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アタリかハズレか

「ペリドットー?おーい、リドちゃん??んー…リディちゃーん?」

「…変な愛称で呼ばないでいただけますか?」

「え?可愛くない?リディちゃん。ちゃんと男の愛称でもあるし」

「…どうせ、一ヶ月で破棄される契約ですよ。そんな愛称を付けたところで何になりますか」

「えー」

「ボクは、お父さまと姉さんのための自動人形です。仮初のオーナーのために存在するわけじゃございません」

「はー、可愛くないねー」

「別にお父さま以外に可愛いと思われなくたってかまいませんし」


 そう言って、貼り付けたような微笑みを浮かべるペリドットの表情は、とてもシャヘルにそっくりだった。鏡から映し取ってきたと言われても違和感のないほどの表情の作り方に、ミスティラポロは少し納得がいかないようだ。


「なーんか、そういう感じ、お前の親父に似てんだよねー」


 スッと、彼の大きな手がペリドットの頭に伸びた。


「ひっ、ちょっと!!!何するんですか!!」


 わしゃわしゃと髪を無茶苦茶に撫でられて、ペリドットは大きい声で怒った。だがその直前、ペリドットがぎくりと体を固くして息をのんで体を庇うような素振りを見せたことに、ミスティラポロは気付いた。


「(ん?今のって…)一ヶ月は俺がオーナーなんでしょー?」

「それはそうですけど…っもう!!髪がぐちゃぐちゃになっちゃうじゃないですか!!」


 わしゃわしゃとペリドットの髪を撫でていると、シャヘルと似た雰囲気とはまた違った子供っぽさが全面にでてくる。

 ミスティラポロには、その雰囲気のほうが可愛らしいと思えるもので、ついつい口からは本音がこぼれた。


「お前の親父みたいにすかした感じで笑ってるよりはマシだと思うけど?」

「はぁあああ?!」

「ぅおっと?!」


 ぽこぽこと怒ったまま、ペリドットは体を全体的に下げて頭を撫でてくるミスティラポロの手から抜け出した。

 そして、一瞬だけ体を黄緑色に発光させると、また元通りの髪型に戻っていた。


「お父さまに言われなかったら、ボクは貴方なんかと契約してません!!」

「…だろうねー。でもさ、言われたんだから、ちゃんと仕事しないと、お前の親父さんもお前のこと見放すんじゃないのー?」

「…」

「少しはさー、契約した俺と人間関係…?築いた方が良くない?多分、そういうのも見てるよ、あの人」

「…」


 ペリドットの頬がぷくっと膨らんだ。黙っているところを見ると、不服だが、一応了承はしたらしい。


「あれ???意外に素直???」

「知らないです」


 外見に設定された年齢とはかけ離れた内面の幼さ。創作されてすぐに実用されることになった自動人形であるからこそ、まだまだ子どものようだ。

 ミスティラポロは、今度は怯えさせないようにゆっくりと隣へ行き、その膨れている頬をつついて空気を抜いた。

 ふしゅっと口から空気が抜けていく音がちょっと間抜けで可愛らしい。

 しかし、それからペリドットはミスティラポロが寝泊まりしている宿に着くまで終始無言を貫いた。


(はてさて、この自動人形はハズレか、当たりか…)


 彼がそんな風に考えたのは、シャヘルがあっさりとペリドットとの仮契約を持ちだしたからだった。

 おそらく、シャヘルにはペリドット以上に大事にしている自動人形が他にいる。そしてそれは、ペリドットの様子からして、ペリドットの姉とかいう自動人形なのだろう。

 ミスティラポロはどちらかと言えば、そちらのほうと仮契約を結びたかった気はしている。そのほうが、あのいけ好かないシャヘルには色んな意味で効果的だったろうからだ。


(はー、でも、こいつがハズレだったとしたら、相性を見て俺に渡される自動人形ってよっぽど使い勝手が悪いってことになるんじゃねぇか…?)


