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【王宮編】もう一人の再会



「殿下。私です、ミリィです」




頭からシーツをかぶったまま、アキは声のするほうへ視線を移した。


部屋の入り口の少し先、ソファの横に立つのは、金髪のロングヘア、緑色の瞳、透き通る白い肌の美しいエルフ――ミリィだった。




「……みーちゃんだよね……?」




おそるおそる確認するアキに、ミリィは静かに頷く。




「はい。殿下の今の記憶では、12年間ともに過ごしたミリィでございます」




――口調が変だ。


昔のようなフレンドリーさはなく、敬語に徹している。




「本当にみーちゃんだよね?」




「左様でございます。姫様の中学校時代の恥ずかしい話もできますけど、いかがなさいますか?」




「やめてくれ!」




アキの返事に、ミリィは微笑みながら席に腰を下ろした。




「失礼しました。あちらの世界の調子で話すと、王宮での身分の差に合わず、軽んじられる恐れがありますから」




「そういう事情なら仕方ないけど……でも、今の俺にはその敬語、ちょっと落ち着かないんだ」




「ご命令でしょうか?」




「お願い。命令じゃない。みーちゃんに命令したくない」




ミリィはため息をつき、口を開く。




「実は、王家にかけられた呪いは精神に寄生するタイプのものだったそうです。王家の魔力や血筋の自覚があると発動する危険がある。だから、アキが記憶を失ったことは不幸中の幸いかもしれません」




「なるほど……それで素性を隠してたんだね」




「はい。それと、あまり他人行儀だと逆にやりにくいですし、思い出してしまうのも怖かったのです」




アキは深く息を吐いた。




「突然、姫様だの最後の希望だの言われても、どうしていいかわからないよ」




「わかります。でも大丈夫。私がついています。何があっても相談に乗りますし、二人で頑張ってきたじゃないですか」




ミリィの胸を張った態度に、アキは少しずつ心が軽くなるのを感じた。




「昔の記憶を思い出せば、もっとこの生活も受け入れられるかもね」




「はい、きっとそうです」




ミリィは優しくアキの頭を撫で、安心させるように言った。




「……ねえ、みーちゃん。今夜は忙しい?」




「どうしてですか?」




「寂しいんだ。今日はずっと、そばにいてほしい」




ミリィは微笑み、そっと答えた。




「わかりました。今日はずっとここにいます。安心して休んでください」




アキは目を閉じ、久しぶりに心から安らげた。


ミリィは甘えん坊な姫の寝息が聞こえるまで、そばに寄り添っていた。




アキが深く目を閉じると、ミリィはそっと息をついた。


ベッドの端に座ったまま、姫の寝顔を静かに見つめる。


小さな胸の上下や、かすかに動く指先――無意識に体が安心していることを示す微細な仕草に、ミリィは心を和ませた。




「よかった……少しは落ち着いてくれたみたい」




彼女は小さく呟き、ベッドの傍に立ち、柔らかい布団を整える。


あちらの世界の暮らしでは、こんな風に誰かのために体を使って気遣うことはほとんどなかった。


今、こうして姫のそばにいられること――それだけで、ミリィの心は穏やかになった。




「これからは、私がずっと守る」




ミリィは心の中で誓い、そっと手をベッドの上に置いた。


体温を感じるわけではないが、何かしらの安心感をアキに伝えられるようにと願った。




静かな寝息が部屋に満ちる。


時折、アキの眉がわずかに動くたびに、ミリィは息を潜めて見守る。


――この子は、この世界で唯一、私のことも覚えていてくれる存在。




「明日も、少しずつでも慣れてくれるといいな……」




ミリィは心の中でそっとつぶやき、布団の端に腰を下ろしたまま、目を細めて眠る姫を見守り続けた。


王宮の豪華な装飾も、広すぎるベッドも、今夜は関係ない。


大事なのは、姫が安心できること――ただそれだけだった。




そして静かに、夜の帳が部屋を包み込み、二人だけの時間がゆっくりと流れていった。



朝の柔らかい光が、白いカーテン越しに部屋を満たす。

アキはゆっくりと目を覚まし、最初は昨夜の感覚がまだ現実か夢か判別がつかないように、しばらく天井を見つめていた。


「……あれ? ここは……」


体を少し起こすと、隣のソファにはミリィが座り、こちらを静かに見守っている。

長い金髪が朝日の光を受けて輝き、緑の瞳は優しく微笑んでいた。


「おはようございます、殿下。よく眠れましたか?」

ミリィの声は昨日の敬語とは少し柔らかく、親しみのある響きが混じっている。


アキはもぞもぞと布団を直しながら小さく頷く。

「うん……なんだか、久しぶりにちゃんと眠れた気がする」


「それはよかったです」

ミリィは少しほっとした表情を見せ、部屋の窓を開けて新鮮な空気を取り込む。

「朝の光は気持ちがいいですね。殿下も少し散歩でもされますか?」


アキは窓の外に目を向け、庭園の緑や噴水の水面を見つめる。

「うん……でも、ちょっと恥ずかしいな。まだこの体に慣れてなくて」


ミリィは微笑んで言う。

「そうですね、最初は違和感がありますよね。着替えやトイレも、今までとは勝手が違いますし……」


アキは顔を赤らめつつ、くすぐったそうに笑った。

「うん……それそれ。今朝も、着替えの時に戸惑っちゃったし、トイレも変な感じで……」


ミリィは軽く笑い、肩に手を置く。

「大丈夫です、殿下。慣れるまでは私が手伝いますから。誰も恥ずかしい思いをさせたりしません」


「ありがとう、みーちゃん……」

アキは安心した表情で深く息をつき、心の奥にあった不安が少しずつ和らいでいくのを感じた。


朝の光の中、二人はしばらく静かに座っていた。

これから始まる日々はまだ不安だらけだけれど、隣にミリィがいることで、アキは少しずつ勇気を取り戻せそうだった。

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