第4話 試練の後
リアルバタバタで遅くなりました…
ケイが倒れ込んだ時、今日夏に真っ先に生まれた感情、それは安堵であった。
この子は期待に答えてくれた。
いくら今まで両手では到底数え切れない失敗作を始末してきたとはいえ、それはやはり彼女にとって真っ先に避けたいことではあったのだ。
今日夏は倒れ込んだケイを抱きかかえ広場の奥へと消えた。
「うっ…」
目を覚ますとそこはベッドの上であった。言うまでもなくさっきまでの広場とも違い、ケイにとっては知らない天井である。
右手を天井にかざす。
「痛っ!」
腕全体、指一本一本に至るまでの刺すような痛み。筋肉痛と肉離れの中間のような痛み。
しかし、変色して腫れてまっ黒焦げになったような見た目だった右手は元のように戻っていた。
一つ違うのは薬指に嵌まった指輪。最初はただの透明な石にしか見えなかった部分も少し青みがかかったように見える。
そしてそこから流れ出る力。それを感じていた。最初嵌めた瞬間は得体の知れない感覚に襲われたが、今はそれが心地よく感じるほどだ。それは鍼治療に似ているのかもしれない。本来痛みを与えるはずのものをうまく制御することで快感へと昇華する、そんな感じなのかもしれない。
ベッドを覆うカーテンを開け、ベッドに腰掛ける。4人部屋なのだろうか、他のベッドにも白いカーテンが掛かっていた。
そして、部屋の窓からは赤く染まった空が見えていた。
そこそこの時間が経過していたようだ。
ドアを開け、部屋から出る。廊下にはただ、ドアの軋む音だけが響いた。
「起きたようね。」
ケイから見て開いたドアの影になる場所、そこに今日夏は寄りかかっていた。
まるで花の活けられていない白い花瓶のように周りの気配と完全に同化していた。
「うわっ!」
思わず、ケイは声をあげた。
「まずは試練通過おめでとう。これであなたは学園の生徒よ。荷物は部屋に持っていってるから案内するわね。」
そう言って、今日夏は歩き出した。
できるだけ事務的に、そう意識して。
時間は少し遡る。
一通りの試練の後、今日夏は苦悩していた。
結局、彼女は今日一日で20人の試練を行った。
通過人数は6人。始末したのも6人。
ケイの試練の後、彼女は願っていた。
この感情をどうかこの後の試練でも感じますように、と。
この情動はケイという個人に対してではなく、彼女、今日夏という人間が人間味を増したから感じるようになったものだ、と。
なぜか。それは確率の問題だ。
15%。
この数字は持つものになって3年以内に死亡する確率である。
40%。
これは試練を通過できずにその場で始末せざる得なくなるものの確率。
彼女も多くの同期が帰らぬ人になったのを、後輩が後輩になれず始末されるのを見てきた。そして現在は始末する立場。
個人への感情移入はきっと後悔する、そういった思いが彼女の中にあった。
だから彼女はもがいた。ケイに感情移入していないことにしようとした。
しかし、それは無理であった。
なら、どうするか。後悔しないようにする。そう決めたのだった。
今日夏は進む。その後ろにケイはついていく。足音のみが廊下に響く。
「あの…今日はありがとうございました。」
「いいのよ」
そして、再び二人は無言になる。
やがて、二人は目的地である部屋の前へとついた。
「これが部屋の鍵ね。晩御飯は7時から右に真っすぐ行った突き当りで。朝食は6時から、場所は同じ。その後の日程は後で連絡が来るわ。」
そういうと今日夏は去っていこうとした。
「あ、あの…本当にありがとうございました!」
今日夏にとって後ろから聞こえる大声、言うまでもなくケイのものだ。
彼は今でも何がなんやらわからない上、変な感覚に襲われ続けているのだ。歩くことですら卵を万力で固定するかのごとく精密な作業のように感じるのだ。
それでも歩くことも頑張った。そして祭儀にやることはお礼を言うこと。それは無言の合間に考えていたのだ。
実際、彼は自分が思った以上に声が出ていて驚いていた。しかし、それは今日夏にとって救いであった。
「きっと彼はやってくれる」
そう思わせるには十分な声であった。
結構、今日夏さんはウブなのかもしれません。
それは作者すら知りません。