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【王宮編】魔具と電子機器

ファンタジー世界の時間の概念ってなんなんでしょーね。

うん、めんどくさいから24時間でいいじゃない。ダメ?

百合姫を投入してみる。

 漆黒の闇の中、足元を照らすのには頼りない星の光と月の光。


 ――――夜。


 この世界に来てから2日目。


 アキは大理石で出来たテラスから夜空を眺めていた。


 眺めた先におぼろげに光る5つの天体


 この世界で月と呼ばれるものだ。


 それは大きい物から順に並び、右に行くほど徐々に小さくなっていた。


 正確にはこの惑星の衛星が5つあるということなのだろう。


 中学の理科で、月は地球の周りを回る衛星ということを知っている。


 ただ、それ以上の詳しいことはアキは天文学者でもないしよくわからない。


「……何かとんでもない所に来ちゃったなぁ」


 感慨深く呟く。


 ふと、思い出したように左手首に填めてある黒い色の腕輪に人差し指で軽くで触れる。



 Mon 22:54



 ELバックライトの光が浮かび上がらせたのはアキが過ごした世界の数字。



 現代の時刻を指す道具。


 一昔前に品薄になるほど流行った腕時計。


 確かGが付く名前だった。


 名前の由来は象が踏んでも壊れないGANJOガンジョウの意味から来ているらしい。


 アキが高校入学するときに里親夫婦に買ってもらった腕時計だ。


 この時計の優れたところは電池とは別に太陽の光や光源があれば電池交換不要という点。


 いわゆるソーラー電波時計というものだ。


 こちらの世界に来た後、偽の身体が唯一身につけていた現代の持ち物。


 それを今朝みーちゃんが届けてくれたのである。


 と、いっても現代の時間がこの世界の1日の時間とリンクしていなければ意味がないし1日が24時間とは限らない。


 みーちゃんには悪いがこの世界でとても役に立つとは思えなかったのが本音だったがそれは杞憂だった。


 不思議なことにこの世界の時間の概念はあちらの世界と酷似していた。


 太陽が一番高い時にある時が正午、昼としているらしい。


 その理由はアキについている侍女の昼の食事を持ってくる時間がアキの時計で12:00を指した時間になる。


 正確には11:51分を指していた、誤差も10分程度だ。


 ということは昼食の時間は正午を指すとなれば、こちらの世界も時計に変わる時間を示す何かがあるということになる。


 これはこの時計の有用性を知るためにもこれからも要観察である。




 時間のこともそうだが、もうひとつアキは心配していることがあった。


 照明器具のことである。


 現代の夜には完全な闇はなく都会の街並みは眠るということを知らなかった。


 夜でも煌びやかなLEDの光や電飾で彩られ、光を失った真っ暗闇の世界で24時間営業のコンビニでも十分すぎる明かりを人々にもたらした。


 そういう生活に慣れていたアキは、少なからずこの世界で不便を強いられることを覚悟していたが、その覚悟は拍子抜けするものだった。


 アキに与えられた部屋の4隅にあるLED電飾に似た光を放つスタンドライト。


 勿論、電気ではなく魔力で作り出した明かりだそうだ。


 科学が発達していたアキのいた世界と違ってこの世界は魔法の力、魔力と呼ばれる科学に変わるエネルギーが発達していた。


 そしてその魔力を応用した魔力が使えない人間でも使える魔力の媒体、魔具というものがこの世界で浸透している。


 この魔具の登場により夜も暗闇に支配されることなく闇をこうこうと照らしてくれる。


 そしてその魔具はこの世界の人間の生活を豊かにした。


 ある時は風を使った魔具で涼を取りまたある時は火を使った魔具で暖を取る。


 魔具はこの世界の生活になくてはならないものになりつつあった。


 ただ、これは上流階級の話であって庶民に当てはまるものではない。


 魔具というものは作成するには専門の知識を持ったものが時間をかけて作り上げる。


 それには多大な時間を要した為現代の工場で大量生産というのも出来ないのだ。


 その為必然的に魔具なるものはそれ相応の値段が付いた。


 一般の人間には高級品とされる魔具を持つというのが最近の貴族のステータスとなっていた。



「いい加減、この監視されてるような生活もストレスたまるなぁ」


 それというのも部屋の入り口にはアキの身の回りの生活をお世話する侍女2人が常に待機している。

 確か名前はリリスとマーニャと言ったか。


 年はアキたちと同い年の16歳、年頃の女の子である。


 リリスとマーニャは専属で大体日が昇り始める頃に仕事についてアキが眠りに付く深夜まで待機している。


 そのあとは代わりの侍女が夜交代で番をするそうだ。


『何か御用があればなんなりとお申し付けください』と、言われたものの…食事を運んでくる時間以外はアキはあまり用事は頼まなかった。


 そのせいか侍女は『姫様は私たちのことをお気に召していないのでは?嫌われてしまったのではないか?』や『私たちが何か粗相をしてしまったのではないでしょうか?』と二人で悩んでることもアキは知る由もない。


 ただ、単にあちらの世界で男の子として生活を送ったアキにとって同い年の彼女たちに何か物を頼んだりするのはまだしも、着替えを頼んだり身体を拭いてもらったり等は恥ずかしくて頼めない……というのが本音だ。


 だが今アキは女性の身体。

 男の身体ではない。

 グリンビルド王国のお姫様なのだから。


 1日目は疲労感で身体が動かなかったこともあり、着替えや身体を拭いてもらうのはみーちゃんに頼んだ。


 美人ではあるが、アキが彼女に対して抱く感情は恋愛感情とは異なる。


 血のつながりはないが、家族以上に家族らしいエルフの娘。


 言うなれば、年上のお姉ちゃん的存在といっても過言ではない。


 だからといって、ずっとみーちゃんに頼むわけにはいかないのも理解している。


 これから王宮生活を送るにあたって侍女たちとの問題は避けては通れない。


 ましてやアキは女性なのだから、女性同士恥ずかしがることないではないかと言われればそうであるが、元々男、女に関わらず銭湯や温泉というものがアキは個人的に嫌いだった。


