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眠り姫は精霊魔法で無双する~神殺しと呼ばれた幼女~  作者: 綾乃葵
第2章 ガーランド魔術学校編
22/31

【魔術学校編】魔術士ヴェラルと皇帝竜(3)

本日はもう1話20時ごろ投稿予定です。

決着はつけさせる予定。


 人魔。それは魔族と契約を交わした人間。


 魔王ウロボマスティに従う配下の魔族と言われる存在


 魔族が力を欲した人間と契約を結ぶことがある。

 契約した者は、人知を超える力を手にする。


 己の魂、存在を引き換えに――


「何故?賢者の石を欲するの?魔術士ヴェラル……。いいえ、人であることを捨てた愚かな人間。人魔ヴェラル――」


「魔族が契約によって人間に強大な力を与える。だが、知っているか?エルフの娘よ」


「何を……?」


「魔族は一部を除いてこの世界に実体化することはできない。そして具現化するには体が必要」


「己の魂を魔族に差し出し、その力を得る――」

ミリィは言う。


「そうだ、私は魂を魔族に売った。そして、この強大な力を手にした。だが、ある時、気が付いてしまったんだよ……、魂を売るということがどのようなことかをね。


その力を手にしたときから私の人生は大きく変わったよ。力を使ってとある国の宮廷魔術士の地位も手にした。だが、それだけじゃ、欲望は収まらなかった。そして気付いた、自分のとめどない欲望と破壊衝動が自分のものではない事も。

蝕まれていたのだよ。その心を、自我を。

遠からず、我は自我を失うだろう。自分が自分でないものに変わる。

それは果たして、自分と呼べるのだろうか?

自分と契約した魔族は言った。『お前は魂を差し出した。それがどういうことだかわかるか?お前がその力に溺れたときにお前という存在を貰う。魔族はどうやって仲間を増やすか分かるか?』ってね。

