【魔術学校編】魔術士ヴェラルと皇帝竜(1)
「本当に申し訳ない……。君達まで私事に巻き込んでしまったようだ」
男たちが去った後、ルベラは二人に深々と頭を下げた。
「ルベラさんは謝らないでください。私たちも悪いのです。途中で仲間とはぐれてしまって結果あなたの迷惑になってしまった」
ミリィは言う。
実際にはアキとガッシュの勝負で立ち入り禁止とされているこの場所に入ったアキ達が悪いのだが、まさか勝負の途中で勝負していた相手が悪い奴に人質に取られましたなどと本当のことをルベラに言えるはずがない。
「ルベラさん、あの人たちは何者なんですか?心当たりあるようでしたが、それと賢者の石のことも――」
「巻き込んでしまった以上、あんた達にも話さないといけないな」
ルベラはそう言うと、重い口調で語りだしたのだった。
◆
賢者の石――
それは伝説の中でしか存在しないとされる完全無比な半永久的な魔力の結晶体と呼ばれている物質。
賢者の石を手にした者は世界を支配できる程の力を手にするという。
そして伝説の中にしか存在しないはずの賢者の石がここ、竜の住まう地に存在していた。
言い伝えではその石は黄金竜の中でもっとも長く生きた竜の体内で生成されるのだという。
黄金竜を束ねる皇帝竜と呼ばれる存在の中に。
皇帝竜の存在も、石の在り処も、限られた人間しか知らない。
その限られた数少ない人物の一人がこの地を長年にわたって監視しているルベラだった。
フードの男は魔術士ヴェラルといった。
彼は賢者の石を手に入れるために手下を引き連れ竜の住まう地に現れたのは1ヶ月前のことである。
何処からか賢者の石の情報を知りえた魔術士ヴェラルは竜の住処を荒らしたり執拗な嫌がらせを繰り返していたという。その都度、ルベラに賢者の石を渡せと脅していた。当然、渡すわけがなく膠着状態が続いていた。
そこに現れたのがアキ達で、たまたま森に入ったガッシュが巻き込まれたのではないか?
そんなことをルベラは語った。
「賢者の石は誰の手にも渡ってはならない。人間が扱うにはあまりに大きすぎる力はやがて世界を滅ぼすだろう。これが私の家に代々伝わっている言い伝えだよ。
私は賢者の石の在り処を知っている。もちろん、奴らに教える気も更々ない。
魔術士ヴェラルは自分の目的達成の為には人殺しも厭わない連中だ」
「実際、被害が出てるんですよね?」
「ああ、最近この森に入った人から金品を奪う等の略奪行為を繰り返している。
君たちにも最初に忠告したと思うが、竜が人を襲うから危ないのではなく最近は盗賊や柄の悪い人間が溢れているからというのが正しいな。
確認したいのだが、彼らに捕まっているのは君たちの仲間なのか?」
ルベラの質問にアキは頷いて
「そうであってほしくはないけどこの森に入ったのは私と同じ銀のチョーカーをしている仲間です。あの銀竜印がなによりの証拠でしょうね」
ガッシュが人質に取られてる可能性が高い以上、放っておくわけにもいかない。
「そうか……この事態を招いたのも私にも責任がある。仲間の救出には私も出来るだけ力を貸そう」
「こうなった以上、ほっとくわけにもいかないし、行くしかないですね」
◇
夕暮れ時にはまだ早く、約束の時間まであと二時間と迫った時、アキ達は目的の場所まで来ていた。
ヴァラルが雇った柄の悪い山賊くずれのような風貌の男たちが10人。そしてフードの男、魔術士ヴェラルの姿。
そしてその後ろに見知った人物がいた。
ガッシュだった。
縄で縛られ、呪文を使えない様にする為だろう、さるぐつわを噛まされている。意識があるらしくその表情には苦悶の色が満ちていた。
ガッシュはアキ達に気付くと何かをいいたそうに声にならないうめき声を上げた。
「うるせえな、ちったあ大人しくしてろ!」
ゴロツキの一人がガッシュに蹴りを入れる、そのままガッシュは地面に転がり静かになった。
「おい、大事な取引材料だ。傷をつけるな」
「へ、へい……」
魔術士ヴェラルはゴロツキ一人を一喝するとアキ達に向き直る。
「約束の物は持ってきたか?この通り、お嬢さんのお友達は無事だ。さあ。渡してもらおうか」
「私が賢者の石を持っている。不正は無しだ。私が直接そちらに行って渡そう、それと同時にその男をこちらに引き渡すんだ」
「いいだろう」
返事と共にルベラは歩き出す。魔術士ヴェラルの元へと――
ルベラはヴェラルに向き合うように対峙して言う。
「さあ、彼を解放しろ」
ヴェラルはニヤリと笑みを浮かべるとゴロツキの一人に指示を出す。
「おい、歩け!」
ゴロツキの一人が縛られたガッシュを強引に立たせるとアキ達の方向に後ろから背中を押して解き放つ。
おぼつかない足取りでアキ達の下へたどり着くとガッシュは倒れこむ。
それをミリィが受け止める。
「ガッシュ!大丈夫?今縄を解くから――」
腰に挿しているナイフを取り出すとアキはガッシュを拘束している縄とさるぐつわを切った。
拘束を解かれたガッシュはアキに一言「すまない」と口にした。
「取引は成立だ。皇帝竜 ルベラ よ」
魔術士ヴェラルはルベラの胸に右手をかざし――
次の瞬間―――
どずっ
鈍い音と共にヴェラルの右手がルベラの右胸を貫いていた。




