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眠り姫は精霊魔法で無双する~神殺しと呼ばれた幼女~  作者: 綾乃葵
第2章 ガーランド魔術学校編
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【魔術学校編】時間短し、お気楽乙女

 来客を知らせる呼び鈴の後、意気揚々としたルエルの声が玄関に響き渡った。


 とある、週に一度の休日。アキ達の世界での日曜日に当たる日の午前中のこと。


 少し遅めの朝食を摂った後、日課であるミリィによる精霊魔術の講義を受けていた。


 講義が中断され、アキは少しめんどくさそうに玄関のドアを開ける。


「ルエル? どうしたの今日は朝早く」


 ルエルが遊びにくることは珍しくない。


 ただいつもは午前中講義をしていることはルエルにも伝えている為、朝にルエルが遊びに来ることは殆どなかった。


 ルエルが気を使って、魔術講義の邪魔にならないようにしていてくれたはずだ。

 だが今日に限って朝に訪ねて来るということは彼女にとって余程重要な用事なのだろう。


「今日はお姉さまにどうしても紹介したいお友達がいて連れてきましたの」


「……ルエル、それ昼からにできない……?」


 目をキラキラさせながら得意げに話すルエルをよそに、内心、今日は久々にゆっくり出来ると思っていたアキは半ば諦めの気持ちでつぶやいた。


「もう連れて来てますの! 彼女、昼から研究所のお手伝いを頼まれてて朝しか時間が取れなかったんです。ね? お姉さま、いいでしょ?」


 折角、紹介するために連れてきたのだから、わざわざそれをお断りするのはかわいそうである。

 しばし、考えた後。


「待たせるのも悪いから、入ってもいいよ」


「お姉さま! ありがとう! ミーシャ、入ってきてもいいよぉ」


「あははーおじゃましますー」


 能天気な声でアキの部屋に入ってきたのは背の低い小柄な少女だった。


 ルエルより身長は低く、140センチ程度。アキの背の高さと同じくらいである。

 銀色のロングヘア。前髪を赤い花の髪留めで止めている。


 瞳は青く、年の頃はぱっと見13歳くらいだろうか。恐らく見た目どおりの年齢だろう。

 顔は童顔で目はぱっちりしており、身長も体型もアキと似ている。

 ただひとつだけ違うところがあるとしたら胸の大きさだろう。

 アキは貧乳といっても過言ではないが、彼女のその体型の割に突出した胸の膨らみは見た目の年齢とは不相応な代物だった。


「この子、私と同じクラス。ガルチュアで知り合ったお友達のミーシャです。とってもいい子でお姉さまと一緒でちっちゃくて可愛いんですの」


 恍惚の表情で両手を頬に当てて恥ずかしそうに紹介をするルエル。


 ――小っちゃくて可愛かったら何でもいいのかこの子は……


「みーしゃなのだ。よろしくなのだ」


 ルエルが自分のことを気にかけていることはアキも何ヶ月も生活していれば気付く。


 だがアキの考えている好きというのはあくまで姉妹の愛とか友情とか、女同士のスキンシップだとそのくらいだと思っていたのだ


 ちっちゃくてかわいいものが好き。

 それは女の子に限らず、動物や後宮で買っていたリスもそうだった。


 だから小動物のように見えるこの子も、ルエルの好みだったのだろう。

 そしていち早く、お姉さまであるアキに見せたかったのだ。


 ――おもちゃが見つかった子供みたいだなぁ。


 実際、最近はアキは週に一度の休みも以前にも増して、魔術の鍛錬に励んでいる。


 そのせいもあってか、ルエルは邪魔にならないように気を使ってあまり遊びにはこなくなっっていたのだ。


「お姉さま、ちなみにミーシャは王族でも貴族でもないんです。一般人の中からスカウトされた優秀な魔術士候補なんですよー」


 さも、私が育てた!といわんばかりに自慢するルエルをよそに、当のミーシャと呼ばれたロリ巨乳少女は


「あははー」と屈託のない笑顔を浮かべている。


 その雰囲気はまさに天然ぽわぽわ娘。


 ガーランドでは魔術学校に入学するためには貴族や王族から選ばれた、ある一定の魔術の素養の水準を持つエリートと呼ばれる人たちが試験を受け入学するが、あくまでそれは一つの手段に過ぎない。


 優秀な魔術士候補は、何も貴族や王族だけではないのだ。


 一般的に王族は先祖の血統に大魔術士やその血統しか扱えない特別な血筋が魔術の素質に直結してることが多く、才能を持つ者が生まれる可能性が高い。


 その様なこともあり、貴族や王族は入学に関して特別枠というモノを設けている。


 この特別枠以外にも、入学する方法として一般入学とスカウト入学というものがある。


 一般入学は文字通り、王宮の枠を使わず入学試験を受ける方法。そしてもうひとつはガーランドの魔術士が将来有望な魔術士の卵となる人物をスカウトする方法である。


 前者は、4カ国から集まった魔術士志望の平民達がこぞって試験を受けに来る。


 その数1万人強。その中で試験にパスできるのはたった約20人という狭き門だ。


 平民にとってガーランドに入学することは将来の富を約束されたといっても過言ではない。


 試験も、試験をパスしたあとの授業について行くのも並大抵の努力と根性では続かないのだが、王宮にも力が及ぶその組織力によって卒業後の身の置き所というものが確保されているし、万が一落第したとしても、ガーランド側はそれに見合った身請け先を見つけてくれる。


