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魔女の会

 翌日、僕らは朝一番で街を出た。移動手段は馬だ。僕は乗馬の経験がまったくなかったけれど、この体のおかげでものの数分で乗りこなせるようになった。

「随分と筋が良いわね」

「ええ、まあ」

 僕の異常な身体能力については、まだ誰にも話していない。もしかしたら、ステンや店長あたりに見抜かれている可能性もあるが、隠せるだけ隠しておきたかった。この世界で何十年も生きて、人間関係を構築している人たちと、互角以上に渡り合うためには、武器が多いほうが良い。

 街を出た僕らは、そのままの速度で、国境沿いまで移動した。『魔女の会』が活動していると言われる国の領地にたどり着いたのは、昼過ぎだった。僕らが住んでいる街が国境近くに位置しているおかげだった。

「もう目的地に近いんじゃないですか?」

「そうね。もうすぐ見えてくるはずよ」

 永遠に続くかと錯覚してしまうぐらい、代わり映えのしない田舎道を通ってきたせいで、精神的にかなり疲弊していた。右も左も木と草しかない。下を見ると茶色い地面がずっと先まで続いている。どうやらこの道は森の中を突っ切るためにつくられたみたいだ。しかし、その森が巨大すぎて、僕らはすでに何時間も森の中にいる。

 街を出たばかりの頃はよかった。初めて見る植物や、自然を感じられて、こういうのも悪くないと思った。けれども、どんなに良い景色でも、いずれは飽きる。

 だから、森を抜けて平原にでたときは、とても喜んだ。しかも、そう遠くない場所に建物が見えた。たぶん僕らの目的地だろう。

「人工物をみると、なんだか安心しますね。ちゃんと人がいるんだって思えて」

「そこにいるのがどんな人間なのかは、分からないけどね」

 なるほど。今回の仕事内容を考えれば、僕らが歓迎されない可能性の方が高い。森を抜けた嬉しさで、舞い上がっていたようだ。

「にしても、かなりの田舎ですね」

 町に近づいているはずなのだが、民家は数軒しか視界に入らない。その数軒も、ぽつぽつと点在していて、人口密度がかなり低いことが窺い知れる。

 道の両脇には、畑と思しき土地が見られるようになった。植えられているのは小麦のような穀物だと思うが、植物には詳しくないのでまったくの別種かもしれない。

「このあたりの人は、どうやって生活しているんですか?商店があるとは思えませんし」

「自給自足をしているらしい」

「へえ、そんなことができるんですね」

 僕は素直に感心した。

「まあ、ここに住んでる人たちが、そう言ってるだけで、たまに街に商品を売りに行って、外から物を持ち帰っているんだけどね」

「完全な自給自足ではないんですか」

 僕は少しがっかりした。

「でも、大体のものは自分たちで賄っているから、ほぼ自給自足だよ」

 そういう暮らしに対する憧れはあるが、実際にその暮らしに満足できるかどうかはわからない。ここに暮らしている人は、何を楽しみに生きているのだろうか。

「ここよね」

「多分、そうだと思いますけど…」

 僕らの最初の目的地は、この家だ。想像していたよりも綺麗で、築年数も短そうだ。

 表札らしきものは見当たらないが、玄関にプレートがかかっている。そこには『自由の会』と書かれていた。そのプレート以外に、この建物を所有するグループを示すようなものはなにもない。

「ごめんください」

 玄関にベルがないので、店長はドアを明けて、頭だけ突っ込んでいる。

「はーい、少々お待ちください」

 家の奥から返事が返ってきた。

 店長は後ろを振り返り、僕へ視線をよこした。その後、ドアを開けて家の中へ入っていった。僕も後を追って中へ入る。

 建物の内装も、外装と違わず綺麗だった。もしかしたら新築なのかもしれない。

「ようこそいらっしゃいました。いやいや、ごめんなさいね、待たせちゃって」

 建物の奥へと続く廊下から姿を表したのは、初老の女性だった。全ての髪が真っ白なのが印象的だった。柔らかい表情は敵意がないことと、接客なれしているであろうことを示していた。

