つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
クラスのイケメンが女子たちからもらったマフラーを全部付けてるので顔が埋まりそうになってるんだけど、それに加えて僕の幼馴染が顔を赤らめながら授業中こっそりマフラーを編んでいるので流石に心配
最近寒くなってきたと思う。
今朝も一桁温度が当たり前だった。
マイナスになってないだけまだいいとは思うけど、もう十二月なんだなあ、と思うくらいには寒い。
そんな中、とてもあったかそうな人を前方に発見した。
学年一のイケメンと言われてるどころか、芸能界デビューしている、棚形有希である。
モテるというレベルを超えて、芸能人扱いされているというか芸能人。
だからなんかファンみたいな立ち位置の女子がたくさんいる。ほんとに恋してる人も中にはいるだろうけど、まあとにかくファンなわけ。
そんなファンからの流行りのプレゼントは、マフラーである。
そして律儀な有希は、そのマフラーをちゃんと全部受け取ったあげく、全部つけている。
いやなんで全部つけてんの? ってなると思うけど、どうやら、最初の一人からもらったのがものすごいクオリティだったらしく、普通に使いたいと思ったので、「毎日つけるね」と言ったらしい。
ところがマフラーを用意していたのはその女の子だけではなかったので、公平性と約束を守ることを貫く律儀なイケメンは、全部毎日つけているのである。
せっかくのイケメンなのに、顔が埋まりそうなので、よく見えない。
シュレーディンガーの猫のごとく、有希がマフラーを取るまでは、僕の方がイケメンである可能性が残されている。
いやそれは嘘だった。目元だけで圧倒的な差だったわ。
振り向いて、一応クラスメイトである僕に手を振る有希を見て、僕はそう思った。
教室に入ると、大体の人は席に座っていた。
寒すぎて無意識に歩く速さが遅くなっていて、ギリギリになってしまったようだ。
僕は自分の席に座った。
一番後ろなので、みんなの様子がよく見えるが、かなりの割合の人が、机の下で何かする用意を始めている。
まあ一時間目は退屈な授業をする先生なので、それはしょうがないのかもしれないし、僕も本でも読もうかと思う。
そんなふうに決めて本を取り出した時、ふと、斜め左前の方にいる幼馴染の冬梨が、こっそり手を動かしているのに気がついた。
マフラー編んでんじゃん……。
まじかよ。
今からあげても有希のことだから受け取りそうだけど、もしそれもつけるんなら、まじで顔が埋まっちゃうぞ。
僕は、流石に教室ではマフラーをしていない有希を見た。
マフラーを重ねすぎたからか、髪が乱れている。
髪が乱れててもかっこいいわ。僕なら単なる寝癖にしか見えないんだろうな。
まあそれはいいや。
冬梨の様子を見よう。
ものすごく真剣に編んでいる。
少しだけ恥ずかしそうに、そしてこそこそしている。
まだ先生は来てないのにこそこそしてるんだから、有希にバレないようにしてるのかな。
いやでも有希の方が前にいるんだから、そんなバレないと思うけどな。まあ慎重なんだろう。
僕は心の中で応援しつつ、少し受け取ってもらえるのか心配にもなって、そして本を読み始めた。
☆ ○ ☆
そしてそれから何日かは、冬梨はマフラーを授業中に編んでいた。
しかし、今日はそれをしない。
てことは完成したのかな。
してそう。
それならついに有希に渡す時ってことか。
相変わらず今日も有希は顔が埋まりそうになって登校してきた。
まああったかそうではあるし羨ましいがな。
ボロくなったネックウォーマーを使ってる僕よりは、何百倍も幸せさが「見かけ上は」表現されている。
とはいえ、流石に……もうマフラーいらないと思ってると思うんだよなあ。
そんなことを考えていると、冬梨から、
『涼太、今日一緒に帰ろう〜』
と来た。
おお、これは相談だな。
まあ僕も有希と全く話さないわけでないから、さらにマフラー巻いてほしいとは流石に言えないけど、受け取ってほしいとお願いすることならできるかも。
いやでもいらないものを無理に押し付けるのはなあ……。
受け取ってもらえるならそれでいいけど僕が受け取るように誘導するのはよくないかもな。
まあでも力になりたい。なんか考えたいところではあるな。
放課後、ボロくなったネックウォーマーを巻いて下駄箱のところで待っていると、冬梨が来た。
寒そうにしてて、少し顔が赤い。
「なんのために一緒に帰ろって誘ったでしょーか?」
「当てられる自信があるね」
「ほんと?」
「ほんと。マフラーだよな」
「うおおお、なんでわかるの?」
「それは……まあ幼馴染だからな。でも……」
「あ、マフラー、欲しくないかな?」
「あ、うーん、どうだろう。多分大丈夫。なんとか頑張れば……」
「あ、そういう感じ……? じゃあいいや」
「え、でも作ったんだから」
「いいのっ!」
冬梨はそんな風に強く言う。
そして僕と一緒に帰るはずなのに、僕よりも先へと歩き始めてしまった。
まじか……僕が悪いな。ポジティブな言葉をかけるべきだったのに。
そしてその日の夜から朝までは、冬梨のことを考えていたけど、やっぱり朝一で謝るしかないな、となった。
僕はいつもより早めに家を出て、ものすごくゆっくり歩く。
いつか……冬梨が追いつくだろう。もしかしたら話したくなくて、僕を見つけ次第、低速で歩くようになるかもしれないけど。
川の近くまで来たあたりで振り向いた。
そしたら冬梨がいた。
僕は立ち止まった。
冬梨は近づいてきた。
僕は引き返した。
冬梨は止まらなかったし、後ろにも行かなかった。
「おはよう」
「おはよ。………はいっ」
「え?」
冬梨が僕に渡した……というか僕のお腹に押しつけたのはマフラーだった。
ふかふかさが、鈍感なお腹でもわかるほどの、丁寧につくられたマフラー。
「受け取らなくてもいいけど……でも、私は、涼太のために作ったから、とにかくそのことだけ、自己満足でも示したいから……」
「えーと、これ僕のために作ってくれてたの?」
「え、そうだけど」
少し涙のある冬梨の目が驚いた目になる。
「あ、そうだったのか……ありがと。有希のために作ってるのかと思ってて」
「は? 有希くん? いやあんなにもこもこなのにさらにマフラーあげるわけないじゃん。ていうかいらないでしょ」
「そうだよな。意見の一致が見られてよかった」
「はあ、てことは昨日欲しくない感じで言ってたのは有希くんにあげると思ってたからなのね、ばかだねまったく」
「ふんだ。とにかくマフラーは……ありがとう」
「……どういたしまして。寒そうなネックウォーマーだったからさ、あったかくなるといいなって」
「うん、まあでも、このネックウォーマーも昔冬梨がプレゼントで買ってくれたのだからな、これはこれで大事」
「そっか。そうだったね」
多分もともと思い出してたけど、そうだったなあ、と懐かしんだりする冬梨。
そんな冬梨を見ながら、僕はネックウォーマーの上から、マフラーを巻いた。
ちゃんと二つ分、あったかい。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければ評価などをいただけたらうれしいです。