猫のおみくじ
1.寝床
――今日、どこで寝ようかな。お気に入りの場所、とられちゃったしな……。
周りに明かりはなく、時々通る車の明かりがたよりだ。歩道に出て何時間たったのか、ココは立ち止まり、自分の肉球を見た。
肉球には土や草がついて、汚れていた。それを見たココは思わずため息をついた。こうなったのも、「エコに寝床をとられたせい」というより「縄張り争いに負けるぐらい弱くなった自分のせい」と思い、また歩き始めた。
ココは縄張り争いになるのが嫌で、周りに気を配りつつ、生活しているから他の猫よりは感が鋭い。だが、今回は桜がキレイに咲いていて、桜の花びらに夢中になっていたから、エコに気づけなかった。
車のヘッドライトが辺りを照らし、赤い鳥居が見えた。そこは、大きい樹や植木がたくさんあり、地面には芝がありフカフカで寝床にするには最高だ。
――ここなら、邪魔、されなさそう。
それにここは神社だし、一日寝るぐらい神様が許してくれるはずと思い、ココは神社の鳥居をくぐり、参道を歩いていると誰かの声が聞こえてきた。
「おぬし、寝床を探しているようじゃな」
「……、誰」
周りを見渡しても誰もいない。
「わしはこの神社の神様じゃ」
「神……、様……」
「そうじゃよ。今なら、誰にも邪魔されない、寝床を提供してあげよう」
――マジですか!?
嬉しさのあまり、目を見開き、少し固まってしまった。
「マジじゃよ。ただし……」
「します!」
「まだ、何も言ってないが……。参道の先に、おさい銭箱が見えるじゃろ。とりあえずそこで話をしよう」
「はい!」
嬉しくておさい銭箱の所まで、かけていった。
「ここで、人間達がおさい銭を入れるか、見ていている事と、この願掛けを整理してほしいんじゃよ」
おさい銭箱の前まで行くと、おさい銭箱の両脇から、上に向かって先が二股になっている、透明な棒がのびていた。高さは普通の一軒家ぐらいの高さだ。二股になっている股の部分には、透明で長い棒が掛けられている。その透明な棒には、たくさんのモクモクした煙みたいな物が掛けられていた。
――うわーぁ、いっぱいだ……。
たくさん掛かっていて、口が開いてしまった。
「そうなんじゃよ。人間がたくさん願掛けをしていくから……」
「一生懸命します」
「ありがとう、それじゃあ、明日からよろしく頼むのぉ。おやすみ」
「おやすみなさい」
ココは植木がある所から芝が生えている所を歩き、大きな樹がある所の根本から大きな樹を見上げた。
――もう、縄張り争い……、しなくていいんだ……!
その日は嬉しくて、あまり眠れなかった。
2.おみくじ
――あれから1週間かぁ。早いなぁ。
神社に来て、翌日には、ココの定位置が出来ていた。そこはおさい銭箱の隣。神社に来た翌日、おさい銭箱の横で丸まって仕事をしていると、宮司さんがおさい銭箱と同じ高さの、小さな台を用意してくれた。その台に乗っていると人間達が撫でてくれて、時たま、お菓子をくれる。それに、太陽の暖かい日差しが当たり、暖かい。
その暖かい場所で仕事をしていると、ココには1つ気になる事が出来た。それは、人間達が神様に願掛けをした後、ほとんどの人が引いていく「おみくじ」というものだ。「おみくじ」はおさい銭箱がある場所から左に10メートル歩いて行った場所にある。人間達は「おみくじ」を引いた後に必ず喜ぶ、普通、ショックを受ける、の3パターンのどれかの反応をする。その様子を見ている内にココも「おみくじ」を引きたくなったが、諦めた。猫だから、お金がない。
カラン、コロン。
音がした方を振り向くと、紺のパーカーと水色のジーパンをはいた男の人が願掛けをしていた。願掛けをすると頭から灰色でモクモクした物が出てくる。それが透明な棒に掛かるのを見ていると、男の人が「おみくじ」を引いたようで「やった、大吉」と聞こえてきた。
――おめでとう。いいなぁ……、私も引いてみたいけど……。
ココはため息をついた。「おみくじ」を引くことを諦め、「おみくじ」を引く所から視線を外すと参道を人が歩いていた。
――あ……、今度は女の人だ。
女の人は、白いパーカーを着ていて、薄いピンク色のマキシム丈のスカートをはいている。
その人はおさい銭を入れないで、手を合わせ始めた。
――おさい銭!