 僕らは女性に促され、玄関ホールにある応接セットへと腰掛けた。

 この椅子とテーブルも、新しいもののようだ。デザインが古臭くない。テーブルの天板はガラスでできていたが、汚れは見当たらなかった。掃除が行き届いており、清潔感があった。僕が事前に思い描いていたイメージは真逆だった。

「えー、お二人は自給自足の生活に興味があるんですね。へぇ、お若いのにご苦労がお有りなんですねぇ」

 お婆さんは手元の資料を見ながら言う。店長が事前に送った手紙に、そう書いてあるのだろう。

「ここ『自由の里』は本当にいいところよ。だからね、安心して暮らせる。皆いい人たちだから、余計な人間関係もないのよ」

 お婆さんは僕らに同情するように、悲しそうな表情を見せた。表情がコロコロと変わって面白かった。表情筋が発達しているのだろう。

「お気遣い…ありがとうございます。そう言ってもらえると、私もこの人も…救われたような気持ちになれます」

 店長がところどころ言葉につまりながら話す。今私は悲しい気持ちですよ、とアピールしようとしているのだろう。この演技に僕も協力しようと思ったが、設定がよく分からないのでボロを出さないよう、俯くだけに留めた。

 今僕らが話している老婆は、『自由の会』のメンバーだ。『自由の会』というのは、『魔女の会』の下部組織のようなものらしい。

 『自由の会』が運営する自給自足コミュニティ『自由の里』を使ってメンバーを集め、集まった『自由の会』のメンバーの一部が『魔女の会』として活動しているらしい。

 『魔女の会』は秘匿性の高い組織だ。コマとして使えるなら誰でも良いわけではない。信用できるメンバーを選定するために、『自由の会』というクッションを一枚挟んでいるのだろう。

「ここは本当にいいところだからね。安心していいからね」


「話が長くて疲れませんでした?僕はもう嫌になったんですが」

「しかたないわ。会話は洗脳の第一歩だから」

 お婆さんの長話から解放された僕達は、与えられた部屋で打ち合わせをしていた。

 今日はもう疲れているでしょう、と言われ『自由の里』の案内は明日以降に行われることになった。

「『自由の会』は随分とお金があるみたいでしたね。どこから巻き上げているんでしょうか?『自由の会』のメンバーはそんなにお金を持っていないでしょうし」

  先程のお婆さんの話によると、『自由の会』のメンバーに会への寄付の義務はないという。寄付は個人の意志で行われているそうだ。実際に、一切寄付をしたことがない人物もこの里にいるそうだが、仲間として受け入れられているという。もちろん、その話のどこまでが事実なのか、分からないが。

「スポンサーがいるんだと思う」

「そのスポンサーへの見返りは何でしょうか?…もしかして、怪しい薬でもつくっているんですかね?」

「いや、それはない。このあたりには薬物の流通ルートがない。隠れて薬物を栽培するとしたら、もっと適した場所がいくらでも見つかるでしょうね」

 現役の売人として、説得力のある言葉だった。

「それに、栽培した薬物をその筋の業者に売るのは、そんなに簡単じゃないのよ。あなたも葉っぱを育ててみればわかるでしょうけど、業者との信頼関係が成り立たないと買ってくれないのよ。薬物の流通ラインは常に危険がつきまとう。だからこそ、お互いの信用が重宝されるのよ」

 つまり、新規参入しにくいビジネス分野だと言える。だとすると、新興宗教団体が参入しやすいビジネスとは、何だろうか?

