第3話 入学試練
第三話です。
さてどうなるでしょうか!
お楽しみにー
「じゃあ、準備はいいかしら?」
今日夏はケイに尋ねた。
「はい!」
その声を聞いて彼女は微笑み、そして一つの箱を取り出した。
指輪入れほどの小さな箱だ。
中には1センチほどの透明な石がついた指輪が入っていた。
「これにディペンダーの欠片が入っているわ。嵌めるともう後戻りはできない。いいわね。」
今日夏は改めて確認する。ケイは頷く。
「じゃあ、あなたの成功を祈ってちょっとだけ処置をするわね。右手を捲って前に出して。」
ケイはそれに従って腕を出した。
今日夏はそこにどこから取り出したか、すかさず注射を行った。
「あ、えっ…」
ケイは動転した。いきなり注射されるなんて思ってもいなかったからだ。
「大丈夫、少し心臓がバクバクするかもしれないけど人体にそんなに有害でもないから。ただの興奮剤よ。」
ケイの心臓はどんどん心拍を上げていく。それに伴い息も荒くなってくる。
「そろそろ、行くわ。私の手を握って。」
そう言って彼女は手を差し出した。
ケイはそれに捕まり、ソファから身を起こした。
少しふらつきながらも今日夏に引っ張られつつ部屋から出ていくケイ。
その顔は普段見せないような狂った笑顔だった。
改めて広場に出る二人。その壁や地面の所々に赤黒いシミがあることにケイが気づく余裕なんてまったくなかった。
広場の中央についた二人は向かい合って立った。
「嵌めるわね。」
ケイの右手の薬指に指輪が嵌まる。
ケイは目を見開いた。
暑い熱いアツいあつい冷たいつめたいツメタイ痛いイタイキモチイイ…
ケイは薬指からさっき感じたオーラの比ではないものを感じていた。
薬指から侵されていく感覚、自分の体が自分の体じゃないような感覚、包み込まれていく快感、背筋が凍るようなおぞましさ、ありとあらゆる感覚の波がケイの体を襲う。
「うっぐあああああああああ」
ケイが雄叫びを上げる。もはや声にすらならなくなっている。
一方、今日夏は落ち着いていた。このディペンダー堕ろしは当たるも八卦当たらぬも八卦。
失敗することも多々ある。
失敗したら始末するだけ。今日夏はそのための人員なのだから。
さっき打った薬剤はあくまで確率を上げるだけ。失敗もいっぱい見てきたし、始末もお手の物だ。
でも、今日夏は珍しく少しだけ心配していた。いつものことなのに、なぜか彼には成功してほしい。そういう思いがいつもより強かった。それは彼女の足を見ると明らかである。地面をグリグリしている。
ケイは意識が朦朧としてきた。
ここで意識を手放せば楽になる。悪魔の囁きが聞こえる。
そうすればいいかな。生きてたって何もいいことなかったし…
「@$R^&U%^&&$%&#RDSGF」
口から漏れる謎の言葉。もうケイは口を操る権限すら失った。
どす黒く変色するケイの右手、それはグンタイアリの大群が押し寄せるかのように手首、腕へと侵食している。
ああ、これで終わりだ…。ケイの意識が闇に落ちる、その時だった。
「頑張りなさい!ここで終わっていいの?!」
今日夏の口から思わず励ましが出ていた。普段はこんな言葉かけないのに、子供なんて使い捨てなのに…
思い出したのは自分の時、まだ今よりも成功率の低かった時代。
ママっ子だった今日夏は母親のことを思って試練を通過した。
彼にもきっと何か生きていく頼りがあるはず。それを思い浮かべたら…
このままで終われない。ケイはそう思った。ケイがここへ来たのには理由があった。
それは約束。
「今度は大陸で会おう。」
そう言って旅立った父。幼き時代の記憶だが、それだけは覚えている。
ケイの父は持たざるものだった。それはまだディペンダーの憑依が一般的でなかったからだ。
ディペンダー憑依ができるようになったのは10年ほど前から、それ以前は実験的に行った人の極一部の成功例のみ。
持つものになって、フロンティアを旅する。それが父の夢だった。
そして、それが叶うと分かった時、彼は旅立った。
そこから8年。文は1度のみ。それも一言、「待っている」だけだった。
もう一度会いたい。
だから俺は持つものになるんだ。
ケイは思い出した。
……自然と楽になってきた。
目の前にはコンクリート打ちっぱなしの壁。草が全く生えない土地。そこに一人の女性。
ああ、無事に終わったんだ。
ケイはその場に倒れこんだ。
まあ、大方の皆様の予想通りだと思います。
書いてる作者自身もあー、この展開かーってなるやつです。
なお、作者の脳内は空っぽのため次に何が出てくるかは神のみぞ知るってやつです。