【王宮編】ここはどこ?
暗い。
暗い。
何も見えない。
目を開けているはずなのにアキの視界は閉ざされたままだ。
それはアキが目を閉じていると錯覚しているのか
それが単に周りが闇に包まれているのか
それともアキの視力が無くなってしまったのかは分からない。
そんなアキの心に不安が襲う。
この暗闇から二度と抜け出せないのではないだろうかという、漠然とした不安。
ここは何処だ?
ふと思いついた疑問を掻き消すように。
唐突に、アキは体中が燃え滾るような感覚に襲われ身を捩った。
その瞬間、体中に電流が走ったように巡る痛覚の伝達信号。
アキは声にならない呻き声をあげた。
その焼けるような痛みに紛らわすように身体を動かすがまるで金縛りにあったように体は動かない。
動かない……
……苦しい……助けて。
声にならない言葉でアキは助けを求めた。
「アキ」
優しい声で誰かが自分の名を呼んだ気がした。
「……アキ」
今度はしっかり聞こえた。
頭の芯まで染み込んでくるその透き通った声で
おかえりなさい。
声の主はそう囁いた。
……………………
………………
…………
………
…
アキが意識を取り戻したのは、見たことも無い部屋のベッドの上だった。
視界に映ったのはベッドの4隅から伸びている細い柱、そこから天幕のついた真っ白なベッドの天井とアキの顔を心配そうに覗き込む人達。
「殿下がお目覚めになりました!」
アキの顔を覗き込んでいた一人が驚いたように声を上げた。
「なんだと!お目覚めになられたか!」
「お姉さまが目を覚まされたのですか!?」
(でんか……?どういうことだ……?)
「マルビット陛下にご報告だ。アキ殿下がお目覚めになられたとな!」
(俺は確か、みーちゃんと…学校から帰る途中で…)
「お姉さま!おかえりなさい! ルエルはお姉さまのお帰りを心よりお待ちしていました」
……断片的にだが確かみーちゃんと話をしていて……そして景色が歪んでそこから記憶がない
(どういうことだ。故郷に戻るとか何とか言っていた様な気がするが)
アキは混乱していた。
朦朧とする頭で思考を巡らせて見るがどうしてこの状況になっているのか理解できない。
となれば…、今のこの状況。
俺は夢を見ているのだろうか?
知らない場所。
そして何よりも何故こんなところで寝かされているのだ?
考える間もないまま――
「おねえさまっ!」
「わうっ」
突如、お姉さま?と呼ぶ物体が体に覆い被さり変な声を出してしまうアキ。
(くるしい……)
苦しいがやわらかいこの感触。
この物体は女の子だ。
そしてこの感触はあれだ
「殿下ははまだ病み上がりでございます。元の体もまだ馴染んでおりません。あまり無理をさせてはいけません」
もう少しこの感触を確かめたかったがアキだが、声の主に強引にその女の子という物体から引き剥がされる。
「いけませんぞ? まだ完全に体が馴染んでいないのです。無理をされるようであれば命の保障は出来かねません」
老医師は少し大げさにそう言うと、ルエルと呼ばれた少女は「そうですか、それなら仕方ありません…」と残念そうに呟いた。
「さあさあ殿下、心配なのはこのおいぼれ爺さんにもしかと伝わっております。ですが今の状況からもまだ予断を許さない状態です。ですからもうしばらく面会の方はわたくしめの判断が出来るまでお控えください」
「わかった。あとはマシュウ貴方に任せる」
「殿下、分かっていただいて嬉しく思いますぞ」
ルエルという少女が部屋を後にし、残されたのは老医師マシュウとアキ
「お目覚めになっているのでしょう殿下、御自分のみに何が起きたか色々とお聞きしたいことがたくさんあると思います。わたくしめが答えられる範囲でお答えしましょう」
アキにそう言って、老医師は綺麗に整えられた白い口髭を弄びながら語りだしたのだった。