「あ!魔法ですよ。魔法。『魔女の会』の魔法使いが魔法をサービス業として売り出したんですよ」

「魔法を一回いくらで使ってあげる、みたいなこと?」

「そうです。この分野は先駆者がいませんから、参入できればシェア100%ですよ」

「いいえ。先駆者ならいるわ」

「え?アレモンドさんですか?」

「まあ、彼もそういう仕事をしていないとは言い切れないけれど、それよりももっと大きなシェアを握っている組織があるわ。国よ」

「ああ。確かハーレムをつくってましたよね」

 そうだった。ハーレムをつくっていた、という話のインパクトが大きすぎて、肝心の魔法使いの使い道について考えが及んでいなかった。

「そう。ハーレムを使って多くの魔法使いを抱え込んでいるはず。その魔法使いをじっと家の中に閉じ込めておく理由は無いでしょう?」

 その通りだ。そもそもハーレムの維持費だけでも相当なお金が必要なはずだ。それだけコストの高い魔法使いを、有効利用しようと考えないはずがない。

「国の魔法事業の顧客は、他国か大金持ちだけでしょうけどね。そういう連中から、莫大な儲けを出しているんじゃないかしら」

「じゃあ、庶民を相手に魔法を売っているんじゃないでしょうか?」

「それはリスクが大きすぎるわ。魔法一回の値段を下げて、その分数を売ろうとすると、それだけ多くの人が魔法使いを見ることになる。そうなれば見世物小屋に売り飛ばそうとする輩や、国の魔法使いを管理している連中から目をつけられることになる」

「なら、どうやって儲けているんでしょうか?」

「さあね。でも何かしらの方法で、客を取り合わないようにしているんだと思う」

「例えば、国の魔法使いがやりたがらないような仕事をしたりとか?」

「ありそうな話ね」

 そういう汚れ仕事で、僕が真っ先に連想したのは、殺人だ。国の魔法使いがどのような信念をもちながら、活動しているのか知らないが、普通の感覚ならば、人を殺すことに罪悪感やためらいがある。そういう仕事ならば新規参入できる余地があるのではないだろうか。

 それに、この『自由の里』は人里離れた土地にある。邪魔が入ることなく仕事ができるだろうし、『自由の里』に来る人は何らかの事情を抱えた人が多いだろう。その中には、国やお金持ちにとって不都合な人間もいるのではないだろうか。そういった人を亡き者にしてしまえば、楽に儲けることができる。

 いや、もしかしたら、『自由の里』自体がその目的で作られたのではないだろうか。表向きは権力に逆らう人間だろうと構わず受け入れる安心できる場所。裏では権力者にとって不都合な人間を消すための処刑場。

 さすがに話が飛躍しすぎているな、と自分でも思ったけれど、どうしても『自由の会』が善意だけで成り立っているとは思えなかった。

「そもそもがおかしいんですよね。無料で生活の場を与えるなんて。どう考えても裏があるとしか思えないんですよね」

「そうね。私もその考えに賛成。だけどそう考えてしまうのは、あなたの価値観が偏っているせいじゃないかしら?無条件で人のために尽くすことに価値を見いだせない、そんな人間だから裏があるように見えてしまうんでしょうね。もちろん私もあなた側なんだけどね」