 正確には温泉は嫌いじゃない。


 人に自分の身体を見られるというのがとてつもなく嫌だったのだ。


 大衆利用の銭湯。

 大衆利用の温泉。


 人の目があるところでは身体は晒したくない。


 別にコンプレックスがあるわけでもない。


 ただなんとなく嫌だ。そんな意固地な信念めいたものをアキは持っていた。


「でもこのままじゃ、いけないよね。この生活にも慣れていかないとみーちゃんにも迷惑かけちゃうしなあ」


 そう言ってアキはまた深いため息をついた。


「アキ、入りますよ」


 聞きなれた声にその声の主は誰なのか容易に想像が付いた。


「みーちゃん!凄く待ってたよ」


 振り返り予想通りの人物がいたことに安心して目をキラキラさせるアキ。


「アキ、その様子だと退屈していましたか? リリスとマーニャも心配してましたよ。私達姫様に嫌われたんじゃないかって」


「嫌ってはいないけど……頼み辛いんだって。何でもかんでも頼むのって何か悪い気がするし」


「それは逆ですよ。彼女達はアキのお世話をするのが仕事なのですから。やって欲しい事どんどん頼んじゃったりした方が彼女たちも喜ぶと思います」


「そうなのかな……?」


「そうですよ。事実着替えや身体拭くの断ったのでしょう?姫様なのですから清潔にしてないとだめですよ。これから彼女たちと毎日関わっていくんですから今のうちに慣れておかないと」


「解ってるけど。恥ずかしいし」


「何言ってるんですか?今は女性同士なんですから恥ずかしがることもないじゃないですか。現に私が身体拭いてあげるときは平気だったじゃないですか」


「それは……みーちゃんはお姉ちゃん的な感じでそんなに恥ずかしくないって言うか……」


「それはそれで嬉しいことだけど。私は24時間ずっとアキの傍に居れるわけじゃないからね。もうちょっとリリス達を頼ってもいいと思います。それはそうとアキ一緒にお風呂に入りませんか? 姫様らしい身だしなみも整えないとだめです」


「お風呂?」


 オウム返しに聞き返す。


「はい。あちらの世界にもあったようにこの世界にもお風呂ありますよ。ただちょっとあの世界のお風呂とは違いますけど」


「一緒なら入る!」


「わかりました。それではリリス達に用意させておきます」


「うん、お願い!」


 そう元気に答えたのだった。



 ◆◇◆






「ギィ、その話本当なのですか? お姉さまをガーランドに入学させるって」


  信じられない! という様な表情でルエルはギィと呼ばれた青年に再度聞き返した。


  後宮のとある一室。

  ルエルは従者ギィといつもと変わらぬ定時連絡?を交わしていた。


  グリンビルド王国では、王族の子に従者と呼ばれる者が付けられることになっている。


  即位したり、成人かつ王族として一人前と認められるまでに教育係兼ボディーガードであり、ある時は主の悩みを聞くカウンセラー的な役割を持つ。


  アキで言えばミリィ・デルーシュ・アクワルド子爵がそれにあたる。


  従者と呼ばれるものは王国に代々多大な貢献をした貴族の中から選ばれ、そしてその資格を与えられるのは年上で見識が広く、且つ主となる人物と年齢が離れすぎていない人物に限られる。


  この従者に選ばれたものは王宮での最低でも官僚の地位が約束される為、従者に選ばれる選定試験には、次代の名家の称号を得るため貴族はこぞって自分の娘、息子に英才教育を惜しまない。


  そんな貴族の家庭に育った優秀なギィだが、実際のところ、このワガママ姫に尻に敷かれていた。


「はい。小耳に挟んだ程度なのですが、ウリエル将軍からの情報なので信憑性はあると思います」


「ああ。なんということでしょう……長年待ち続けた結果がこれですか……やっとお姉さまと会えたというのに……なんという酷い仕打ち」


「姫様。お気を確かに……」


「お父様は酷いですわ、私はお姉様とこの王宮で仲睦まじい生活を送りたいだけなのに。それさえも取り上げてしまうのですか?」


「いえ、アキ様はちゃんとした魔法教育も適性検査も受けておられませんし、遅かれ早かれグリンビルド王国を継ぐお方です。他国との外交等の交渉術や王族としての立ち振る舞いをきちんと学習する必要があると思います。それでガーランド魔術学校に入学させるのが手っ取り早いとお考えになられたのでしょう……」



「折角お姉さまと会えたのにこれでは生殺しではないですかっ! ひどい! ひどいですわ。お父様は意地悪です。私は何も悪いことはしていないのに」



「心中をお察しします。姫様……」


「そうだ! いい事を思いつきました!」


  ルエルの中で何かが閃く。


  ギィはびくりと身を震わせる。


 ルエルお嬢様が何かいい事を思いつくときは大抵良いことではない。その経験から言葉より先にからだが反応してしまう。


「……その、思いついた事とは何でございましょう?」


  おそるおそる、明らかに厄介ごとだろうと理解しているものの聞き返してみる。


「そう! そうですわ。私もお姉さまと一緒に入学すれば離れることはないです。決めました。私もガーランドに入学します!」


  びしっとあさっての方に人差し指を突き出して、そう高らかに宣言するルエルをよそにギィは頭を抱えたのだった。


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