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【王宮編】現状整理と侍女たちの期待

 アキが与えられた部屋は、グリンビルド王宮の中で後宮と呼ばれる場所にあった。


  一般的に王宮とは違い、王宮は王が政治等を行う場所に対して後宮とは王家の者が住まう場所のことを指す。


  つまり、アキがいた世界の名前でいうならば宮内庁に当たる場所である。


  あちらの世界にいた頃、与えられていたのは学生にありがちな4畳半の部屋だ。


  ベッドにパソコン、勉強机を置いてしまえば他は何も置きようがない。


  下手に何か置こうとすれば、ごちゃごちゃとして足の踏み場もなくなってしまう。


  それに比べてアキがこの世界で与えられた部屋はどうだろう。


  白を基調とした家具で統一された小奇麗な内装で、ピカピカに磨かれた白いテーブルに大人4人が楽に腰掛けられるであろう革で出来たソファ。


  驚くのはその広さだ。ゆうに広さが40畳ある。


  そしてその広さに相応しいだけの、ファンタジー世界等に登場する天幕の付いたウルトラキングサイズのベッド。


  老医師マシュウが部屋を出た後、アキは体の割にはあまりにも大きすぎるそのベッドで何度も寝返りを打ちながら、一人物思いに耽っていた。



  大体事情は分かった。


  とりあえず話を整理しよう。


  今の段階で現在アキが過ごした現代社会に戻る術はない。


  ニ重人格という病気ではなくて、みーちゃんというアキを守るために遣わせたエルフさんでこの異世界で実在する人物であること。


  現在みーちゃんはこの世界で元の体に戻って生活していること


  元々アキはこの世界の人間だということ。


  そしてこの話を聞いた後だとアキが過ごした現代社会に戻りたいか? と言われると、YesでもなければNoでもないハッキリいって微妙である。


  12年間過ごした世界ではアキには血のつながった家族が誰一人として存在していないのだから。


  そう考えるとこの世界は自分がいるべき世界なのかもしれない。


  唯一あの世界で未練があるとすれば、自分達の本当の子供のようにかわいがってくれた里親とアキの心情を理解してくれる友達にちゃんとさよならを言えなかったこと、それだけが心残りだ。


  話を戻そう。


  現時点で仮にこの世界で生きていくとして、自分は今女性であり、現時点で第1王位継承者であり外見10歳の女の子である


  つまりこの流れだと、このグリンビルドというこの国を背負う人物にならないといけないということ


  考えるだけでどっと疲れる。


  マシュウが言っていたことだが、元の体と精神を定着させるのはとても精神に負担がかかるそうなのだ。


  このモヤモヤしてむしゃくしゃする一種の焦燥感に似た感情は、これから向かうアキの将来に対する不安感から来るものなのか、体を定着するときに精神に負荷がかかった時のものなのか。


  恐らく両方だろうな。


「ああああああああああ、考えれば考えるほどモヤモヤするっ!!」


  アキはそう叫んで、もう一度シーツを深く頭から被りなおしたのだった。








「姫様の御様子はどうだ?」


  美しきエルフの娘は、部屋の扉の前で様子を伺う侍女達にそっと尋ねる。


「アクワルド子爵様!」


  背後から声を掛けられ、侍女達は声の主に気付いて驚きの声を上げた。

  彼女らは、急遽アキの身の周りの世話を仰せつかったいわば侍女の中でも特に優秀な人材である。


  グリンビルドの眠り姫。


  このグリンビルド王国では知らない者がいない程有名な話である。


  その名前の所以は、呪いが解ける12年間の間、王宮の地下で目覚めの時を待ちながら、静かに眠り続けるグリンビルドの美しき姫君から来ている。


  この国の最後の希望とされるアキ姫の存在、この国の象徴というべき代々受け継がれる魔力の血統。

  各国で受け継ぐ魔力の血統はその王国の国力に比例する。


  そしてそれを継ぐ唯一の血統者。

  それがグリンビルドの眠り姫、つまりアキだ。


  この世界の王国では、強い魔力を持つ王族の血統者が王になることを認められる。


 血統者であった当事の王は魔力の象徴であった。

 特に魔力の血統が濃い血縁者は既におらず、指導者たる血縁者がいないとなれば他の国々からも格下に見られ、国としての面子が保つ事が出来ないし外交に打って出ることが出来なくなる。

  つまりは国は衰退の一歩を辿るだけである。


  そのような事情もあり、最後の希望とされたアキの存在は、グリンビルドの人々の希望とされた。


 憧れのグリンビルドの眠り姫の身の回りを世話をする優秀な専属侍女達でさえも、どのように接していいか未だに分からず、ただアキ姫の部屋の扉の前でオロオロと様子を見守ることしか出来なかったのだ。


「はい。アキ殿下は今情緒不安定なご様子で、時折大きな声で叫ばれたりしていらっしゃいます……」


  心配そうに俯き、侍女の一人が答える。


「そっか。無理もないよ。あっちの世界で普通に過ごしていて、急にこちら側の世界で色々なものを背負わされるんだから……」


「アクワルド様はあちらの世界で姫様と一緒にお過ごしになられたのですよね? 出来ればアキ殿下の喜ばれる何かというものをご存じないでしょうか?」


「知っていることは知っているけど、多分今の状態じゃ何しても駄目じゃないかな。よし! 私が行って元気付けてくるから貴方達はここで待機しててください」


「はい。承知致しました」




  優秀な侍女達二人の返事にうんうんと満足そうに頷いて、美しきエルフの娘はアキの部屋に赴くのだった。


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