 店長は、僕を責めるわけでもなく、擁護するわけでもなく淡々とそう述べた。

「確かにそうかもしれません。例えば、宗教的な理由で…。いや、それも結局見返りを求めているんでしょうか?」

「さあ?」

 店長は首をかしげた。

「どちらにせよ、『自由の会』のリーダーには会ってみたいです」

「え?もう会ったわよ」

「え?」

「あのお婆さんが『自由の会』のリーダーよ。言ってなかったっけ」

「聞いてませんよ!えっと…。もしかして、あのお婆さんが『魔女の会』のリーダーじゃないですよね」

「いや、それは無い。『魔女の会』のリーダーは表に出てこないでしょうし、あのお婆さんは魔法使いじゃなかったんじゃない?」

「あ、そっか。そうです。魔法使いではありませんでした」

「もちろん、『魔女の会』のリーダーが本当に魔法使いかどうかは分からないけど、あのお婆さんが『魔女の会』のリーダーである可能性は低いでしょうね」

 僕は魔法使いを見分けるための判別機として、今回の仕事に連れてこられたのかもしれない。それでも、誰かの役に立てるのは嬉しいし、不満はない。

「この後は、どうする?私は里の人たちから話を聞こうと思ってるんだけど、一緒に来る?」

「もちろんです。邪魔でないのなら」

「あ、でも二手に分かれたほうが効率がいいか」

「危険じゃないですか?」

「あなたが?それとも私が?」

 店長は笑いながら言う。冗談で言っているのだろうけれど、何が冗談なのかわからない。

「僕は魔法が使えるので、危ないのは店長かと」

「そう?あなたは魔法が使えるからこそ、真っ先に狙われそうだけど」

 それも一理あるな、と思った。僕から先に始末したほうが、後々動きやすくなるはずだから。

「あと、女の子には気をつけてね。ほいほいついていかないように」

「それくらいは心得てますよ」

「本当に?」

「ええ」

 店長はまだ納得していないようだったが、話を進めた。

「じゃあ、里の人から話を聞いてきて。くれぐれも怒らせないようにね」

「店長はどうするんですか?」

「私はマーガレットと話してくるわ」

「知り合いの方が、この里にいるんですか?」

「昔は一緒に遊んだりしたんだけど、いまでも友人と呼べるかは怪しいわね」

 ステンやアレモンドは仕事仲間だし、店長の友人と呼べるような人に、まだ会っていなかったので、個人的に興味があった。

「どんな人なんですか」

「変わった人だけど、いい人よ」

 店長は年齢不詳だ。はじめは、僕より年下だと思っていたけれど、いまは年上なのではないか、と思っている。

 彼女の容姿は幼く見えるが、その言動がその容姿と見合うものではない。もしかしたら、魔法で若返ったのではないかと考えるくらい、落ち着き払った大人の風格がある。

 彼女はどのように友人と話すのだろうか。子供のように砕けた口調で話すのだろうか。気になる。

「僕も同行したいんですけど、だめですか?」

「それじゃあ二手にわかれる意味がないじゃない。どっちも仕事を果たすうえで大事なことなんだから。聞き込みは任せるわ」

「じゃあ明日、マーガレットさんに会わせてください」

「そんなにマーガレットに会いたいの?まあ、時間があったら会っても構わないけど」

 店長は不思議そうな顔をした。


 地面はでこぼこしていて、歩くたびに足の裏に小石が当たる。そんな道を歩いていた。

 畑のようだが至る所に雑草が自由に生えているような土地が続く。

 畑の成れの果てか、休耕地だろう。このあたりは土地に対して人の数が圧倒的に少ない。都市部までの道もあるにはあるのだが、整備が行き届いておらず、大規模な農業を行って生計を立てられるような環境ではなかった。そういう所に『自由の里』は目をつけたのだろう。

