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序章



「最近、死んだはずのメリッサの姿をよく見るんだ」


 そう言って、親友はこけた頬で笑った。


 ジェリコの恋人のメリッサは三年前に死んだ。


「はぁ?お前疲れてんじゃねぇのか?ジェリコ」


 それは彼…ラポロこと、ミスティラポロだってよく知っていることだった。

 王都中すべての治癒術師のいる診療所へ連れて行っても完治することなく病気がちだったメリッサ。彼女のために、どれだけジェリコが身を粉にして働いていたのかも。どれだけ彼女のことを愛していたのかも。

 それを心底理解するには、ミスティラポロには大事なモノがあまりにも少なかったわけだが。

 そうでなければ、情報屋なんて仕事はやっていない。だからこそ、ミスティラポロにはジェリコという男が貴重であったわけだ。彼とは心の底から信頼できる同業者で、いくつもの死線を乗り越えてきた仲でもある。

 この王都で情報屋のランク付けするのならば、彼らは上位に食い込む程度の中間層に位置していたが、戦闘能力がそこらの上級冒険者よりは高かったことから重宝されていた。


「日没寸前の太陽みたいな赤色の光が言うんだ」

「なんて?」

「『恋人を取り戻せ』って」


 日没寸前の太陽みたいな赤色の光。

 聞くだけでも、薄気味悪い話である。

 だが、困ったことに、その光の存在を否定しようにも、ミスティラポロを含むジェリコの周囲にいる人間は何度か目撃してしまっていた。

 細かい粒のほうなたくさんの赤い光が、たまにジェリコの周りを浮遊するのである。


「ははっ」


 ミスティラポロは鼻で笑いつつも、ここ最近のジェリコの様子に、どこかで聞いたことのある噂話を思い出した。

 噂話であるから確証はない。だからこそ、ちゃんと裏取りしてから、彼に話そうと思ったのだった。

情報屋という稼業をしているからには確実な事実を持ってこなければ、という自負もあった。


 三大大陸共通暦310年。青紫色の月の18日めのことであった。

 秋と冬の境目の季節に、巷では、『謎の赤色の光が願いを叶えてくれる』という噂話が王都中に広がっていた。加えて、まことしやかに言われていたのは、『その代わりに代償がある』というもの。


