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【王宮編】突然の帰還

10万字程ストックありますので毎日1話ずつ更新していきます。

3人称で進んでいきます。

ステータスは出て来ません。

「俺はやっぱりレアチーズケーキだな」


 『私は断然文栄堂のイチゴタルト! でもこのクリームブリュレも捨てがたいですよねー』


「おい、食べるのは俺なんだからそんなに要求するな、糖尿病になっちゃうだろ」


 『大丈夫、大丈夫! アキの体はそんなにヤワじゃありませんよ!』


「その根拠と自信はどこからくるんだ…?」


 『……さあ?どこからでしょ?』



 週末のデパ地下のスイーツ売り場。


 ガラスケースに映る、色とりどりのなスイーツの数々をアキは眺めながら、彼女といつもと変わりないやり取りをしていた。


 彼女との約束で、毎週土曜日このデパ地下のスイーツ売り場に足を運んでいる。


 だが、おかしなことに会話のキャッチボールをしている相手はアキの傍には存在しない。


 はたから見れば、少年が独り言を呟いているようにしか見えないだろう。


 中学時代アキは、少し変な人?という認識で周りから捉えられていた。


 それもそのはず、誰もいないところで誰かと話をしていたりする。


 友達からは「ひょっとしてアキってさ、霊とかみえちゃったりする?」などと真顔で聞かれたりする


  アキには秘密がある。


  世間一般では、それを多重人格障害・二重人格障害やらそういう類で分類している。


  もうひとりの人格はみーちゃん(通称)であり、色々なことをアドバイスしてくれる頼れる姉ちゃん的存在だ。

  あくまで存在というだけで実際には勿論兄弟もいないし家族もいない。





  ―――アキには幼少の頃の記憶がない。



  4歳の頃、身元不明の迷子として警察に保護され、両親が誰かもわからないまま施設で幼少時代を過ごし、現在までに里親と呼ばれる人にお世話になっている。


  後から聞いた話になるのだが、警察に保護された時、日本語でも英語でもない謎の言語を喋っていたそうだ。


  無論、アキは覚えていない。


  アキが初めてみーちゃんを知覚したのはいつからだろう?


  物心ついた頃からみーちゃんは傍にいて、悲しい時、寂しい時は「私が傍にいますから大丈夫です」と何度も励ましてくれた。


  嬉しい時は自分のことのように喜んでくれた。


  そういう事もあり、親も親族もいない天涯孤独の身ながらも、こうして毎日生きてこれたのもみーちゃんのおかげなのだ。


  ちなみにみーちゃんとはアキが略称で名付けたもので、本人の本当の名前は『ミリィ・デルーシュ・アクワルド』なのだそうだ。


  成瀬アキ16歳。


 今年から待ちに待った高校デビューの日、軽く入学式を済ませた後午後からぶらぶらとデパ地下を散策していた。
















  学期も終わりを告げ、無事高校生活の節目を迎える最初の夏休み。


  1学期を締めくくる終業式。


 校長先生の睡魔を誘うとてつもなくありがたいお言葉を右から左へと聞き流し、全校生徒が早く終われというオーラむんむんに放出し続けた結果なのか、こほんと咳払いをし「えーそれでは皆さん、怪我のないように充実した夏休みを過ごしてください」と締めくくる。


  やっと開放された!


  これでホームルーム終われば晴れて自由の身だー!


  学校終わったら一緒に遊びに行こうぜ!


  それぞれ来るべき楽しい夏休みに思いを馳せ、心躍らせるクラスメイト達。




  高校に入学して3ヶ月と少し。


  アキも学校生活に慣れ始めていた。


  中学の時と違ってアキはいじめられることはなかった。


  周囲から奇異の目では見られていたが、小学校や中学の時と違い周りの精神年齢というものが上がったのだろう。


  高校生になり少なくともみーちゃんと話すことが居づらくなるということを学習したアキは、人前ではなるべくみーちゃんとは話さないようにしていたのだ。


  そのかいあってアキにも友達というものが出来たし、高校生活は結構充実していた。


「なー、アキ。学校終わったら一緒にゲーセン行かね?」


「ごめん。今日はちょっと用事があるんだ」


  にこにこと屈託のない笑いを浮かべながら、アキを誘ってきた同じクラスメイトの栗野雄二の誘いをやんわり断って、そそくさと夏休みの課題やプリントをかばんに突っ込む。


  彼とは入学当初仲良くなった友人の一人だ。


「あーそうか」


  何かを悟ったのだろう。雄二はうんうんと頷いて。


「お前の家庭って結構複雑だもんな、今日はお前の誕生日だし、親とどっかご飯食べにいったりするんだろ?」


「んー、まあそんなとこ。先約があってね、ごめん」


「あーいいっていいって。家族の時間大事にしろよ。でもたまには俺とつるんでくれよな」


  雄二には少し話をしたことがある。


  自分の親は本当の親ではなく、里親であるということ。


  里親がアキと仲良くなろうとあれこれ気を回していること。


  そしてそれがどうしようもなくアキにとってストレスになっていること。


  複雑な家庭事情を知っているが故での遊びの誘いであったのだろうし、断ったところで事情があるんだなって察してくれる。


  そんな優しさがアキにはありがたかった。


『雄二優しいねー。クラスメイト結構いるけどあの子結構大人って感じだよねー』


「あーそうだな、あいつが一番分かってくれてるよね」


「んー?なんか言ったか?」


「なんでもない!」


  (学校いる時は話しかけないでって言ったじゃん!)


『えーいいじゃん、最近アキかまってくれないから寂しいんだよー』


  (間違えてこっちのほうで話しちゃうだろ!学校終わったら一杯相手してやるから黙ってろ!)


『つまんないのー』


「雄二気にしないで! とりあえず用がある時はメールか電話してくれ! じゃ!」


「お、おう!また遊ぼうな!」


  雄二の声を最後まで聞く前に教室を後にする。




『あーやっと終わったね学校!すっごい退屈だったんだけど……アキは今日で16歳だっけ?』


「そうそう、今日で16歳。里親のおじさんに預けられてから8年だよ、早いもんだ。」


  おじさん夫婦は帰ったら、アキが好きな料理を作って待っていることだろう。


  里親であるおじさん夫婦はとても優しかった、子供はいなかった。


  そんなこともあって、自分の子供のように可愛がってくれたがアキはそれを当たり前のように受け入れるのが悪い気もしたし、実の親ではない赤の他人というのが心の奥のどこかに引っかかって、結局他人行儀な振る舞いしか出来ないのを悔やんでいた。


『アキ。私大事なことを伝えるのを忘れてた』


「なんだよ急にあらたまって」


『16歳でしょ? つまりはあちらの世界では成人』


「成人は二十歳だろ?あちらの世界?」


『いえ。私も忘れていた。今思い出したのだけれども。アキの体はそろそろ寿命なの。それに今日アキは故郷に戻ることになる』


「え? 寿命?故郷?それってどういうことだよ!?」


『ごめんねアキ。こんな大事なこと忘れてたなんて』


「ちょっと、みーちゃん落ち着けって。話を整理しよう。つまりどういうことだ?」


『うん……焦らずに聞いてね。この体は偽者なの、そして16歳の誕生日を迎える今日貴方を元の世界に戻すべくもうそろそろ――』


  みーちゃんの言葉を最後まで聞き終える前に体に変調が起きた。


  目の前の景色がぐにゃりと歪んでみえた――


「何……これ……っ」


  と、同時にアキの視界が暗転し睡魔に似た感覚に襲われ意識が途切れた。

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