転生チートの後日談
はい、後日談です。
「ほらハル、学校いくわよ?」
「・・・ん〜?」
微かに聞こえる夏純の声。
あぁ、確か今日は。
「・・・今日はなんだっけ」
「学校でしょ!」
あぁ、そうか。
俺は未だ開く気配がない目を諦め、気配だけで起き上がる。
フカフカのベッド感触が体から離れ、少し切ない。
アレ?ベッドってこんなにフカフカだっけ?
まぁ、いいか。
・・・寒い。
俺はのそのそと再び毛布を引き寄せ眠ろうとする。
「だから、学校って言ってるでしょうが!」
突如、体から暖かな温もりを放つ毛布が剥がされ冷たい風が体をうつ。
「さ、寒い・・・」
「いいから起きる!朝ごはん、瑠璃ちゃんが作って待っててくれてるよ」
瑠璃・・・。瑠璃って確か俺の双子の妹じゃないか。
まったく。
「夏純?俺達は今異世界だぜ?俺の妹がいる訳──」
「おにい!いい加減に起きて!」
「ぐぼはぁ!」
顔面に何かが直撃した衝撃で、変な声と共にベッドから落下する。
「いっつぅ〜・・・あれ?なんで・・・玲奈が・・・?」
玲奈は俺のもう1人の妹だ。
「異世界とかわけがわからない事言ってるバカなおにいなんて無視して、夏純さん行きましょ」
「朝から元気だね〜、玲奈ちゃん。それじゃあ、行こっか。ハルも早く降りてきなよ?」
夏純はそう言い残し、2人で1階へ降りていった。
「・・・そう・・・か。俺達、戻ったんだな」
あの後、無事に日本にたどり着いた俺達は魔法を駆使してなんとか家にたどり着いた。驚いた事と言えば、あれだけ長く異世界に居たにも関わらず1日しか経過してなかったことだ。
エルから引き継いだ魔法・・・いや、神としての能力は時空操作。
時間と空間を操るとんでも能力だった。
なぜ、魔法ではなく能力なのか。
それは、魔力も魔術なしで発動できるからだ。
「本当にとんでもない能力だな」
ちなみに、この力を引き継いだ際に銀に染まった髪は黒に戻っている。
正確には髪染めで黒に染めているだけだが。
「さて、着替えて下に降りるか」
着替えを手早く終わらせ、洗面所で顔を洗い歯磨きを終わらせリビングへ行く。
リビングでは既に、夏純と双子の妹を含めた3人が朝食を口にしていた。
「お兄ちゃん、おはよう」
爽やかな挨拶をしてきたのは瑠璃。
黒く長い髪は腰まで降りている。右側は一部縛ってサイドテールになっているのが特徴だ。
「おにいって本当に寝坊助だよね」
そう言う、玲奈は茶髪のセミロング。
頂上にあるアホ毛が特徴的だ。
「スマンスマン。お、オムレツじゃん。いただきまーす」
久しぶりの元の世界での食事に感激しながら、俺は味わって食べた。
──────────────────
久しぶりの学校登校。
夏純はこの学校でモテている。
人当たり、容姿、性格など、完璧の積み合わせのような存在だからだ。
多くの男子から告白を受け、多くの女子から憧れられる。
さて、問題だ。
そんな完璧の近くに、普通の男子が居たらどうなるどろうか?
それは。
「おい、見ろよ。幼馴染だからって一緒に登校してやがるよ」
「あいつ、マジ調子に乗ってるよな」
はい、この様にヘイト(悪意)が集まるんだよ畜生。
「・・・夏純、俺先に──」
教室へ急ごうと歩く速度を上げようとした瞬間。
「待って、ハル」
肩を掴まれ止められた。
「な、なんだ?」
「ネクタイ、曲がってるわよ?」
そういい、ブレザーのネクタイを締め直してくれる。
「お、おい!そんな事したらっ」
予想通り、周りの男子達の嫉妬に狂う目線がっ!
「私達付き合ってるの・・・忘れてないよね?」
こ、この幼馴染なんて爆弾を!
周りを見ると男子女子、全員が固まっていた。
「私、ハルと付き合うためだけに誰ともつき合わなかったんだからね」
原爆が投下された・・・。
(ま、周りの男子の視線がっ!)