 そして、代償があるからこそ、願いが叶ったという人間がどこにも見当たらないのではないか、とも。


 その代償とやらがどのようなものなのか、人々には皆目見当もつかなかった。

 興味本位にどれだけ噂話を辿って行っても、それを検証しようとした者たちはその出処や元ネタさえ掴めなかったのだ。


 けれども、ミスティラポロには引っかかることがあった。

 確かに、その噂話が巷に蔓延るようになってから、ジェリコのように赤色の光が見せる幻に囚われてやつれていく人もいたからである。


『まるで、何かの病のようだ』


 そんな風にも言われていた。

 病、というからには治癒術などを施している街の診療所や王族貴族お抱えの治癒術師の元へ相談しても良いかもしれない。


 ミスティラポロはジェリコのような状態に陥っている人はいないかを、関係各所それぞれを訪ねては話を聞いた。

 その過程で、彼は王都のとある研究施設において、似たような事例を研究しているということを突き止めた。

 この頃には、ジェリコの衰弱は激しいものとなっていて、今にもその赤い光が見せる幻に飲み込まれて行ってしまいそうなほどだった。


 ミスティラポロはジェリコの家にやって来ると、彼に突き止めた事実を全て話した。


「お前が見ているものは…」


 今までの親友の性格からすれば、はっきりと言えば、目を覚ましてくれるはずだった。

 だが、ミスティラポロがメリッサの幻の正体を話しきる前に、ジェリコが机を叩いて叫んだ。


「ラポロ、メリッサが戻ってくるんだぞ?なんで喜んでくれないんだ?」


 ジェリコはいつの間にか現実を拒絶していた。いや、赤い光についてミスティラポロが調査を進めている間であるから、この二週間ほどの間に、だろう。

 そこから二人は口論になり、ジェリコはミスティラポロに「お前がそんな奴だとは知らなかった!」と捨て吐いて、ぼろぼろの身体のまま家を飛び出して行ってしまった。

 ミスティラポロはすぐにジェリコを追いかけたが見失い、王都にいる仕事仲間などにも彼の捜索の手伝いを依頼し、彼らは大勢でジェリコの姿を探しまわった。


 数時間後。


「ヤバい!!観覧塔だ!!ジェリコの奴が危ない!!」


 ジェリコを見つけた誰かがそう叫ぶ声に、ミスティラポロたちは王都でも有名な観覧塔へと急いだ。この観覧塔は王族の持ち物であったが、観光用に使用されており、王都で一番高い建造物として知られていた。

 釉薬の装飾レンガで出来た観覧塔へ彼らが駆けつけると、観覧塔の外には赤色の光が渦巻いていて、まるで、灯台のようにも見えた。

 すでに陽が暮れていて、観覧塔の入り口には鎖がかかっているはずだったが、ジェリコはそれを越えて中に侵入したようだ。警備にバレたらしょっ引かれてしまうだろう。

 ミスティラポロたちはそういう意味でジェリコが危ないのだと考えていた。

 だが、この観覧塔の有様ではどうも何かおかしなことが起こっている。


「ああ、メリッサ…」


 ようやく見つけたジェリコは、どんどんその観覧塔の階段を登っていた。たくさんの足音が観覧塔の階段に響く。

 やがてジェリコは赤い光が密集している観覧塔の広いテラスの階へたどり着き、外へ出て行った。

 ミスティラポロたちが追いついたときには、テラスは光で照らされていて思わず寒気がしてくるような様子だった。赤い光というだけでこれだけ不気味になるものなのかとその場にいたジェリコ以外の者たち思った。

 赤い光の中で、ジェリコは誰かに話しかけているようだった。


 ミスティラポロは必死で叫んだ。


「よく見ろ!!そいつは…!!」

「?!」


 ミスティラポロがその赤い光の正体を告げると、幸せそうであったジェリコの顔が凍り付いた。

 赤色の光の正体は、ジェリコの恐怖心を思い出させるには充分だった。


「ジェリコ!!」


 ジェリコが先にその『何か』に惹きつけられていたはずなのに、今度は赤色の光がジェリコに近づいていく。恐怖に駆られた彼はすぐに観覧塔の柵にまで追い詰められていた。

 仲間たち全員が『それ』をどうにか引き留めようと急ぐ。

 だが、実体のない光にどうやっても触れることなどできない。


「あ…あ…」

「”ジェリコ…どうして…私を…”」


 赤い光が不気味な音のような女の声を発した。


「ぅわぁああああああああ!!!!」


 次の瞬間、ジェリコは逃れるために柵を越えて観覧塔の上から墜落していった。


 赤色の光はしばらくそこを漂っていたが、やがて分解されるようにして消えた。



 あとには、冬の始まりを告げる冷たい風が、彼らの頬を撫でるだけだった。




はじめまして。貴識とうまと申します。

なろうには初投稿です。不慣れなことが多いため、生暖かい目で見守ってください。

「とりあえず、男装ふたなりヒロインが出てくるまで応援してやるよ」という心が優しい方、

「男装ふたなりヒロインが病んでる陽キャにNTr…囲われるまでの過程も応援してやるよ」という心が広い方、

「なんだったら最終話まで応援しつつ読んでやるよ」という徳積みが天元突破している方、

どうか最終話までお付き合いいただき、その都度暇があったら高評価をよろしくお願いいたします。

次の話からはしばらくこの世界についての前提的なお話(祖先である異世界転生者、自動人形について、異世界転移をして魔王になった人、天使、ざまぁ、復讐要素を簡略化したもの)になります。

よろしくお願いします。

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