表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

【休暇編】エルフの里の当主

 グリンビルド王国よりはずれた森の中にエルフの里があった。


彼らは人知を超えた魔力を有し、その気になれば世界を手に入れるだけの力を持っていた。


だが、彼らは生まれ持った魔力や人知を超えた力を戦争や己の権力の為、私利私欲の為に使おうとはしなかった。


何故なら人間を超越した寿命と高い魔力は神が自分たちに与えてくれた贈り物であり、人間の監視者だったからである。


長い間、エルフ達が先祖から受け継いできた理でもあった。


私利私欲のために使うことは悪である


我々エルフはこの大陸を治める精霊神より使命を与えられた種族。


この世界の成り行きを見届けるためにある。いつの日か精霊神が復活されるその日まで魔族や人間が間違った方向に進まぬように、時には救いの手を差し伸べ、あるべき道へと導くための力である。




制約。エルフに与えられた宿命ともいえる。


人間を傷つけてはいけない。


与えられた力は人を殺めるためにあるものではない。




制約があるからこそ、エルフは人間に襲われても決して抵抗はしなかった。


初めはいくつもの里があったエルフの民も、エルフの人知を超越した力や技術を欲しがる人間達によって、服従させられたが、殆どのものは死を選んだ。


結果、制約によって人間を傷つけることのできない彼らは知恵を絞り、この世界を生き残るため、人間たちとの接触を拒み、魔力によって里を隔離した。


その後、彼らは何百年もの間、人里に姿を現すことはなくなった。


時は流れ、ガーランド・マグリスの創設したガーランド魔術学校によって人々に魔術がもたらされ、その結果、魔術の進歩によって隔離されていたエルフの里が数百年ぶりに発見された。




彼らの魔術や生活水準はとても高く、軍備を少しでも強化したい周辺の国々はエルフの里を手中に治めることが大陸統一の必須条件の一つであった。




世界に魔術が浸透し、再び絶滅の危機に瀕したエルフの民。


周辺の国々がエルフの里を我先に手中に治めようと里の侵攻の準備を進める中、時のグリンビルド王はエルフの里へ特使を派遣した。




どの国も支配することによりエルフの里を手に入れようとしていた中、唯一グリンビルド王国だけは対等な立場で話し合いの場を設けたのである。


話し合いの内容は


1つグリンビルド王国はエルフの里をグリンビルド王国領とすること。


ただし、エルフの民はグリンビルド王国の支配は受けない。グリンビルド王国の法を適用しない。


あくまで王国領ではあるが特区としてグリンビルド王国に位置するものである。




2つ、エルフの民は魔術に特化した人物をグリンビルドに定期的に派遣し、魔術の進歩に貢献すること。


その場合、派遣された人物には役職を与え、正当な待遇を受けられるものとする。




1つ目の条件は実質的なエルフの里をグリンビルド王国へ統合するが支配はしない自治領としての位置付けを提示。他国の侵略に対する後ろ盾になるということ。




2つ目の条件は、合法的にエルフの魔術や技術を提供させる代わりに正当な待遇を受けさせる。これはある意味人質としての役割も兼ねている。


グリンビルドを発展させる知識、魔導技術を正当な待遇を受けさせ迎えるのは建前で実質人質を取ることでエルフ側にNOとは言わせないためである。


ちゃんと技術提供をしないと人質の安全は保障しないという裏返しでもあった。




グリンビルドがエルフの民に出した条件




魔術を対価としてグリンビルド王国がエルフの里を自国内へ統合し、エルフの文化を尊重しつつ、他国からの侵略から守る後ろ盾となる。


エルフの民からするとこの上ない好条件であったため、生き残る術としてこれを受け入れたのである。




かくして血を1滴も流さずグリンビルド王国はエルフの里を手に入れたのである。










「おお、わが娘ミリィよ!元気にしておったか?暫く会わないうちに成長したな」


「お父様。お久しぶりです。確か最後にあったのは13年前でしたね。お父様もお元気そうで何よりです」




朱善祭の翌日の昼下がりの午後。




グリンビルド城の大広間でエルフの親子が抱き合い久方ぶりの再会を果たしていた。




お父様と呼ばれた人物は見た目50代であろうか?


