第55話 夏コミに行こう①
親父と白瀬さんが酔い潰れた翌日の事である。
白瀬さんはそのまま一泊して仕事に向かった。
そして今日、俺と莉央に会いたいという人が事務所に来ているらしい。
莉央とは17時に渋谷で待ち合わせをしていた。
「お待たせ」
ハチ公前で莉央と合流して事務所へと向かう。
「昨日は、ごめんね。親父があんなんなっちゃって」
「ううん、私も楽しかったから、大丈夫だよ」
「そっか、ならよかった」
事務所の入っているビルに入ると、すぐに白瀬さんが近寄ってきた。
「昨日は本当にすみませんでした!! 私、お酒が入るとダメになっちゃって」
そう言って、勢いよく頭を下げる。
「いえいえ、気にしてないですよ。それに、役得だったので」
「役得?」
白瀬さんは不思議そうな表情を浮かべていた。
俺の横では莉央が睨んでいる視線を感じる。
「いえ、こっちの話です」
「お客様はもういらしてますからどうぞ」
俺たちは事務所の会議室に通された。
そこには、見覚えのある女性が座っている。
「やあ、久しぶりってわけでもないか」
「緋山さん、こんにちは」
アナウンサーの緋山アヤだった。
「2人とも優勝おめでとう! いやぁ、すごい試合でしたよ!」
緋山さんは日本大会の実況をやっていた。
当然、俺たちのプレイも見ていた事だろう。
「ありがとうございます」
「そんな君たちに今日はお願いがあって来ました」
俺たちは緋山さんの対面の椅子に座る。
「お願いですか?」
「うん、夏コミってわかる」
「ええ、わかりますよ」
コミックマーケット、日本最大級の同人即売会だ。
年に2回開催され、夏に開催するものを、夏コミ。
冬に開催されるものを冬コミという。
「そこにリュアーグも出展するんだけど、私、そこで売り子を頼まれてて、よかったら一緒にやらない?」
緋山さんはコスプレイヤーとしての一面もある。
SNSにたまに上がっている写真は瞬く間に拡散されるのだ。
「いいんですか? 企業ブースに俺たちが参加しても」
「それは全然オッケー。大谷社長も君たちが居ればいい宣伝になるだろうって」
社長の許可は既に出ているというわけだ。
「それで、私はこのキャラのコスするから、莉央ちゃんはこれのコスだよ」
スマホに画像を表示させて言った。
それは、リュアーグが一番力を入れているRPGゲームのキャラだった。
先日、俺と莉央がリリース記念のイベントに出演したやつである。
確か、女の子のキャラが可愛いと話題になり、一気に人気になった。
「私が、これを着るんですか?」
「うん、そうだよ。この前、コスプレしてみるって言ってくれたよね?」
緋山さんが身を乗り出して莉央に迫っている。
「もちろん、諒くんにもやってもらいまーす。諒くんはこれね」
そこには同じゲームの男キャラだった。
「俺もやるんですか!?」
「莉央ちゃんの相棒キャラは諒くんしかいないですよ! 私がちゃんとメイクもしてあげますから」
緋山はさんは自分の好きなことには夢中になるタイプなのだろう。
オタク強い意志が伝わってくる。
「諒も一緒なら。ちょっと肌色多いけどやろっかな」
「莉央がそういうなら」
「はい、じゃあ、決定! 衣装はこっちで用意するからね!」
緋山さんは嬉しそうにしている。
「2人のコスプレ、また話題になりそうだねぇ」
俺たちはここ最近、SNSを始めとするメディアをお騒がせしているので、ただでさえ目立っている。
このタイミングで、莉央とのコスプレ写真をあげたらまた更にお騒がせしそうな予感がする。
「じゃあ、当日はよろしく。これ、私の連絡先ね」
そう言って、緋山さんは名刺を置いて行った。
きっと、この世界のオタクたちが喉から手が出るほど欲しいものがこうも簡単に一瞬で手に入ってしまった。
「なんか、嵐みたいな人だな」
「ええそうね」
「白瀬さん、会社的にはいいんですか?」
俺は隣にいる白瀬さんに聞いた。
白瀬さんは特に何も口出しはしてこなかったのだ。
「はい、会社の宣伝になるようなことはどんどんやってオッケーって部長が言ってたので大丈夫です」
どうやら、今回のことは会社の利益にもつながるらしい。
「あ、それと、今日言おうと思ってたんですけど。莉央さん、うちの事務所に移籍することになりました」
白瀬さんはさらっと大切なことを言った気がする。
「え、引き抜いたんですか?」
「まさか、莉央さんのご意志です。今後は私がお二人ともサポートさせて頂きます」
最近は2人セットの仕事が増えてきている。
一緒の事務所になるのはメリットも大きい。
「そうなのか。莉央、改めてよろしく」
「うん、よろしくね」
こうして、莉央のコスプレと事務所移籍の話が決定した。
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