ココは入れてよ、という意味を込めて、「ニャー」と鳴き声を出すと、女の人は「あっ、忘れてた」と言い、おさい銭を入れてくれた。
――よかった。あら? 頭から煙が出ない……。なんで? それに何か、ブツブツ言ってる。
ココは不思議に思い、耳を澄ませていると「神様、ありがとうございます」と、女の人が言っているのが聞こえてきた。
――この人、神様にお礼を言いに来たんだ……!
ココが仕事を始めてから1週間、神様にお礼を言う人に会ったことがなく、驚いていると、女の人は神様にお礼を言い終わったようで、おさい銭箱の前にはいなくなった。そのかわりに「おみくじ」を引くところにいた。
――この人なら……。
ココは参道を見て、人が来ないことを確認すると、台から飛び降り、おさい銭箱の後に隠れ、白と黒の水玉のワンピースを着て、髪の毛をポニーテールにした、5歳ぐらいの女の子に変身した。
猫は、少しだけ魔法が使える。白と黒のブチのココは変身魔法が得意だ。
――これでよし! あとは、あの女の人に……。
まだ「おみくじ」を引く所の近くにいる、女の人の服を掴み軽く引っ張った。
「何?」
「おみくじ……、引きたいの……!」
「……ん?」
「……、でも、……お金、忘れちゃって……、だから……」
「うーん……。はい、100円」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「どういたしまして」
私は早速、貰ったお金を、おみくじを引く箱の中に入れ、おみくじを引いた。
――楽しみだな。何がかいてあるんだろう。
糊付けしてある所を丁寧に剥がし、中を見てみると中吉と書いてあった。
――やった、中吉だ! ん?
「おみくじ」に書いてある事を読んでいると「おみくじ」に印刷されている文字が渦を巻いていき、大きな文字で「寝床」に変わってしまった。ココは意味がわからず、首を傾げると、神様の声が聞こえてきた。
「出て行きたくないじゃろ?」
「はい! 仕事をサボって、ごめんなさい!」
「……、最初に説明しなかったわしも悪いしのぉ。すまんかったのぉ」
神様は、ココが持っている「おみくじ」を100円に変え、女の人に返すように言った。
さっきの女の人を探すと、樹の枝におみくじを結んでいた。
「あの、100円……」
「おみくじはいいの?」
「うん。お金、出してくれて、ありがとう」
「そう……、それじゃあね」
女の人は100円をお財布にしまうと、鳥居に向かって参道を歩き始めた。
――何かしてあげたいな……。
「撫でさせてあげたらどうじゃ?」
「神様……」
「きっと、喜んでくれるじゃろ」
「はい!」
ココは近くにある植木の影に隠れ、猫に戻り、女の人を追いかけた。ココは女の人に気付いてほしくて、鳴き声を出すと女の人が気付いてくれた。
「おさい銭箱の所にいた猫ちゃん」
――よかった、気づいてくれて。
女の人の足に、尻尾を巻き付けながら、足元を「にゃーん」と言いながら、クルクル回った。
――この人に良い事が起こります様に!
「かわいい、触ってもいいかな?」
――御利益がきっとあるから、触って、触って!
女の人は顎の下や背中を撫でてくれた。
「気持ちいい。それじゃあ、猫さん、また30日に会おうね」
それから、女の人はココの背中をひと撫でしてから立ち上がり、参道を歩き、鳥居まで行くと、立ち止まり、お社に向かって一礼した。
――また、来てくれるんだ!
ココは嬉しくなり、おさい銭箱の隣に置いてある台の所まで、かけて行き、台の上に座ると、仕事を再開した。
台の上で、座って仕事をしているとなんだか、太陽の暖かい日差しがいつもより、心地好く感じた。
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