純白のローブを身に纏い、金髪の髪からひょっこりとエルフの特徴である長い耳が飛び出しており、眉間に刻まれた深い皴が王者たる貫録を醸し出している。額には大精霊マリナの蒼い龍が刻まれた宝玉を宿した王冠サークレットが印象的だ。




しかし、見た目50代に見える彼は実は齢200を超える。


彼こそエルフの民の当主。マギナルクス・アクワルド王である。




「お前から会いたいと連絡があるのは珍しいじゃないか。私が何度も面会を打診しているのに『今は会いたくない』と1点張りだったそうじゃないか。何か心境の変化があったのかね?」




「ええ、まあ……色々とありました。と、こんなところで立ち話もなんですから、落ち着いた場所へ行きましょう」




場所を移し、ミリィに与えられた自室でしばし、談笑。




一呼吸のち、ミリィは軽く呪文を唱える。


人払いの術と、遮断の術である。


前者は認識をあやふやにし、空間の存在を認識できなくする術であり、


後者はマナを利用して空気に干渉し、外部に音を漏らさないようにする術である。


そしてミリィは本題を切り出す。




「人払いの術を掛けました。これでやっと本題なのですが」




「ここまで厳重にするということは何か考えがあるのか娘よ」




「ええ。お父様。いくらグリンビルドとはいえ、信用は出来ません。我らの信仰は大精霊マリナ様、ただ一人なのですから。そして、魔族が動き出しました。つまり、白銀の狼神ヴァルナイトも動き出しているはずです。先日、魔人と交戦する機会がありました。高位魔族が人間の欲につけ込み配下を増やしているようです」








ミリィの言葉にマギナルクスは眉をピクリと動かす。




「……やはりそうか……最近多発しているレッサーデーモンの襲撃も魔王ウロボマスティの配下によるものだろう。やつらは自ら手を下さない。それがやつらのルールなのだからな。そうすると、少し早めに動かねばなるまい」




「はい。お父様。だから、アキにあの方を会わせたいのです」




「何だと!?あの方に会わせるなどと……時期尚早ではないか」




「しかし、もう時間はあまりありません。アキに。いいえマリナ様に愛された子には早く気が付いてほしいのです。それがエルフの民の長年の願いであり、この計画を進めるうえでとても重要な意味を持つのです」




「ミリィ、お前の考えは解った。事を進めるがよい。わざわざ呼びつけたのはそれ以外にも理由があるのだろう?」




「ええ。遅かれ早かれ、アキには大精霊書物マリナバイブルに触れてもらいたいのです。ですのでお父様には里の大精霊書物マリナバイブルがいつでも閲覧できるように準備をして頂きたいのです」





――夜半。グリンビルド王宮の一室。

 アキの部屋は、静寂と月明かりに包まれていた。


 机の上に置かれた黄金色の卵が、不意にかすかな脈動を始める。

 心臓の鼓動のように、淡い光が室内に広がっては収束していく。


「……っ!? ルエル! ミリィ! みんな!」

 異変に気づいたアキは慌てて仲間たちを呼び寄せた。


 やがて集まったのは、ルエル、ミリィ、マーニャ、リリス。

 皆が息を呑み、卵を囲む。


「……これは……竜の卵が……孵ろうとしている……」

 ミリィが呟いた。

 彼女の声音は、驚きよりも畏れに近かった。


 卵を覆う殻にひびが走る。

 次の瞬間、ひときわ眩い光が弾け、室内は黄金に染め上げられた。


 光の中から、小さな竜が姿を現す。

 まだ翼は透き通るほど薄く、身体もか細い。だがその瞳は――生まれ落ちたばかりとは思えぬほど澄んで、まっすぐにアキを見上げていた。





 そして――。


 口を開けるや否や


「こにゃにゃちわ~~~!!!おおきに!ワイ、コテツいいますねん。

これからよろしゅうな!」


 幼い竜から発せられた場違いな関西弁がアキの部屋に響き渡った。




 

最後までお読み頂きありがとうございます。


面白い、続きが気になると感じましたらブクマ、評価頂けると嬉しいです。


更新再会しました。9月より順次更新していきます。お待ちしていただいた方、変わらず応援してきてくれた方ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