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『楽園シリーズ』


〓〓〓〓〓〓〓〓




 三大大陸共通暦313年。


「ああ…やっと目覚めたか…」


 ぐちゃぐちゃだったその存在を、あらゆる魂の複製情報で組み上げた。そのキメラがようやく見られる存在にまでなった。

 シャヘルは安堵したような、肩の荷を下ろしたような気持ちでその自動人形を見つめていた。


 身長は、成長して189センチの長身となったシャヘルと比べる明らかに低いが、それでも174センチはある。


 一見、華々しい鮮烈さのある美貌だが、目覚めたばかりで何もかもがおぼつかない様子は愛くるしい子猫を思わせる。


 目元は大きな二重で、宝石のペリドットのような瞳に、まるで薔薇を浮かべたような深い緑色の瞳孔が人間ではないことを示している。

 鼻筋はどこかシャヘルやサガに似ている。

 唇はふっくらつやつやとしていた。

 髪はレモンスカッシュゴールドのウェービーなミディアムショートヘアで、後ろへ緩く流してある。


 これだけ美しい人形でありながら、ペリドットは彼の最高傑作ではなかった。


 最高傑作の『あの子』を護るためだけの存在が完成した。そう。目覚めたばかりのこの自動人形は、彼の最高傑作である自動人形を護るために対として作った。


「お前の名前はペリドット。私の創作した『楽園シリーズ』の11体目だ」

「ボクは…ペリドット…じゅういったいめ?」


 十代後半くらいの年齢設定に対して、たどたどしい口調。これは目覚めたばかりだからだろう。

 ペリドットと呼ばれた自動人形の人工声帯から紡がれている声音もまた不安定なようで、少女のような愛らしい声音と少年のような凛々しい声音が混ざり合っていた。


 とある事情から、シャヘルはペリドットの容姿を『美容整形ガチ課金勢』をフル活用して調整していた。しかし、男性に寄せても女性に寄せても満足のいくものにはできなかった。


 そのため、二つの性別をペリドットに組み込むことにした。

 この自動人形の身体には決定的な欠陥がある。


 ペリドットは、男性器と女性器を併せ持つ、ふたなり、という存在だ。


 ある種の好事家や性癖の持ち主であれば、大いに受けること間違いない存在であるのだが、シャヘルにとってみれば、こう組み上げざるをえなかった、という点において欠陥品なのだった。


「お前の裸は私以外に誰も見せてはならない。決して、その身体の秘密を知られてはいけないよ。それは、私の人形創作における汚点なのだから」

「お父さまの…人形創作における汚点…それが、ボク…だから、裸はお父さま以外には見せない…」

「そう。私との契約が続く限り、それだけは絶対に守ってくれ」

「ん…わかった…」


 契約者と自動人形の契約は絶対で、そこから生じる約束ごともまた絶対だった。


「いいこだね…服の着方は自分でできるように覚えるんだよ?」

「はい…」


 シャヘルは微笑んで、ペリドットに一枚一枚衣服を着せていった。


 二つの性別を示す部分を真っ先に下着で覆い、何も無い平原になだらかな線を描いただけのような胸元には一応晒しを巻いた。


 線の細さを強調しては、どうしても女性に見えてしまう。だからこそ、肩が丸く膨らんだ長袖の黒いブラウスを着せた。そのブラウスのデザインも特殊で、細い脇腹から腰骨の辺りにかけてふわふわの白レースのフリルを邪魔にならない程度に付けてある。手首の細さも目立つため、指の第二関節まで隠れそうなほどのフリルを付けた。


 ボトムスは、ひざ下までの白いスパッツの上に、尻の丸いラインを隠すためにひざ上までの黒いショートパンツを履かせ、膝には強化魔法の魔法陣を裏に縫い付けた装甲を装着した。


 それから、黒いロング靴下を履かせた。


「短刀や投擲ナイフなどの暗器は空間魔法で取り出せる仕様だ。使い方は、与えた情報からわかっていると思うが」

「問題ありません」

「靴のかかとの装甲にもナイフを仕込んである。捕縛されたりして両手が使えないときにはこれをうまく使いなさい」

「はい」


 最後に与えた靴は見るからに高級そうな艶のあるもので靴擦れなどもなさそうで、かかとの装甲の強度は高そうだった。


「さぁ、この状態を『覚えなさい』」

「はい、お父さま」


 ペリドットの身体が、一瞬、澄み切ったライムグリーンへと発光して溶けた。何度か伸び縮みを繰り返し、やがて、ぐもぐもと元の姿へ戻る。


「これで服が汚れたり、破れたりしても、『覚えている』から、元に戻る。身体の損傷や状態異常も同様だ。お前の場合、他の兄弟同等の時間でダメージ等を復元することも可能だろうが、疑似死からの復元が可能かは定かではない。それだけお前自身が不安定な存在であるということを覚えておけ」

「気を付けます」

「あと、靴だ。上流階級の人間や商人は、足元を見て人を判断するから、傷がついたらこまめに元の状態に戻しておくこと。ただし、下流階級やそれ以下の街へ行く際には逆だ。身なりを綺麗にしていると狙われやすい。覚えておけ」

「はい」

「あと、服が一着だけだと思われるのも癪だ。何着か用意しておくから、それも『覚えて』おくこと。用途によって着替えるんだよ」

「わかりました」

「あ、お風呂のときはちゃんと脱げる。とはいえ何度も言うが、私以外の前では裸にならないように」

「はい、お父さま。でも、そんなに注意を繰り返すくらいなら、最初からボクを男性型で作っておけばいいと思うのですけど」


 ここまで甲斐甲斐しく一から十まで指示をしてくる自身の創作主に、ペリドットはちょっとだけ軽口を叩くような口調で話す。

 しかし、返ってきた反応は思っていたよりも冷たいものだった。


「私のすることに口ははさむな」

「…はい」


 自身を創作したのがシャヘルだからだろうか、彼から向けられる視線に込められた感情には過剰に反応してしまいそうになる。生命の危機、というか、破壊されそうな恐怖のような感情がペリドットを支配するのだ。


「まぁ理由は教えておいていいだろう。お前の『姉』の近くに男を近づけたくない。ただそれだけだ」

「ボクの、お姉さん…」

「そう。すなわち、私の最高傑作だ。だからこそ、お前には男でありながら女でもある欠陥を持たせる必要があった。理解できたか?」

「ボクは、欠陥品…」

「そういうことだ。だが、安心するといい。お前に与えてある情報は、お前の創造者である私にとって有意義なものだ。お前は、最高傑作になりえる可能性を持っている」

「お父さまの最高傑作に…?ボクの、お姉さんよりも?」

「ああ」

「ボク、がんばるよ!!」


 ようやく生まれた。

寄せ集めでできたこの自動人形は、シャヘルにとって大きな意味があった。

 素直に愛せると、錯覚していた。


「ああ。何故なら、お前は…」

「…?」


 シャヘルの目にこもっている感情は複数あり、ペリドットにも判別しきれないほどだ。何かを言いかけて、それでやめてしまった彼に、ペリドットは問いかけることはできなかった。




第二章 終


というわけで、長かった第二章もこれで更新完了です。

読んでいただきありがとうございました。


次章からようやく主人公が出てきます。

これから先、直接的描写は絶対に書きませんが、『描写しないほうがヤバい』というのが座右の銘です。

よろしくお願いします。


また、高評価やブクマなどいただけますと、この先のガソリンとして摂取できますのでお願いいたします。

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