 少し先に、農作業をしている人影が見えた。緑色が低い位置にある。まだ作物を植えたばかりなのだろう。

「こんにちは」

「誰だ、あんた」

 老人と言っていいような容姿の男性だった。だが、口調も動作もしっかりとしていた。典型的な、田舎の農家だ。

「私は『自由の里』の見学に来たものです。今、何をされているのでしょうか?」

「見て分かるだろ。収穫だよ」

 男性はかごの中に収穫した作物を入れていた。

「芋ですか?」

 男性は吹き出した。何が面白かったのだろう。もしかして、これは芋ではないのだろうか。

「あんた、都会育ちか?」

「はい、中央の方から来ました」

「中央ねぇ…」

 男性は少し険しい表情をした。

「あんたがここで暮らすつもりなら、もっと自然を見た方がいい」

「自然を見るとは?」

 哲学的な問いかけか?と身構えた。なぜならここは宗教団体の施設なのだから。哲学的な問いかけは、宗教の得意分野だ。

「そのままの意味だ。あんたは都会から来て、ここはいい景色だ、なんて思ったかもしれないが、とんでもない。虫はわんさかいるわ、土ぼこりで汚れるわで、最悪だよ」

「じゃあ、どうしてこの仕事を?」

「面白いからだ」

 男性はにやりと笑った。

「今収穫しているのは芋だ。もともとこの付近に自生していなかった品種で、この土地で育つかどうか、誰にもわからなかった。でも、俺だけはその答えを知っている」

 男性はかごの中から芋を取り出してみせた。

「すごいですね。このあたりでは珍しい品種として、高く売れるんじゃないですか?」

 男性はまた吹き出した。

「逆だよ。売り物にならない。見たことのない、得体のしれない食べ物を買うやつはいない。調理方法だって普及してないんだ、需要がないよ」

「じゃあ、どうしてこれを育てたんですか?」

「半分趣味みたいなもんだよ。俺が知らないことが、この世には山ほどあるんだ。それを少しずつ知っていけるのは、幸せなことだと思わないか?」

 確かに面白そうな仕事だと思うが、「幸せ」という言葉を出されてしまうと、ちょっと引いてしまう。僕が宗教に対してナーバスなのだろうか。

「もしかしてこの里の運営のことを気にしてるのか?そんなの気にする必要はない。信仰心の厚い連中だけど、押し付けてくることはないよ」

 僕は考えていることが表情に出やすいのだろうか。この世界に来てから心境を見破られることがしょっちゅうある。

「あなたも、その宗教を信仰しているのですか?」

「まあな。ただ、宗教的な意味で寄付をしたことはないし、そのことで怒られたこともない」

「宗教的な意味の寄付ってなんですか?」

「ああ、要するに、団体を運営するための金銭的な寄付って意味のことだ。俺が育てた商品価値のない作物を里の連中に配ることはあるが、金を団体にくれてやったことはない」

 そういえば、寄付をしない人もいると話を聞いたな、と思い出した。

「でも、なんだか怖くないですか?そういう信仰心の厚い人が近所にいるのって」

「怖くなんかないさ。俺が知っている里の連中は、みんないいやつだよ」

 この言葉に、僕ははっとさせられた。

 僕は人を見ていたわけではなく、その人の属性を見ていたのだ。その人が何を信仰しているかで、その人を評価していたのだ。

「よかったら、家にこないか?」

「それは嬉しいのですが、他の住人にも話を聞きたいので」

「それならちょうどいい。このあと家でちょっとした集まりがあるんだ。あんたも参加するといい」

「いいんですか。僕なんかが大事な集まりに顔をだしても」

 男性は声を出して笑った。

「大した集まりじゃない。同じように農家をやってる連中であつまってだべるだけさ。ちょうどいい話のネタにもなるし、遠慮なんかしなくていいさ」

「ご迷惑じゃないのでしたら…」

 男性はドルマーと名乗った。よくわからないが、歓迎されているようだ。

「家はすぐそこなんだ」

 そういってドルマーが指差した方向の30mほど先に建物がみえた。僕がイメージしていた、田舎っぽさはなく、都会的なデザインだった。

「おしゃれなご自宅ですね」

「まあ、借り物だけどな」

 ドルマーは照れくさそうに笑った。

 畑の真向かいから、数秒道沿いに歩いたところにドルマーの家はあった。

「もうすぐあいつらもくるだろうから、ゆっくりしててくれ」

「ありがとうございます」

 家の客間兼リビング兼ダイニングらしいところに通されたのだが、どう寛いでいいのかわからない。

 部屋には大きなソファが2つ、L字に置かれていた。1つのソファに少なくとも3人は座れるはずだ。つめれば4人座れるだろう。

 テーブルは近くにはなく、キッチンの近くに1つあるだけだ。食事用のテーブルだろう。

「この里には一人で来たのか?」

 ドルマーがキッチンの方から声をかけてきた。テレビもラジオもないので、それほど大きな声でなくても十分聞き取れた。

「いいえ、もう一人、連れがいます」

「へぇ、あんたの大事な人かい?」

 ドルマーの声が、なんだか喜んでいるように聞こえた。からかっているのだろう。

「はい、そうですね。でも、向こうは僕のことをどう思っているのか、知りませんけど」

 どう答えるべきか迷ったけれど、正直に答えるべきだと判断した。

「おせっかいかもしれんが、話し合ったほうがいいぜ。人生そう長くない。話せなくなる前に話しておけよ」

 ドルマーはそう言いながらカップを両手にもって、カウンターキッチンから出てきた。

「そうですね」

 ドルマーからカップを1つ受け取る。温かいお茶のようだ。

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