【王宮編】晩餐会
「アキ殿下。アクワルド子爵様がお見えになりました」
よく通る声で、リリスが来客を知らせる。
アキは左手の腕時計を見る。現代の文明の利器が『18:27』を示していた。
「うん、通していいよ」
(みーちゃん、今日はちょっと早いな。いつもは食事が終わってからなのに)
アキがこの世界に来てから今日でちょうど7日目。いつもなら食事が終わった20:00以降にミリィは訪れるのだが、今日は少し早いようだ。
「アキ、退屈していましたか?」
「最初に比べればそうでもないけど。最近は後宮の中庭を散歩したり、リリスとマーニャに駒盤戦記ガーロゥを教えてもらったりしてるよ。最初は負け続きだったけど、今は勝てるようになったんだ!」
「へぇ……あのリリスとマーニャをねえ……」
ミリィは感嘆の声を上げる。駒盤戦記ガーロゥはチェスや将棋に似たゲームで、王駒キングを詰ませるのが目的だ。ルールは覚えやすく、アキにとっては退屈な後宮生活を楽しむ数少ない娯楽になっていた。
「アキ、今度私も相手になってくださいね」
「もちろん、大歓迎だよ!みーちゃんだからって手加減はしないから!」
ミリィは満足そうに笑みを浮かべ、ソファに腰を下ろして伸びをする。
「ねえ、最近思うんだけど、みーちゃん、僕の部屋に来てくつろぎ過ぎじゃない? 一応、今は王族のお姫様として過ごしてるんだけど」
「そうですねえ。でも、堅苦しい話し方や振る舞いを続けたら、アキが疲れてしまうでしょう? 私はアキが望むなら、これから王家の従者として接しますが……」
「そっかあ、それなら今のままでいいかも」
アキは、この世界でミリィと再会したときのことを思い出す。あの調子で喋られるより、今の方がずっと気楽だった。
「解っていただけてうれしいですアキ。でも私も分別くらいありますよ。こうして二人きりの時しか、自由な振る舞いはしませんから」
「それはそうと、今日はいつもより早いね。何かあったの?」
アキが疑問を口にすると、ミリィは丁寧に説明した。
「今日は、グリンビルド王国の当主、現国王マルビット陛下から晩餐会へのお招きがありまして、アキの紹介やご挨拶を兼ねて食事会を開きたいとのことです」
「重要な話ってことは、ここで食事はできないんだね」
「はい。それと、陛下からお預かりしたものがあります」
ミリィが丁寧にたたまれた白い服を渡す。
「……これ、服?」
「はい、アキの体に合わせて作った可愛らしいドレスです」
今着ているワンピースより少し大きめで、床すれすれ。ドレスの金糸や繊細な縫製が高級感を醸し出している。
(いや、元々女性だからおかしくはないけど……でも慣れないなあ)
鏡で初めて見た自分の姿を思い出す。白く透き通った肌、磁器のような整った顔立ち、金髪碧眼の少女。体と心のズレがまだ少し残っているアキは、複雑な気持ちでドレスを見つめた。
「何を悩んでいるんですか? アキは今、とても可愛いんですよ。このドレス、絶対似合います」
ミリィの言葉に、アキは少しだけ気持ちを落ち着けた。もうこうなったら、この世界で女性として生きるしかないのだ。




