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兄弟姉妹の食卓・2


「あんさー、ヘリオ兄。別にさー。お祈りの言葉なんて、どうでもよくなーい?あーしたち、人間じゃないんだからさー」


 兄弟一の生意気美少女、とはシャヘルが付けた称号だ。心底気だるげで、世界のすべてに飽きているとでも言いたげな声が特徴だ。全体的なイメージとしては白猫、といったところか。


 【Ultra Spin Tea Party】

 第5自動人形、アリス・ゴーシェ。通称、ゴーシェ、もしくは、ゴッチ。


 真っ白で肩までの長さの髪は櫛など必要ないほどサラサラ。一見すると、猫耳のようなものが頭部についているが、これはヘアスタイルに過ぎない。

 目元はそのヘアスタイルが象徴するように猫のようで、瞳はゴーシェナイトのような透明に近い銀色。瞳孔は紫色で、クローバーのような模様がくっきりとしている。

 鼻は他の兄弟自動人形たちよりもやや低めだが、それでも鼻筋は通っている。横から見た顔の輪郭が、一番可愛い盛りの子猫そのものだ。

 このアリス・ゴーシェも、シャヘルがアリス・リシアの次に溺愛していると言っても過言ではない。持っている衣装情報の総数はアリス・リシアと同じくらい。

 アリス・リシアとの衣装の違いは、アリス・リシアの衣装は清楚系が多いのに対して、彼女のモノは派手可愛い系。レースがふんだんに使われた白い衣装が多いが、ミニスカートに見せかけたホットパンツに見えるボトムスのモノが主だ。また、ニーハイソックスを好んで履く。靴は、真っ白なローファー。

 カラフルなネイルを毎日変更することが日課だ。


「そうそう。人間の真似ごとなんて、楽しいことだけ真似すればいいんだよ」


 何もかもを諦めているような声音の少年が、アリス・ゴーシェに同意する。なんというか、全体的にミルクを混ぜたラベンダージュースのような甘ったるい雰囲気がある。


 【Purple Candy】

 第6自動人形、カルセドニー。通称、カル。


 彼のモチーフとした宝石は主流のホワイト、ピンク、シーブルーといった色みではなく、特殊な色みのパープルカルセドニーである。そのため、髪も瞳もミルキーパープルの色彩が美しく映える。長いポニーテールに、眉上ぱっつんの前髪。ハイライトの無い瞳に、瞳孔の濃い紫色の鋭いスペードマークが不穏さを滲ませている。

 このカルセドニーとアリス・ゴーシェこそ『双子』と言っていいくらい顔の造形が似通っているのだが、雰囲気があまりにも違う。アリス・ゴーシェが陽であるならば、カルセドニーは陰。

 これは、アリス・リシアとペリドットが誕生するまで、アリス・ゴーシェがシャヘルの溺愛の対象だったのだが、その頃ちょうど今のペリドットのような扱いを受けていたことが原因だ。

 今晩の衣装は、白いワイシャツにミルキーパープルのリボンタイ、そして、リボンタイと同色のひざ丈の短パンだ。靴は運動しやすいものを選んでいるようだ。


「しかし、食前の祈りは父上が義務付けていることだろう?プシュケ・クオレの偉功を知れ、と」


 ややジェットに通じる生真面目さがうかがえる声音の青年が姉と兄二人を窘める。温かみのある赤褐色や橙色が目立つ印象を持っている。


 【MASQUERADE】

 第7自動人形、ジャスパー。


 彼は普段、シャヘルの依頼で外部における仕事を担当している。その内容は、兄弟自動人形たちにも伏せられている。家にいないときは狼のモチーフが装飾された仮面を着用しているため、外部の人間はジャスパーの本来の顔を知らない。

 今、仮面をしていないのは兄弟たちと食事をする場であるからで、彼もまた身内に負けず劣らずの美貌を持つ。

 髪色は温かみのある赤褐色で、シャヘルの少年期と同じようなぱっつんのおかっぱ。不思議とそれが似合っていて綺麗に見える。

 彼の切れ長の目にはモチーフの宝石となったレッドジャスパーのようなオレンジ色の瞳がはめ込まれ、瞳孔は蜻蛉の標本を貼り付けたような形をしていて色は濃紺。

 知性を感じさせる鼻筋に、薄い唇。

 今晩はもう誰よりも先に風呂に入った後らしく、ややオレンジ色に染めたシルクのパジャマ姿だ。これは、先述したアクアマリンと同様、シャヘルが食卓に参加しないことを見越しての格好だ。

