第10話 女子人気
会計を済ませると、俺は莉央と共に喫茶店を出る。
ここの会計は後で経費として計上することができる。
「駅でいいの?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、改札まで送って行くよ」
「ありがとう」
聞くところによると、莉央は3駅隣に住んでいるらしい。
電車で10分とかからないくらいの距離だ。
「じゃあ、今日はありがとう」
「こちらこそ、金曜日、楽しみにしているよ」
改札の中に入って行く莉央を見送る。
莉央は俺に向かって、小さく手を振っている。
その仕草が可愛すぎて、危うく心臓が止まるところだったのを、俺はなんとか耐えて手を振りかえした。
「さて、俺も帰るか」
莉央の姿が見えなくと、俺は駅を出て自宅マンションへと帰る道を歩き始める。
春先の夕方はまだ、少し肌寒い。
「莉央さん、可愛かったな……」
喫茶店との出来事と帰り際の莉央を思い出す。
あれで、日本一のプロゲーマーなんだがら、何かが間違っている気がする。
「ただいまー」
「あ、おにいお帰りー」
家に帰るとリビングの方から柚月の声が飛んでくる。
「ご飯、もう少しで出来るよ」
リビングへ入ると、キッチンに立って居た柚月が言った。
我が家では、柚月が料理などの家事をしてくれている。
「いつも悪いな」
「いいよ。好きでやってるんだし、ほっといたらおにい、カップ麺しか食べないじゃん」
俺は料理は得意というわけではない。
最低限のことはできるが、自分のためだけにわざわざ作ろうとは思わない。
その点、柚月の料理はめちゃくちゃ美味い。
父が母の味に似ていると涙を流して居たのは今でも鮮明に覚えている。
「はい、出来たよ」
「お、ありがとう」
テーブルの上に夕食が並ぶ。
今日はビーフシチューらしい。
「おにい、夏目莉央さんとコラボするの?」
夕食を食べながら、柚月が尋ねてくる。
「そうだけど、なんで知ってんの?」
「私、莉央さんのSNSフォローしてるから」
「珍しいな。お前、ゲームとか興味あるの?」
柚月はFPSなどのゲームに興味があるような素振りはなかった。
「おにい、知らないの? 莉央さん、女の子の間でも人気なんだよ」
「そうなのか」
「この前、アパレルブランドとコラボもやってたし」
どうやら、元々あった女性人気にそのブランドとのコラボで更に火がついたらしい。
それに加えて、なりたい顔ランキングというもので3位を記録するほどの人気っぷりだ。
「これ、俺の方が霞んでないか?」
俺にできることといったらゲームくらいなものである。
案件もゲームに関係するものがほとんどだった。
「心配しなくても、大丈夫だよ。おにいはゲームの世界一なんだから」
「お、おう。ありがとう」
食事を終えると、動画配信サイトで莉央の動画を見る。
「やっぱり、中距離は俺より上手いかもな……」
莉央のプレイの癖などを把握しておこうと思ったのだ。
敵だけではなく、味方も研究することが大切だ。
そして、夏目莉央とのコラボが俺の人生を大きく変えることになる。




