第5話 プロとしての想い
プロゲーマー、それは明確な定義があるわけじゃない。
俺がプロゲーマーとして活動し始めたのは一年半ほど前の出来事があった。
そう、プロホプルの日本大会で優勝した時からだ。
「もう、一年半も前なのか」
俺はなんとなくその事を思い出していた。
別にプロゲーマーになりたいというわけでは無い。
最初はただの現実逃避で始めたゲームだった。
母を亡くし、世間の目も優しさに見えたが、それは憐れみの目だった。
そんな時、出会ったのがゲームだった。
ゲームは良かった。
そんな、世間の目や現実を忘れることができた。
ゲームをしている時だけは、自分だけの世界に入ることが出来た。
「お前、ゲーム配信とかしてみたらどうだ?」
いつだったか、父が言った言葉だ。
「なんで?」
「一人でやるのも楽しいが、誰かと一緒に楽しむのもゲームなんじゃないか?」
その父の言葉で、俺はゲーム配信というものを始めた。
配信ネームはTakamori。
ただ、苗字をローマ字にしただけだ。
最初は視聴者も数人だけだった。
しかし、俺の配信の視聴者はどんどん増えて行った。
俺のプレイに魅了されたと言ってくれる人がたくさん居てくれた。
そして、チャンネル登録者が6万人を超えた時、プロホプルの関東大会に出場オファーがあった。
「出てみたらどうだ? 大会」
「おにいならできるよ!」
父も、妹も俺の大会出場を応援してくれた。
その後押しがあって、俺は大会に出ることを決意する。
そして、関東大会初出場、初優勝という歴代初の結果を叩き出した。
しかし、Takamoriの無双っぷりはそれだけで止まることはなかったのだ。
関東大会で上位の結果を残すと、全国大会に招待される。
もちろん、俺も全国大会への出場権を手にした。
そして、全国大会の結果は。
優勝というものであった。
この結果はゲーム業界だけでなく、多くのメディアが注目をした。
当時、eスポーツがオリンピック競技になるかもしれないと、話題になっていたこともあるだろう。
そこから、アジア大会優勝。
ついには、世界大会優勝というとんでもない結果を叩き出した。
当時は最年少での世界大会優勝ということもあり、大きく取り上げられた。
「おめでとう」
「おにい、おめでとう」
「ありがとう」
父と妹は俺の世界大会優勝を自分のことのように喜んでくれた。
世界大会に優勝してから、俺の世界は一気に変わった。
まず、チャンネル登録者が激増したこと。
そして、とんでもない額の賞金も入ってきた。
配信も順調に人気になった。
「俺は、誰かに夢を見させられるような、そんな大人になりたい」
これが、プロゲーマーTakamori、そして高森諒としての信念となるのであった。