42 大好き
「・・・やめだ。やめだやめだやめだっ!いたぶり尽くして殺してやろうと思ったがもういい。殺してやる」
そう言った魔王は体が変貌した。
目は赤くヒビが入り、悪魔のような翼と竜の様な尻尾が生えた体は黒く染まった姿は最早人間ではなかった。
「おいおい、俺と同じ姿からその姿になるのは個人的に嫌なんだが・・・」
未来的に自分がこうなる可能性というかなんというか・・・いや、まあなる気ないけどさ。
「俺ハ、俺ハッ!イツダッテ、カスミの事ヲ──」
「少し、お喋りが過ぎるぜ」
陽綺は一瞬で魔王に近づくと顔面に蹴りを入れた。
「コロス!コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!」
まるで理性が無いかのように叫ぶ。
いや、実際に理性などないのだろう。
竜の尾、悪魔の様な羽。
竜はリンドがいるから実在しているのだろう。
悪魔も、天使のエルナがいるからいるのかもしれない。
それから仮説を立てるなら、その遺伝子を直接自分に移植して魔力で活性化させることで、その能力を自分の物にしたのではないか。
「シネェ!」
魔王?竜?悪魔?の口から放たれた火炎放射。
陽綺は難なくこれを躱し
「エンドビット」
黒い無数の球体が魔王の左腕の肩を消滅させた。
「理性をなくした獣なんざ、怖くないね」
黒い精霊魔剣を頭上に構える。
「ナイトメアライン!」
黒い光が剣から溢れ、巨大な剣へと変貌する。
今までで1番巨大で、禍々しくて、
「お前の愚策だ、理性は判断力に直結する。それを失ったヤツに、俺達は負けない。だがな、1番の敗因は───」
振り下ろされた剣は魔王へと迫る。
「オレ、オレハァ・・・」
強烈な閃光と共に目の前が真っ白になった。
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「・・・ここは」
冷水に入ってるかのように冷たく、重りを付けられてるように重い。
目の前は暗く、上下左右もわからない。
「悲しい?」
聞こえる少年の声。
「悲しい・・・か。」
確かに、悲しいとはこんな感じなのかもしれない。
「こっちにおいでよ。辛いことも、何もかも忘れさせてあげるよ?」
「忘れさせてくれる・・・か」
「うん!だから・・・こっちにおいでよ」
「辛い事も悲しい事も忘れられるなら・・・どんなに幸せなんだろうな」
少年は不思議そうな顔をして。
「うーん。とっても?」
「そうか」
幸せなら・・・その方がいいよな。
「そうそう。幸せになろうよ!」
「だな」
少年は俺に手を差し出す。
俺はその手を見つめ。
「だからこそ。俺はその手をとれない」
少年は驚いたように目を見開く。
「どうして?これ以上の幸せなんて」
「辛い事を忘れるよりも、辛い事を好きな人と乗り越える方が幸せにきまってるじゃないか」
「・・・ありえない。あー、もう!」
少年は髪をぐしゃぐしゃと掻きむしり
「わかった。行きなよ。今の君なら、私の大好きなハルなら・・・」
少年は1回転するとエルナの姿へ変貌した。
「ハルが・・・望むなら・・・私はなんでもできる・・・。だから・・・受け取って?」
エルナの手には白い光があった。
「これは・・・?」
「・・・私の力の結晶。私・・・エルとしての力」
「・・・いいのか?」
神としての力を託すということは神ではなくなるという事だ。
「なりたくてなった訳じゃないもん。いいよ」
「・・・なら、貰うよ」
俺は受け取ろうとして・・・
「・・・最後にいいか?」
「なに?」
「魔王が言ってた神になった夏純って、エルナなのか?」
エルナは、はっと顔をこちらに向ける。
「あの夜、君の名前に触れた時の記憶。思い出したよ」
エルナは嬉しそうな顔をし、目に涙を貯めた。
「気づくの遅いよ・・・ばか」
エルナから光が溢れ、エルの姿へと変わった。
髪を下ろしている姿は、夏純そのものだった。
「ほら、受け取って」
そういい、俺の胸板へ光を押し付けた。
「ハル、大好き。さよなら──」
そういい、暗かった世界にヒビが入り砕けた。
エルも一緒に。
はい、なんとなく察せられてたと思いますがこんな展開になりました!
ちなみに書き終えたのは今日の朝2時とわりと辛い・・・。
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