「くっ、行くぞ!」
俺は夏純の腕を強引に引っ張り、その場から逃げたした。
──────────────────
クラス内はやはり、いつもと変わらぬ様子だった。
「やっぱり、時間経ってないんだね」
俺と同じ事を思っていたらしく、夏純が不安そうに言ってくる。
「・・・でも、アレは現実だ。エルもリンドも他のいろんな人も、みんな実際に・・・いて・・・」
あれ、俺達何か・・・忘れてる気がする。
「・・・・・・」
夏純も同じ事思っているのか黙っている。
「オラァ、席つけやァ!」
教師の怒鳴り声で、俺達は急いで席につく。
「?おい、コウキが居ないじゃねぇか」
「「あ!」」
「アァン?お前ら何か知ってんのか?」
「・・・いえ、知らないです」
「・・・わ、私も」
異世界に忘れてきてたぁぁぁぁぁぁ!!!
(夏純!どうする!?)
(ど、どうするなんて言われてもどうしようもないでしょ!)
(でもアイツの異世界行きは、半分俺達に責任あると思う───)
「お前ら何ブツブツブツブツ言ってんだァァッ!?」
「何も!」
「言ってないです!」
「なら黙って座ってろ!」
「「はい!」」
異世界で魔王を倒しても、こっちの世界では1人の学生。
ふっ、権力には勝てないのさ。
俺は夏純にアイコンタクトとジェスチャーで、ある事を伝える。
(りょうかい)
夏純からのアイコンタクトだ。
それなら作戦実行。
俺は鞄の中から2本のペーパーナイフを取り出し、先生が目をプリントに移した瞬間に、夏純に渡す。
そして。
「うっ・・・!腹が!こ、これはヤバイ・・・!うぅ・・・!」
「だ、大丈夫!?ハル・・・陽綺くん!」
「い、委員長。やっぱり俺、この腹痛に耐えれなさそう・・・うっ!」
勿論演技である。
ここまで苦しんでるフリをしたら・・・。
「あぁ?腹痛だったら先に言えバカが。おい、保健委員───」
「私が連れていきます!」
先生の言葉が途切れる様に学級委員・・・夏純が言った。
「あー、なら神崎頼む」
「はい!行こっか、ハル」
「おう・・・頼む・・・」
俺は夏純に背中を摩られながら連れていかれる。
そして、教室を出て廊下を保健室方向へ歩き出す。
「・・・このへんでいいかな」
「・・・ここはもう階段だし、周りに人の気配は・・・無いな」
夏純は俺の背中を摩るのを止め、俺の後を付いてくるように走り出す。
もちろん音を立てないようにしているが。
保健室内に誰も居ない事を確認し、2人で入る。
「夏純、ルスを借りていいか?」
実はあの後、ルスの契約は夏純に移行していた。
光属性の適性が夏純のほうが高い事や、戦力が俺に集中する事を避けるためである。
夏純の自衛の役に立ってほしいという思いもあり、そうしたのだ。
「いいよ。はい」
夏純から黒と白の2本のペーパーナイフを受け取る。
「先生が腹痛か確かめるために俺に接近することを考慮してたけど・・・杞憂だったな」
「ハルの演技は残念だったけどね」
「な、あれ程完璧な演技はないだろ!?」
「あはははは・・・え、本気で言ってる?」
そういえば、ギルドでもこんな事あったような・・・。
「まぁ、いいや。イヴとルス。もういいぜ」
2本のペーパーナイフは人の姿へと変貌した。
「マスター、この世界あまりにも便利過ぎではないでしょうか」
「そうよね〜、魔法が無い不便さを除いたらこっちに永住したいわ〜」
イヴとルスはそれぞれペーパーナイフの姿で俺たちを見ていたらしい。
「今度観光に連れて行ってやるよ
とりあえず、開くの手伝ってくれ」
「わかりました、マスター」
「わかったわ〜」
俺は目の前に白い空間ゲートを生成する。
「イヴ!ルス!固定!」
「はいっ!」
「は〜い」
ゆらゆらと不安定だったゲートはイヴとルスによって安定した。
「やっぱり、まだ1人じゃ安定したゲートは作れないな」
「しょうがないよ、魔法でもないなら要領も違うだろうし」
「まぁ、練習だな」
夏純は俺に微笑み、
「さぁ、行こ?」
「あぁ、異世界へ!」
俺達は異世界へ再び舞い戻った。
楽しんで頂けたでしょうか?
人気があったりコメントで希望があるなら
続きを書こうと思います!




