誰も呼び止める暇すらなかった。

 ただ、ペリドットが転送したときに、宿屋の主人が帳面の整理のために後ろを向いていたことが幸運だった。もし見られていたら、驚かれていただけではすまなかっただろう。


 ミスティラポロはわけがわからないまま、ヘリオドールとジャスパーのほうを見た。

 こちらも二体とも、ペリドットの様子に困惑したようで、ミスティラポロのほうをみてくるだけだ。


 宿屋の受付でデカい男三人が見つめあうだけの謎の光景が爆誕した。




第四章 終


第四章終了です。

ここまでお疲れ様でした。


最後の光景に関しては、ナニ〇レ珍百景のBGMと共に再生してください。

また、男一人と男型二体ではなく、男三人となっているのは、宿屋の主人から見た勘定です。


さて、次回からはもう少し『赤夜光』を絡めていけたら良いなと思っております。

ミスティラポロの本来の目的がそちらなので、そこから生じた彼の中にあるトラウマを書いて、そのトラウマからの逃避先であるペリドットと絡めて…みたいなことをしていると、一日がすぐ消化されています。

もっと書く時間が欲しいです。

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