 普段は差し色に橙色を使う程度のシックな装いをすることが多い。本自動人形は秘密の職業柄、オレンジ色がとても目立つことに抵抗感があるようだ。

 こういったところに、ペリドット以外はみんなシャヘルの知らないところではやりたい放題できているというのがわかる。


「そんなことで揉めている間に、食事が冷めてしまうわ。…『我らが祖。稀代の自動人形師、プシュケ・クオレ。未来までの我らの導き手よ。本日も人と自動人形が近しいことを感謝いたします』…さ、食べましょ♪」


 兄弟自動人形間の些細な揉め事をあっさりと掻っ攫っていったのは、この食卓にいる誰よりも大人びた声音を持つ『幼女』だった。この存在を知らない者が声だけ聞けば二度見してしまうことだろう。

 おまけに彼女の持つ色彩は、青、深緑、紫、と他の兄弟たちよりも豊かで、ずっと眺めていたくなる風情だ。


 【不滅華】

 第8自動人形、アリス・フローラ。通称、フローラ。


 レインボーフローライトをモチーフとした彼女は、その色全てを体に落とし込んでいた。

 青のウェービーロングヘアがふわふわとうねり、それをまとめるために頭の上部でツインテールにしている。人形でありながら、もふもふの感触を持つ最強の可愛さ。

 深緑の瞳の色が瞳孔の色と同じくらい濃く、瞳孔の三日月の形が一見してもわからないようになっている。

 鼻筋は通っているが、見た目が兄弟自動人形たちの中でも一番幼いため小さい。

 口元もとても小さく、喋るたびにちょぴちょぴと動く唇が愛らしい。

 今晩の衣装は、白を基調としたふわふわのドレスに、深緑の襟や袖口と裾のフリル、胸元の青く細いリボン、紫色のバレエシューズ。

 アリス・フローラは、彼女の幼い外見に合った素晴らしい衣装ばかりを持っているのだが、声やその身の内から湧き上がる雰囲気からしても大人の感性に近く、あまり好んではいないようだ。

 彼女自身、『私はシャヘルの性癖の一つよ』と自嘲していることが多々ある。


「やっと食べられるよ。ありがとう、フローラお姉さま」


 まるで舞台上の俳優のような素振りで、アリス・フローラへ頭を下げたのは兄弟で一番身長が高い青年だった。全体的に印象深い色合いは、赤みの強いピンク色ですぐ下の妹であるアリス・リシアとよく似ている。


 【Philia】

 第9自動人形、インカローズ。


 赤みの強いピンク色のやや長い髪を後ろへすべてながしているため、大人びたイメージが先行するが、実は前髪をおろすと若く見えるタイプの外見だ。

 目はインカローズのような赤みの強いピンク色で、瞳孔の形は薄ピンク色のハートマークのように見える。

 鼻筋も口元も整っているが、生真面目系お馬鹿の雰囲気がひしひしとにじみ出ている。

 衣装なども、今から結婚式でも行うのか、というような真っ白なタキシードで、小物などにモチーフカラーを差し色として使用している。

 アクアマリンの青いタキシードと普段着被りをしている、といちゃもんを吹っ掛けて、これまでに何回か喧嘩になったことがある。

 たいていは『青より白のほうがマシだろうがぁあああああ!!!』という、長男の絶叫と共に繰り出されるアッパーカットで強制終了する。

 アクアマリン曰く『考えてみろ。青でもちょっと怪しいのに、この色に光沢があったら間違いなく話芸師と勘違いされる。絶対新郎ルックのほうがマシだ』とのことだ。


 こうした個性豊かな九体の下に、アリス・リシアとペリドットは双子の自動人形として創作されているのだった。


 アリス・フローラが食前の祈りを強制的に済ませてしまったため、他の兄弟自動人形たちも似たような祈りを捧げて食事に匙をつける。



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