 それだけ、ガーランドに在籍していたという事実は大きく、名声とその者の富を約束してくれる。

 後者はスカウトによる方法で、ガーランドから派遣された特別研究員が大陸各地に点在しており、将来有望な魔術士候補を特別研究員が選定するものである。


 スカウトされた者はその時点で試験に合格となり、本人の意思により入学するかどうか選ぶことになる。


 一見すると、試験を受けるより入るのは楽だが毎年選定されるわけではなく実際に選ばれるのは10年に1度という頻度でスカウトされたものは有望で魔術の素質が飛びぬけている逸材である。


 それに選ばれたミーシャという少女はまさに10年に一人の逸材だった。


「う……?アキも私と同じなのだ! ちっちゃいもの同士仲良くするのだー!」


 アキにずずぃっと近づいて手を握るとぶんぶん振り「なかまなかまー」と喜ぶミーシャ。


 ――これじゃ、魔術の鍛錬どこじゃないなぁ。

 と一人ため息を付くアキであった。



アキは少し呆れ顔でミーシャのはしゃぎぶりを眺めていたが、ふと手元の黄金竜の卵を思い出す。


「あ、そうだ。ミーシャ、ちょっとこれ見てくれる?」


「なにー? わくわく!」


アキは大事そうに卵を両手で掲げると、ミーシャの目がぱっと輝いた。


「うわー! きれい……なんだか光ってるのだ!」


「そうなの。ルベラさんから預かったんだ。これ、賢者の石を内包しているらしいの」


「えー!? すごいのだ! アキ、お姉さま、こんなすごいもの持ってたのだー!?」


ミーシャは目を輝かせ、卵をそっと触ろうと手を伸ばすが、アキは注意深く手を止めた。


「ダメよ。まだ孵化もしてないし、大事に扱わないと」


「わ、わかったのだ……でも触ってもいいの?」


「うーん、今はまだ駄目ね。観察だけにしておこう」


ミーシャは少し残念そうに手を下ろすが、すぐに笑顔に戻り、アキの肩に手を置いてにこにこしていた。


「ねぇアキ、卵の世話ってどんなことするの?」


「そうね……卵が無事に孵化するまで魔力の管理と保護かな。孵化したら、その子ドラゴンの成長も見守ることになるかも」


「わー! アキ、かっこいいのだ!」


ミーシャの瞳は輝き、まるで未来の冒険が始まるかのような期待に満ちている。


アキはそんな彼女を見て、思わず微笑んだ。


「……ま、まあ、少しずつやっていくしかないかな」


「ふふー、それなら私もお手伝いするのだ! 一緒に守るのだ!」


「え、ええ。よろしくね、ミーシャ」


小さな手と手が触れ合い、二人の間に不思議な絆が生まれた。その日、アキは久しぶりに穏やかな気持ちで窓の外の青空を眺めるのだった



「ねぇアキ、ちょっとだけでも魔力の力を卵に伝えてみたいのだ!」


ミーシャは瞳を輝かせながら、お願いするように手を合わせる。


「え、ちょっとだけね……本当にちょっとだけよ」


アキは慎重に手を卵の近くにかざす。彼女の手のひらから、ほんのわずかだが魔力の光がふわりと溢れ出す。


「わぁ……光ってるのだ!」


卵の表面が淡く輝き、まるで中で何かが動いているかのように揺らめく。


「ふふ、ちょっと反応してくれたみたいね」


「もっとやりたいのだー!」


ミーシャは嬉しそうに手を伸ばすが、アキは慌てて制止する。


「だめ、まだ強くすると危ないの! 少しずつ、様子を見ながらだよ」


「うー……でも楽しいのだ」


その時、ルエルが玄関で大きな声を上げた。


「お姉さまー! ちょっと見てくださいー! 大変なことが起きたのですの!」


アキとミーシャは顔を見合わせる。


「……またルエルか。何してるの?」


「いやいや、ただの緊急報告ですの! ……あ、いや、あのですね」


ルエルは手に抱えた魔導書を落としそうになりながら駆け込んでくる。


「……うわっ、ルエル、こら、卵に近寄らないで!」


「ごめんなさいですの! でも見せたくて!」


ルエルが慌てて飛び込むと、卵の光が少し強く揺れた。アキとミーシャは驚きの声を上げる。


「ほ、本当に反応してる……!」


「ふふー、すごいのだ! お姉さま、ミーシャ、私も触っていいですの?」


「だめ、ルエル! ちょっと落ち着いて!」


ルエルは少し拗ねた顔で手を下ろす。


「……しょうがないのだ、少しだけなら……」


結局、三人は順番に卵に魔力を少しずつ流してみることにした。小さな手が交互に卵の周りをかざすたび、黄金の卵は淡く輝き、まるで小さな生き物が呼吸しているかのように揺れる。


「なんだか……楽しいのだ」


ミーシャの笑顔に、アキも自然と笑みを浮かべる。


「うん……こういう時間も、たまには悪くないかもね」


ルエルも得意げに胸を張って、ちょっとした騒ぎが幸せな時間に変わったことを喜んでいた。


その日、黄金の卵の周りには、小さな冒険の予感と、三人の笑顔が光っていた。


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