第2話 子供と羅神
バリバリと働き、俺が帰るのは遅くなってからだった。気立ての良いスミレは労を労ってくれたが、育児の手伝いができないのは悲しかった。
その頃、金星部長は育休や産休の整備、男性も取れるようにするなどの改革を推し進めた。社長も「左様せい」とどんどん改革していった。
俺もそれを使えば良かったのではと思うが、そんな制度知らなかったし、そんな余裕も無かった。
働きたかったのだ。男の性として、「働く男」という理想があったのだ。
息子や娘が生まれた時、俺が真っ先に労ったのはスミレだった。それほどスミレには感謝している。俺はエリート大学を出たと言ったが、見栄だ。社長や部長は知っているだろう。スミレにも言った。
「俺はエリート大学に入り、休みがちになり、単位が取れず三流大学で、トップ卒業した」
娘や息子には秘密にしている。言えるわけないじゃないか。エリートが偉いんだ。この頃は若かった。これはもう10年前の事だ。
「お父さん、これ。いつもありがとう」
「お、俺からもこれやるから、そ、その、ありがとな」
息子と娘はやはりかわいい。子供大好き。すまんな。構ってやれんで。ちなみに息子は輝貞、娘は咲子だ。結婚するとき苗字は俺の方に合わせてもらった。
「おう。輝貞。今度の日曜暇だから、打ちっ放しでも行くか?」
「お、親父がそういうなら行こうか」
輝貞は照れているのか頬が夕日色に染まっていた。
日曜日になり、一緒に打ちっ放しに行く事になった。輝貞が使うのは俺の7番アイアン。俺はドライバーでぶっ飛ばす事を考えた。
気分が晴れる。太陽もキラキラしている。輝貞はだいぶダフっていた。そして、ボールと筒状のものが飛んでいくのが見えた。
「おいおい。ダフッターかよ。今の写真撮れた俺マジ神。羅神だけに」
「親父ギャグまたかよ」
「まあ、そのうちわかるさ」
男2人の親子の絆がたしかに繋がった気がした。車で坂を下りていく。スーパーが見えた。
「なんか母さんたちに買って帰るか?」
輝貞から珍しい提案だ。
「あたぼうよ。買って帰ろう」
「いや、あたぼうって何だよクソ親父」
「あたりめーだべらぼうめの略だ」
「江戸っ子じゃねーだろー」
輝貞のツッコミは冴え渡る。
その頃娘の咲子は、母親のスミレと一緒に裁縫をしていた。ちなみに2人とも英語が得意だ。