【魔術学校編】魔術士ヴェラルと皇帝竜(2)
一瞬何が起こったのか理解できずにアキはただあっけらかんとその光景を見つめる。
「ルベラさんっ!!」
アキが叫ぶ。
「ぐっ……」
声にならないうめき声、苦悶の表情を浮かべ、ルベラは片膝をつく。
ヴェラルの右手がルベラの胸を貫いたのだ。
魔術士ヴェラルは無造作右手を引き抜くとルベラは傷口から血飛沫をあげ壊れた人形のように地面に倒れ伏す。
「何で……何でルベラさんを……っ!」
言ってアキはルベラの元へ駆け寄ろうとするのをミリィが腕を掴んで静止する。
「アキ!ダメですっ!危険です、彼に近寄ってはダメです!」
叫ぶようにアキを嗜める。
「ふはははははは!やっと手に入れたぞ賢者の石!これでもう俺に恐れるものはない」
血に染まった右手を天にかざし、高らかに笑い声をあげ、ヴェラルはそう宣言する。
その手には金色に輝く宝玉が握られていた。
「おお、みなぎるぞ、体中がこの溢れる魔力に呼応している。これが賢者の石の力……っ!これで私は晴れて自由の身というわけだ」
そんな中、ゴロツキの一人が待っていたかのように口を開いた。
「おかしらぁ!こいつらは約束どおり好きにしていいんで?」
「好きにしろ。目的は達成した。こいつらは奴隷商人に売るなり、お前たちで煮るなり焼くなりしろ」
「その言葉待ってましたぜ」
ヴェラルは残されたアキ達には興味がなさそうにゴロツキ達にそう言った
「へへ……そういうことだお嬢ちゃん達」
薄気味悪い笑みを浮かべゴロツキの一人がじりじりとアキ達の間合いを詰める。
「アキに手出しはさせません!」
ミリィはアキをかばうように前に躍り出る。
「このアマ……反抗する気か?大人しくしてれば痛い目見ずに済むものを」
「これだから、人間の男は嫌いなんですよ――」
言ってミリィは右手をゴロツキの一人に向けてかざす――
「なんだとぉ……?こいつ口答えする気か?」
「うるさい――炸裂炎!」
ミリィが呪文を解き放つ!ゴロツキたち足元の地面をめがけて
ごおんっ!
「ぐおおおおっ」
耳を劈くような爆発音と共にゴロツキの一人が宙を舞う。
「なっ……」
「魔術だとっ!?」
後ろで見ていた残りのゴロツキ達が驚きの声を上げる
「さっきから聞いてりゃいい気になって。悪役は黙ってやられてればいいんですよっ!」
「ひるむなっ!相手に魔術を使う暇を与えさせるなっ」
一人が言って
「うおおおおおおおっ」
残りのゴロツキが一斉に、獲物を手にミリィを目指してダッシュをかける
しかし!
「火炎弾――!」
いち早く完成したミリィの生み出した魔力の炎が迫り来るゴロツキ達をなぎ倒す
「ぐああああっ」
炎に包まれ断末魔に似た叫び声を上げてゴロツキ達は地に伏した。
「――ひぃっ!」
残ったゴロツキの一人はかなわないと悟ったのだろう、いきなり背を向け、走り出した。
勝負は一瞬にして決した。
あとに残るはミリィの魔術に倒れ付したゴロツキ達とその様子を見つめるヴェラルの姿。
「たあいもないわね」
吐き捨てるようにミリィは言った。
「少しはやるようだなエルフの娘よ!丁度いい。この賢者の石を手にした我の力をお前で試させてもらうとしよう――」
明らかな敵意を向け、ヴェラルはミリィと対峙する。
と、瞬間――
どずっ
ヴェラルの腹から血に染まった長剣が生えていた。
「!?」
一瞬、何が起こったかわからずにヴェラルはその動きを止めた。
「ぐっ……貴様……生きていたのか」
ヴェラルはゆっくりと振り向いた。
怒りをその表情に浮かべて。
「その者には手を出させんっ……!」
声を振り絞ってルベラは言う。
ルベラの手にした長剣は、その刀身をヴェラルの背中に深く潜り込ませていた。
一度はヴェラルの手によって倒れたその体を起こし、隙を見てその長剣で背後から突き刺したのだ。
「くくく……それで我を倒したつもりか?」
ヴェラルの戸惑いと怒り。しかし、それも一瞬のこと。意表を突いたルベラの一撃に対し、ヴェラルは薄気味悪い笑みを浮かべ、躊躇なく背に潜り込んだ刀身を掴む。
まるで体を長剣で貫かれたことに対して何事もなかった様に。
「ぐ……っ!?」
ヴェラルの意図が一瞬理解できず、ルベラは困惑の表情を浮かべた。
刹那。
「ガアッ!!!」
ヴェラルは咆哮し、掴んだ刀身を片手で引き抜く。
長剣を握り締めたままのルベラもろとも。
そしてそのまま勢いよく宙に放り投げる。
「がはっ……」
そのまま地面に叩きつけられ、ルベラは地に伏した。
普通の人間なら胸を貫かれれば致命傷は免れないはずだ。
ましてや、力づくで人間もろとも引き抜くなどという芸当をやってのけたのだ。
「この人……」
「人間じゃないですね――」
アキが言いかけたその続きをミリィがそう呟いた。
ヴェラルは――ばさり、とそのローブを脱ぎ捨てる。
露になる、その姿。
胸から上が――皮を剥いだ筋肉標本のように血管と筋肉繊維が剥き出しになった姿が――
「ああ、私は人間をやめた――力と引き換えに魔族に魂を売った愚かな男だよ」
「人魔……」
その姿をみつめ、ミリィは一人小さく呟いた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
面白いと感じましたらブクマ評価を頂けると励みになります。