 なお、彼のこの予測は、一か月後に大当たりすることになる。


(意外にこいつを手元に置いておいたほうが、あいつ(シャヘル)の嫌がる顔が見られそう…)


 ミスティラポロもシャヘルも、互いが互いに初対面で『あ、こいつ、絶対嫌い』という第一印象そのままの会話を繰り広げたがために、相手が嫌がりそうな事物をうまい具合に考える方向で接していくことに決めてしまっているらしい。

 そんな二人の間に『どうでもいい存在』として放り込まれてしまったのが、ペリドットなのだった。


「なんですか、にやにやして」

「んー?アンタはクオレさんよりからかいやすいなぁーって思ってただけ」

「性格悪いですね、貴方」

「褒めただけなのになー」

「褒めてませんよ、全然」


 あのシャヘルの創作物にしては、ペリドットは恐ろしいほどに何も知らず、駆け引きすらできないほど脆弱だ。

 シャヘルとはたった数時間話しただけだが、狸も狸。まだ何重にもいろんなことを隠しているに違いない。

 だからこそ、少々の憐れみめいた感情が、ペリドットに対して浮かんでしまうのかもしれない。


 ペリドットは、シャヘルの言うことだけがすべてなのだろう。そこに、首を突っ込むような野暮はあまりしたくない。そこに、親友であるジェリコが絡んだミスティラポロの本来の目的は存在しないからだ。

 けれども、ペリドットのアンバランスな内面が目につくことが少しだけ腹ただしいのも事実だ。おそらく、そのほうが利用しやすいことは彼自身にもわかっていて、だ。


「あ、着いた。ここ」

「…うちより狭い…」

「そら、そうでしょ。あんな一等地の建物と一緒にしないでよ」


 ミスティラポロが住んでいる『三つ首塔』という宿屋は、外壁のレンガがボロボロで、大きさ自体も『人形の微睡』と比較にならないほど小さかった。

 縦に細長い、さらに奥行きがあるような、そんな建物だった。


「おもしろい建物…」


 初めて見るその場所に、ペリドットの瞳がきらきらと輝いた。どれだけ古くボロかろうと、興味を引くには充分すぎる建物だった。


「え?」

「なんでもないです。それより、あれが『三つ首塔』の由来ですか?」


 ペリドットの指さした先には、細長いポールの先に付いた球体に王冠が乗ったモノが三つ並んでいた。あれだけ見ると、確かに三つの生首が掲げられているようにも見える。


「へー。俺、ここに世話になって三年経つけど、初めて知ったわ、あれ」

「え?!住んでるのに気にならなかったんですか!?」

「仮住まいに対する思い入れなんてそんなもんだって」

「…そうですか」

「ま。でも、凄い凄い。面白いところに目ぇつけるじゃん」

「…いえ」


 ミスティラポロがペリドットを見やると、嬉しそうににぱりと笑っていて、シャヘルを真似しているようなあの気取った笑みはどこにも見当たらなかった。


(この感じだと、あの『父親』の前でも、気ぃ張ってんのかね…)


 シャヘルと駆け引きをしたミスティラポロでさえ、あの日、帰宅するとどっと疲れが出たのだから、毎日彼と暮らしているペリドットの緊張はどれほどのものだろう。

 むしろ、シャヘルの目に届かない所で過ごすペリドットの本質というものが気になった。

 試しに何も気にならないふりをして、家の中へと案内すれば、ペリドットは子どもみたいな興味を隠そうともしないでミスティラポロの部屋の中を見て回っていた。

 なんとなくペリドットが、初めて安心できている、と体全体で表現しているようにも見えて、自身が善人でもないと自覚しているミスティラポロは、自分の部屋にいるのに少しだけ居心地が悪かった。


 この時だったと思う。


 ミスティラポロが、このペリドットという自動人形の存在を少しだけ欲したのは。

 ただ、そこに置いておきたい。

 そんな風に考えるような存在は、きっと初めてのことだった。




第三章 終


あとがきを書いてアップしたはずが、されていなかったことに今気づきました。すいません。


ここまでお付き合いいただき、本当にお疲れ様です。ありがとうございます。

前提が長い話ですので、もう少しテンポよく書いていきたいと思う毎日です。


ブックマーク、高評価、いいねをしてくださっている方、いつも本当にありがとうございます。

貴方の毎日に、一日一回は何かいいことがありますように。

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