巨大な魔力を扱うにはそれを押さえ込む精神力と魔力が必要だ。

それがない人間は自分達の僕を作る格好の材料。

力を欲する愚かな人間は魔族の強大な力に精神を蝕まれ、その力を制御できない人間は自我を持たない魔族、つまり契約した魔族の僕となる。



「それでその魔族の力を制御するために賢者の石が必要だった」



「そうだ……自分が自分である為に。



          我は―――まだ人でありたい」




「……汝は人也や?」


 悲しげに、ミリィはヴェラルに問う。


「その問いに我は人であると答えよう。我は、我である為に……存在するために!我の前に立ちはだかる障害は全て消す……っ!」



「アキ……ルベラさんとガッシュを連れてここから逃げなさい!」


「でも、みーちゃんがっ」


「私は大丈夫です。ここは私に任せて安全なところへ」


「早くっ!」

ミリィはヴェラルの前に立ちはだかり、深く息を吸った。


「行きなさい!!」


アキは瞬時に状況を理解し、頷く。ルベラは苦しそうに体を起こすも、皇帝竜としての力はもう戻らない。ガッシュもまだ完全には回復しておらず、自力での逃走は難しい。


アキは両手をかざし、地面から魔力の光を集めた。周囲に風が巻き起こり、衣服や髪が激しく揺れる。


「行くぞ!」


アキの魔法で空中に浮かび上がり、ルベラとガッシュをしっかりと抱き寄せる。二人の体重に耐えながらも、アキの魔力が光の翼となって彼らを支えた。


地面に残されたミリィは、炎の魔術を解き放ちヴェラルたちの注意を引く。「こっちに来い!私が時間を稼ぐ!」


アキは振り返り、ミリィの勇姿を目に焼き付ける。ヴェラルの怒りの声が後方から響くが、光の翼は速度を落とさずに上昇していく。


森の上空に出ると、風が冷たく顔を打つ。だが、アキは集中を切らさず、ルベラとガッシュを安全な距離へと運んでいく。


「もう少しだ……もう少しで安全な場所に……!」


視界の下に小川と木々が広がる。アキは光の翼を少しずつ前方へと伸ばし、二人を抱えたまま安全圏に着地する。


ルベラは荒い呼吸をしながらも、かすかに微笑んだ。


「……助かったな、アキ……」


ガッシュも目を開け、まだ弱々しいながらも力強く頷く。


「ありがとう、アキ……そしてミリィ……」


空を切る魔法の力で無事に逃れた三人の背後、森の方から炎と怒声が立ち上る。まだ戦いは終わっていない。しかし、今は生き延びることが最優先だった。






「ルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 地を震わす、ヴェラルの咆哮。


 と、同時に出現した魔力球はヴェラルの意思でミリィを目指し突き進む。



飛翔空操トゥルム・ヴィーズ


 攻撃を読んでいたミリィは間一髪、飛翔の呪文で空を翔る。




蒼穹槍ディズール・ランス!」


 同時に、瞬時にヴェラルの頭上に移動すると唱えていた呪文を解き放つ。






 ばぢばぢばぢばぢばぢっ






 青い、魔力の槍がヴェラルめがけて降り注ぐ。




 ―――手応えありっ




 ミリィがそう思った瞬間。




 じゅっ




 ヴェラルの人刺し指から放たれた赤い閃光がミリィの右肩を焼いた


「あぐっ……」


 不意を突いたヴェラルの一撃を受け、ミリィは飛翔の呪文を解除し、地に下りることを余儀なくされる。


「何で……確かに当たったはず」


「言い忘れていたが、我に攻撃は通用せぬ」


 ヴェラルは言って手をかざす、その手に賢者の石を掲げて。


「いくら攻撃しようと、無駄だよ。この手に賢者の石がある限り、お前らの攻撃魔術は受け付けない」


 にやりと笑みを浮かべ、ヴェラルは静かにそう言った。


「これはちょっぴし、手強いかも……」


 右肩を抑え、つぶやくミリィの表情には先程までの余裕の色はなかった。









 彼方より大地をとどろかす轟音が響き渡る。


 アキは戦闘不能の二人の手を握り、飛翔の魔術で離れた場所まで避難をしていた。


 体格が小さいアキにとってそれはかなり骨のいる作業だった。


 大分、離れた場所まで来たはずなのだが、その魔術の攻防の激しさは伝わってきている。


「君たちを巻き込んでしまって申し訳ないと思っている……」


 ルベラは傷口に治癒の呪文を使いながらアキに言う。


「ルベラさん傷は大丈夫なんですか?」


「ああ、大丈夫だ、人間なら致命傷だが、仮にも私はドラゴンだ。これぐらいの傷は首を跳ねられない限りそうそう致命傷にはならない。君たちにはワケあって今は人の形を取り、秘密にしていたが、私がこの『竜の住まう地』(ドラゴンズマウンテン)を束ねる皇帝竜エンペラードラゴンだよ」


「じゃあ、ヴェラルの言っていたことは」


「本当だ、それよりあのエルフの娘が危ない」


「みーちゃんが危ないって……」


「あのエルフの娘も相当な魔術の使い手だろうが、ヴェラルが手にしている賢者の石は相手の魔術を無効化させる力ももっている」


「それじゃあ、みーちゃんは一方的じゃないですか」


「賢者の石がヴェラルの手にある限り、現状、攻撃を通す手段が無い……エルフの娘がには勝ち目は無いだろう、ただ一つ、救いだったのはあの石が偽物だということだ」


「偽者!? それじゃあ、本物は……?」


「本物の賢者の石は私がある場所に隠している。賢者の石といってもなにも石の形をしているとは限らない、あの石は偽物といっても本物の石を作った私が作ったものだ。本物と同じ力を持っている。ただ一つ違うとすれば、魔力の容量キャパシティが違うということ」


「このままじゃ、みーちゃんが死んじゃう!私は行きます。みーちゃんを助けに!」


「待て。人間の娘よ。焦るものではない」


 飛翔の魔術を唱え、救出に向おうとするアキを呼び止めるルベラ。


「じゃあ、どうしろっていうんですか!?」


 そんな、ルベラに食って掛かるアキ。


 アキは必死だった。このままでは自分たちを逃がすべく、引き止めてくれているミリィが成すすべも無く殺されてしまうだろう。そんなことは絶対に嫌だった。


「待てと言ってるんだ。倒す手段も知らないまま、みすみす殺されに行くのか?」


「大切な人が、死んでしまうかもしれないのに、それを見過ごすなんてできない!」


「人間の娘よ、ヴェラルを倒す手段が無いわけではない。確かにあの偽物の石でさえも魔術を防ぐ力を持っている。だがその力は永久ではない、魔術を防ぐと同時にその秘められた魔力石も魔力を消費し続けているのだ」


「それは……」


「そう、偽物の石、魔力石の力を枯渇させてしまえばヴェラルも魔術を防ぐことができなくなる、ただ問題は魔力石の力が枯渇するのが先か、エルフの娘が力尽きるのが先か、ということだ」


 ミリィの攻撃魔術を防ぐ度にダミーの力はその魔力を消費していく。ダミーの力を使いきり、攻撃が通るようになるのが先か、ミリィがダミーの力がなくなる前に倒れるか。それは消耗戦に他ならない。


「人間の娘よ、あの石の力を早く消耗させるには、もっと強い魔術をぶつけ石の力を枯渇させることだ」


「わかった!」


 返事をして、飛翔の魔術を唱えるアキ。


「絶対に死なせない。みーちゃん待っててね、すぐに行くから……」


 小さくアキは呟いて、空を翔る。


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