第6話 マネージャーと
月曜日、いつもなら憂鬱な一日だが、今日は時間の流れが早く感じた。
俺は学校が終わると、事務所へと向かう。
電車に乗って、事務所のある渋谷で降りる。
この街は何度来ても慣れない。
事務所の入っているビルに入ると、エレベーターで上がる。
9階でエレベーターが止まり、扉が開く。
ポケットから自分のIDカードを取り出すと、センサーにかざした。
ピピっと音がなり、鍵が開く音がする。
「高森さん、お待ちしていました」
「お久しぶりです」
こうして、白瀬さんと直接会うのは久しぶりだ。
暗めの茶髪を胸の下くらいの位置まで伸ばし、毛先には軽くウェーブがかかっている。
オフィスカジュアルな服装をしているが、それでも彼女は十分すぎるほどに美しい。
白瀬さんとの距離は一メートルほど。
この距離で話しているだけでも緊張してしまう。
「会議室、取ってるんでどうぞ」
「ありがとうございます」
会議室に入ると、俺は白瀬さんに促されて椅子に座る。
「水、コーヒー、玄米茶がありますけど何飲みます?」
「じゃあ、コーヒーで」
「わかりました。ブラックですよね?」
「はい、お願いします」
「ちょっと待っててください」
そう言うと、白瀬さんは会議室を離れる。
そして、数分待つとカップを二つ手に持って戻って来た。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
俺は、白瀬さんからアイスコーヒーを受け取ると、一口飲んだ。
「では、改めて、今日はご足労頂き、ありがとうございます」
白瀬さんは軽く頭を下げる。
「いえ、大丈夫ですよ」
「では、早速ですが今回、高森さんにご相談したいことは二つです」
「はい」
「一つ目は、夏目莉央さんの件です。先方はコラボでゲームをプレイする前に一度、顔を合わせておきたいと言っているんですが、大丈夫ですか?」
「はい、それについては賛成です」
お互い、どういう人物か分かっていた方が、ゲームもやりやすい。
特に俺たちがやっているようなFPSは、連携力が求められる。
通話では相手の表情までは分からない。
実際に会って話してまずはお互いを知っていたい。
「僕も、莉央さんには会ってみたいと思ってましたのでちょうどよかったです」
「わかりました。では、スケジュール調整などは任せてください」
「よろしくお願いします」
「では、もう一つの方ですが、社内で高森さんの切り抜きをやっている人に収益を分配しようという話が出てまして、どう思われますか?」
「いいと思いますよ」
切り抜きは、収益化しないという条件で今までは行われて来た。
しかし、公認という形にすれば収益を俺と切り抜き師で分けるということができる。
それは、双方にメリットがあることだろう。
「ありがとうございます。では、詳しい条件等を詰めてまた別途送りますね」
「お待ちしています」
「ご相談事は以上なんですけど、もう少し私とお話してくれますか?」
白瀬さんがニコッと笑って言った。
その顔で言われて嫌だと言える男がこの世にいるなら、俺はそいつに全力で拍手してやろうと思う。
「いいですよ。白瀬さんと話すの楽しいですから」
「ふふ、嬉しい」
そこから、白瀬さんと他愛もない会話を繰り広げた。
気づけば、もう小一時間は話している。
外を見ると、少し暗くなり始めているようだ。
「じゃあ、僕はそろそろ」
「引き止めたみたいでごめんなさいね。気をつけてお帰りください」
「はい、今日はありがとうございました」
そう言うと、俺は事務所を後にするのであった。
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