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【王宮編】もう一人の再会

 

「殿下。私です、ミリィです」


 聞き覚えのある声にアキは、頭から被っていたシーツから少しだけ目を出して、声のするほうへ視線を移した。


 部屋の入り口から少し離れたソファの横に彼女はいた。


 金髪のロングヘア、まるで人形のような端正な顔立ちに緑色の瞳、透き通るような白い肌。そして金髪のサラサラな髪から顔を出す尖がった耳。


 そして何より視線がいくのはその豊満なバスト。

 ファンタジー世界に出てくるエルフのそれだ。


「……みーちゃんだよね……?」


 おそるおそる、自分の中にある答えを確かめるように尋ねる


「はい。殿下の今の記憶では12年間一緒に生活をともにしたミリィでございます」


 どうも口調が変である。


 一緒にいたときは、このような他人行儀な言葉遣いじゃなくてもっとフレンドリーな話し方だったというのに。


「本当にみーちゃんだよね……?」


 確かめるように再度聞きなおす。


「左様でございます。なんなら姫様の中学校時代の恥ずかしいエピソードを語って差し上げましょうか?」


「やめてくれ!」


 この人物は本物のようだ。


「分かっていただけて嬉しく思います。アキ殿下」


「その他人行儀な話し方はやめてくれ」


「そう言われましても、私と姫様は身分の違いがあります。王宮に仕える身ですから、もし国の者にわたくしと姫様が対等にタメ語で喋っていては他のものに示しがつかなくなります」


 現状、このグリンビルド王国という国の姫という目上の立場なのだから確かにそうなのかもしれない。


 しかし、このエルフはわざと今この他人行儀な状況に、戸惑っているアキに対して反応を楽しんでいるのではないか? という邪推も生まれてくる。


「それじゃ、その話し方やめにして、今まで通りいつもの調子で普通に喋ってくれると嬉しいんだけど」


 とても親しい友人で、気を使うこともなく遠慮なくなんでも言える仲。

 そんな親友とも呼べる存在に、何の前触れもなく敬語を使われたらどうだろう。

 なにかと気持ち悪いし、急に体の何処かがムズ痒くなってくる。アキはまさに今そんな気分だった。


「それはご命令でしょうか?」


「命令というよりお願いだよ。僕はみーちゃんに命令なんてしたくない」


「はあ。分かりました」


 深く大きくため息をついてミリィは語り出す。


「では失礼して……。私も気をつけていたんですが、あっちの生活が長かったせいか敬語が話せなくなりそうでちょっと怖かったんです。あちらの世界の調子で会話をしようものなら軽蔑されかねませんし」


 そう言ってミリィはベッドにすとんと腰を下ろした。


「確かにそうだよね。マシュウさんからこの世界のこと本当の自分のこと、色々と聞いたけど未だに信じられないんだ」


「無理もないです。アキは当時の事を覚えてないのだから」


「当時のこと?」


「はい。当時4歳だったアキは、精神と肉体を分離させたときのショックで記憶を失ってしまったみたいなのです」


 アキは現代で過ごした記憶しかない。現代で過ごしてきた時間が全てである以上、ここがあなたの故郷ですよ? と言われてもいまいちピンとこないのは当たり前のことである。


 ミリィは続ける。


「今の現状だとアキが過ごしたあちらの世界の12年間が、アキの記憶の全てですから混乱するのは当たり前です。私もあちらの世界のダラダラとした生活をしていたあまり私も自分の任務というのを危うく忘れそうになりました」


 確実に忘れてただろ! というアキの心の中の突っ込みを知ってか知らずか


「だけどそれが良かったのかもしれません」と切り出す。


「どうして?」


「王家にかけられた呪いは恐らく、精神に寄生するタイプの呪術だったそうです。体に流れる王家の魔力と自分自身がその王家の血筋であるという認識があるからこそ、その呪術は発動した可能性があるのです。つまり、自分がグリンビルド王国の血筋であるという認識がある。4歳までの記憶がちゃんと残っていたならばこの世界とつながりの薄いあちらの世界でも発動してしまう危険性が無きにもあらずでした。だからそういう意味では記憶を失っていたのは不幸中の幸いだったかもしれません。これは私たちの憶測でしかないのですけど」


「なるほどね。じゃあみーちゃんが自分の素性や俺の素性を隠していたのはその呪いって奴が発動してしまう危険性があったから黙ってたってことでいいのかな?」


「そうです。だからあまり他人行儀な話し方をすると色々とやりにくかったから。というのもあります。それで思い出してしまったら……というのもありますし」


「でもぶっちゃけこんな体になっていきなり姫様なんて呼ばれちゃって、おまけにあなたが最後の希望なのですよ?と言われたら、どうしたらいいかわかんなくなるんだよね」


「アキ。知らない世界で不安になるのはよくわかりますよ。でも心配しないでください。アキは一人じゃない。私が付いていますっ! 何かあったら私が何でも相談に乗りますし、それに今まで一緒に二人で頑張ってきたじゃないですかっ!」


 胸を張って私がいれば大丈夫だ!といわんばかりにアピールするミリィ。


 こんな状況で自分の気持ちをちゃんと理解してくれるみーちゃんは、本当になくてはならない存在なのだとアキは思った。


「それに昔の記憶をふっと思い出したりするかもしれませんし、そうすればアキも少しずつこの生活も慣れていくのではないでしょうか?」


「そう……だね。昔の事、小さかったときの事思い出したら少しはこの気持ちは楽になるかもしれないね……」


 グリンビルドの王女であった頃の記憶が少しでも戻れば今おかれてる状況も少しは受け入れることが出来るのかもしれない。


「はい。きっとそうですよ」


 肯定してアキの不安を拭うようによしよしと優しくアキの頭をなでる。


「……ねえ?みーちゃん。今夜は忙しい?」


「どうしてですか?」


 心配そうに呟くたアキに、ミリィは優しく微笑んで聞き返す。


「……急にこんなことになって寂しいなって、だから今日は一緒にいてほしい」


 アキは寂しかった。


 自分が過ごした世界。生きてきた世界で、自分のことを理解してくれる雄二も、本当の自分の子供のようにかわいがってくれた里親もいない。


 ただ、この世界で生きていくその状況で、未だに自分の記憶が戻らない現状に世界に一人だけぽつんと取り残されたような気持ちになって、どうしようもなく寂しくて、誰か傍にいてほしい、でないと自分が自分でなくなりそうな不安が押し寄せてきたのである。


 アキの気持ちを悟ってミリィは、

「分かりました。今日はずっとここにいます。だからアキは安心してゆっくり休んでください」


 ミリィの言葉に安心しアキはそっと目を閉じる。


 美しきエルフの娘は甘えん坊でかわいい少女の寝息が聞こえるまで傍にいたのだった。

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