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眠り姫は精霊魔法で無双する~神殺しと呼ばれた幼女~  作者: 綾乃葵
第2章 ガーランド魔術学校編
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【魔術学校編】従者の役割

土日なので連投してみるテスト。

 正午から振り出した大粒の雨は、雷鳴をとどろかせると同時にたちまち豪雨となり、人々は雨宿りを余儀なくされた。


そんな中、石造りの回廊の窓から少女と若い女性二人が歩きながら、急な雨で逃げ惑う人々を眺めている。


「すっごい雨……」


「はい。道中急いだお陰でずぶ濡れにならなくて良かったです」


「間に合ってよかったですね。この時期の雨は一旦降り出したら中々止まないですから」


と、そんな会話を交わす。


国境まで距離にして残り4里程に差し掛かったとき、ミリィの『雨が来る』との警告に竜車を急がせたのだ。


竜車も屋根があるとはいえ、このスコールのような豪雨だと雨漏りで竜車の中は水浸しになっていたことだろう。


ほどなくして、目的地のガーランド魔術学校に到着し、アキ達は受付を済ませた後、若い女魔術士に寮を案内されていた。


「マルビット陛下から事情は聞いておりますよ。アキ様とミリィ様のお部屋はこちらになります」


案内された部屋は石造りの部屋。


「王宮のアキの個室よりはだいぶ手狭ですけど…生活する分には全然困りませんね」


と、ミリィ。


もともと狭い部屋が当たり前の日本に住んでいたことが長いアキにとって与えられた部屋は十分すぎる広さだ。


大人二人でも十分な広さでシングルサイズのベッドが奥に二つ。奥にはテーブルとソファ。部屋の四隅には魔具のスタンドライトが置かれている。


そんな中、ミリィが部屋に入るや否や「わお……」と感嘆の声を漏らす。


「アキ!みてみて!これ火の魔具調理器ですよ!あ、これも!お風呂はあるじゃないですか!しかもこれ追い炊き機能付魔具!さすが、ガーランドだわ!」


まるでおもちゃを与えられた子供のようにはしゃぐミリィ。


「魔具が生まれたガーランドですからね。生活必需品はある程度は揃っていますし、魔具のレンタルも行っています。もし、何か必要なものがありましたら受付の方にお申し付けください」


「ありがとうございます」


アキが丁寧にお礼を言うと、若い女魔術師は部屋を後にする。


部屋の魔具を珍しそうに物色するミリィを眺めつつ、アキは部屋の木戸を開けた。


建物内から聞こえていたザァという雨音が、一瞬で流れ落ちる滝のような轟音へと変化する。


「……にしても、凄い雨だよね」


「雨季ですからねえ」


「雨季? 雨季って、日本でいう梅雨みたいなもの?」


「そうですね。そうとも取れるんですが、この世界の雨季ってどちらかというとサバンナとかアマゾンとかの乾季と雨季に似てます」


「へえ。それはそうと、みーちゃんなんで雨が来るって分かったの?」


「エルフの鼻は雨の匂いも嗅ぎ分けられるんですよ」


自慢げに鼻を鳴らしながら金髪から覗かせる長い耳をぱたぱたさせる。


自然と共にあるエルフは生まれながら大精霊の加護を受ける。

それは潜在魔力から、魔術に関する知識も、人間より長い寿命でさえも。


自然現象を予知する能力は勿論の事、エルフは人間より遥かに高い能力を有していた。


アキはふと、雨の向こうに霞む校舎の尖塔を見上げた。


(いよいよ始まるんだ……)


王宮では守られるばかりの生活だった。けれど、ここからは違う。

自分で道を選び、学ばなければならない。


けれど胸の奥に、不安の棘が残る。


(……私、本当にやっていけるのかな。まだ魔術を一度も使えないのに。みんなに笑われたりしないよね……?)


