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012:屋上

 翌日の休み時間。

 ポケットの中の携帯端末が振動して何かの着信を知らせる。それはサキさんからのメッセージだった。

 早速それを開いて内容を確認する。


『今日 昼休み 屋上で』


 何とも短くて淡泊な文章だ。

 本当にこれ、付き合っている女の子とのやり取りなんですかね?

 しかしその短い文章でもサキさんの要件を察することは出来た。

 それはきっと昨日の淡路との話のことを確認する為だろう。

 だが昨日は結局、淡路とは話が出来ずサキさんが昨日去ったあの瞬間からひとつも状況に進展はない。つまりサキさんに伝えることは何もないのだ。

 それでサキさんが納得してくれるだろうか?

 しかし昼休みまでに話をするにしても、休み時間だけでは短すぎて落ち着いて話をするなんてことは出来ない。

 さてはて、どうしたものか……。


 そして昼休み。

 結局、俺は淡路と話が出来ていないまま、とりあえずサキさんの言う通りに屋上へ向かった。

 屋上に到着した時、サキさんは既に昼食を始めていた。

 サキさんの食事が終わるのを待ってから昨日のあの後のことを説明した。

 ちなみに俺はある理由で食事は取れていない。


「ーーで、結局あの子とは何も話は出来ていないのね?」


「申し訳ありません」


 全く俺のせいではないのだが形式上謝っておこう。

 その方が懸命だ。


「別にいいわ、昨日は私も少し頭に血が昇っていたみたいだから。本当は泣かせてしまうつもりはなかったのだけど」


 意外にもサキさんはあっさりと許してくれた。

 彼女は彼女なりに昨日のことを言い過ぎたと反省している様だ。

 サキさんも鬼ではない。本当は優しい心を持つ女の子なのだ。

 よしっ! なら『これ』のこともお願いすればきっと大丈夫だろう!


「あのぉ、サキさん。この手錠、外してくれませんか?」


 何故だか屋上に来た直後、俺の腕は後ろに回され手錠が掛けられた。

 俺が昼食を取れなかった理由はこれのせいだ。この状態では当然食事なんて出来ない。

 プラスチック製などではない金属の冷たさと重み、頑丈な造りであることが手首を通して伝わって来る。

 自力で外すのは不可能だろう。

 でも今の優しいサキさんならきっと外してくれるはず!


「え、どうかした? この屋上から突き落として欲しいって? そこまで言うならーー」


「全然言ってません!」


 前言撤回。全然お許しになられてないご様子。

 いまだにご立腹で在られるようだ。


「……言っておくけど、貴方の言ってたことを全て信じた訳じゃないから」


 どうやらサキさんはまだ俺が嘘をついていたかもしれないと疑っているようだ。全く信用されていない。

 本当にこの人なんで俺なんかと付き合うとか言い出したんだろ?

 とにかく信頼性ゼロの俺がサキさんに信用してもらう為、この疑いを晴らすには目に見えるもので証明するしかない。

 あまり気は進まないが俺は後ろポケットに入れていた携帯端末を取り出し、後ろ向きにサキさんへそれを差し出した。

 なんとも間抜けな絵面だろうか。


「それを見てください。彼女……淡路とのやり取りが残っています」


 サキさんに渡した端末には淡路と最後にしていたやり取りが残っている。

 それを操作して見つけるのはそう難しくはないはずだ。

 俺はアプリなどはほとんど入れていないし、登録されている人数も多くはない。決して少ない訳ではない、多くはないのだ。ココ重要。

 まあ、やり取りと言っても向こうから送られて来たあのメッセージの後に、俺が何度か『謝罪』を送信したのだが結局返事はなかった。

 それを見せれば少しは疑いは晴れるかもしれない。


「貴方、元カノジョとのやり取りを今のカノジョに見せることに躊躇しないの?」


 サキさんはあからさまに引いている。


「いや、躊躇しなかった訳ではないんですよ? だけど信じて貰うにはそれしかないと思って。それに大したやり取りはしていませんし」


「……確かに、貴方へ送信された一文を最後に、以降は未だに既読すら付けていないわね」


「これで信じて貰えましたか?」


「いいわ、とりあえずは貴方の言い分は認めましょう。でもそれじゃあ何で彼女はあんなことを言っていたの?」


「それは解りません。なので今日の放課後にでも俺の方から話をしに行ってみようかと」


「一人で行くつもりなの?」


「あ、はい」


「へぇー、今のカノジョである私は放っておいて、昔の女に『一人』で会いに行くというのね、貴方は」


「あー、いや、それはぁ」


 サキさんから怒りの様なオーラを感じたがそれはすぐに収まってくれた。


「……まあ、今回は仕方がなさそうね。そうでもしないと話が進まなそうだし。私が行ったら向こうも冷静に話を聞いてくれるか判らないしね」


 まあ、それはサキさんも同じだから一人で行くつもりなんですけどね。

 そんなことは口が裂けても言えないけれど。


「でもその前に、ちゃんと確認しておかないといけないことがあるわ」


「なんでしょうか?」


「……もし、彼女と話をして別れ話っていうのが誤解だった時、貴方はどうするつもりなの?」


 これは……俺が淡路と寄りを戻すことを懸念した言葉なのだろうか?

 確かにその状況であるのであればサキさんと自然と別れることが出来るのかもしれない。

 しかしそれは淡路とまたやり直すことも意味している。

 それなら俺は……。


「俺の中で淡路との関係はもう終わってしまったんです。それに俺には今のカノジョ、サキさんがいるので。もし誤解だったとしても、彼女には悪いですが」


 俺自身、淡路とのことに何の未練もない。

 むしろ、もし誤解だったとしても今、カノジョがいるということは寄りを戻すことを断る理由に使える。

 俺は一度壊れた関係を修復するなんて器用なことは出来ない。

 もし誤解から壊れた関係だとしてもどう接してやればいいのかもわからない。

 相手を気遣って、気を着けて、付き合っていくなんて真っ平ごめんだ。

 その理由にはサキさんもそれに当てはまる訳なのだが、彼女の場合は少しばかり特殊な例なので度外視としてある。

 それに将来的には別れることになるのだから問題ない。

 いや、問題は大有りなのだが……。


「そぉ、なら好きになさい」


 それだけ言ってサキさんはベンチに置いてあった弁当箱の包みを持って屋上を去って行った。

 どうやら少しは信用して貰えた……と、思っていいのだろうか。

 ……って、あれ? すみません、手錠が掛かったままなのですが。

 いなくなる前に外して欲しいのですがぁ!

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