そんな弱気を、ミリィの弾んだ声が追い払う。

彼女が隣にいる。その事実だけで、アキはもう一度立ち向かおうと思えた。


「アキ。そんなことより、ちょっと学校探検してみませんか?明後日から授業始まるのだから教室とか迷子にならないように今から見学に行きましょ?」


「そうだね、入学初日から迷子で遅刻とかは嫌だし」


ガーランド魔術学校は敷地面積だけでもかなりの広さがあった。

大きさは都会の大学を三つすっぽり入れるくらいの敷地に、五芒星の魔方陣を描くように塔が立っている。


これらは空に浮かぶ五つの月の魔力を源とすることから由来する。


そして、その五芒星の塔から敷地の中には六棟の建物があった。

そのうち二つが学生、教師、研究生が住まう寮。

残りの三つが研究棟と授業を行う教室棟。

最後のひとつは実技等を行う円形競技場である。


学生、研究生合わせ約二千人ほどの規模を持つガーランド魔術学校は、新入生が迷子になってしまうのも無理はなかった。


「折角だからルエルとギィさんも誘って行こうよ!ギィさんはガーランドの学生だったんだよね?」


「そういえば……確かギィはこの学校の卒業生でしたね」


なるほど、とミリィはポンと手を打って。


「それならギィに案内させましょう」


「うん、それがいいね!」


アキの名案にミリィも同意し、初日は学校探検することになったのだった。


◇◆◇


「何で、私はお姉さまと一緒の部屋じゃないんですかっ!」


その頃、ルエルは与えられた部屋がアキと同室ではないことへの不満をギィにぶつけていた。


「仕方ないじゃないですか、アキ殿下の従者はアクワルド様なんですから…」


「むしろ、何故、向こうは女子同士のお部屋なのに対して、なんで私はあんたと一緒なのよ!」


「姫様、仕方ないじゃないですか、私は姫様の従者なんですから」


「さっきから、仕方ない、仕方ないって、もっと他に言うことないの?」


「姫様、そんなことを言われても、これは僕やガーランドが決めたことではなくて陛下がその様にと取り計らったのですから、どうしようも出来ません。それに……」


「それに?」


ギィが言いかけた言葉をオウム返しに聞き返すルエル。


「陛下は晩餐会でも言われたとおり、アキ様と姫様の身を案じておいでです。このガーランド魔術学校に送り出したのも苦渋の決断だったのだと思います。アキ様は王国を継ぐ大事なお方、そして姫様、貴方は陛下の一人娘でございます。どこの世界に自分の娘を危険にあわすような親がいるでしょうか。その大事な娘を守るために、私達従者がいるのです。もし、仮にアキ様と同室だったならば、回復魔術しか使えない姫様はアキ様を守ることが出来ますか……?」


「そ、それならミリィもいればいいじゃない」


「アクワルド様もアキ様を守るので手一杯だった時に、あなたを守る人は誰がいるのです?きつい言い方をしますが、アクワルド様は二人同時に守れる状況じゃない場合、姫様はただの足手まとい、お荷物にしかなりませんよ?」


「……でも」


「でも……なんですか?私は姫様の事が心配なのです。従者としての責務もありますが、私は陛下と同じくらい、姫様の事を心配しているのですよ。だから、分かってください。陛下が姫様を大事に思うように、私にとっても姫様は大切な人なのです。だから私を信用してください。従者としての義務ではなく、私情を挟むわけではありませんが……ルエル様の事が大切だからこそ、命に代えてでも必ずお守りします」


「な、何いってんのよ、急にかっこいいこと言わないでよね……っギィの癖に……」


いつになく真剣な表情で言うギィに、一瞬ドキリとするルエル。


今まで当たり前のようにわがままを言い、気に入らないことがあると八つ当たりをしてきた。

それは彼が「従者だから当然」と思っていたからだ。


だが、今、ルエルは初めて気づく。

彼が向けていたのは義務感ではなく、もっと別の感情かもしれないと。


(……どうしよう、胸が熱い。なんで私、こんなに動揺してるの……?)


すぐに否定の声が心に浮かぶ。


(違う。私はかわいい女の子にしか興味ない。男なんて絶対に好きにならない。だから、これは錯覚。ギィの言葉に一瞬、心を揺らされた……それだけ……!)


必死にそう言い聞かせても、耳に残る彼の声は消えてくれない。


「命に代えてでも必ずお守りします」


その誓いが、ルエルの胸をざわつかせ続けた。

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