40 束縛
陽綺のレーザーは大地を大きく切断し、地面には谷の様な深さの溝ができていた。
「ハル・・・」
「俺は君が知る陽綺じゃないよ」
陽綺にモザイクの様なモヤがかかった。
モヤは2秒ほどで解けた。
その姿は白いコートに灰色の髪。
右目は黒だが、左目は紫水晶の様に綺麗な色だ。
「な、な、何よその厨二病みたいな格好!」
「え、そこですかァ?」
アストが呆れた声で背後から言ってくるが、それはどうでもいい。
「ハハ、酷いな。これはこれで高性能なんだけどな?」
しかし、心配事は他にある。
「エルナをどうするつもり・・・?」
ずっと脇に抱えられたエルナ。
抵抗する力も残っていないのかぐったりしたままだ。
「簡単さ。エルナに一番辛い思いをさせて、それから一番苦しい死に方をさせるよ」
「な・・・」
唖然とする夏純。
しかし、陽綺はその様子に気づかないで続ける。
「まずはエルナの目の前で陽綺を殺す。そして、爪から・・・パーツを取るように少しずつ斬りつける」
あまりの憎悪にドン引きしてしまう。
「どうして・・・どうしてそんなにエルナの事を恨んでいるのよ」
夏純は陽綺から聞いたから知っているが、エルナは女神らしい。
エルナに転生させてもらったお陰でこの世界に来れた事も。
エルナのお陰でこの世界にこれた。
感謝はしても恨みはしないはず。
「それはね。エルナのせいで君《夏純》を助けれなかったからだよ」
予想すらしていなかった答えに夏純は目眩を覚える。
「なんで・・・私はハルに助けられた!ハルは私を助けた!」
「それは俺達の犠牲があったからだ!俺と!夏純の!」
陽綺の感情に魔力が呼応し、黒く濁った・・・粘つくように濃ゆい魔力が溢れる。
「どういう事よ!」
夏純も魔力を解放する。
今回は・・・全開だ。
目の前の陽綺とは違い、鋭く白い魔力だ。
「な、なんだこの魔力は!?」
近くにいたアストは夏純の魔力に吹き飛ばされ、岩山に衝突した。
「よく分からないけど・・・私は陽綺を倒す。もう2度と、陽綺に間違った道は進ませない!」
ふと、蘇るあの記憶。
血だらけの道場の真ん中で泣き叫ぶ男の子。
道場から出てきた裂傷だらけの父。
あの出来事からハルを見守る事しかできなくなった自分。
異世界転生する前日。
父は・・・こうなることを分かっていたかのように私に言った。
『夏純。陽綺君の事を・・・よろしく頼む』
と。
今ならどういう事かよくわかる。
そして、エルナから言われた言葉。
『陽綺さんを魔王とは会わせないで下さい』
きっと、今目の前にいるのが魔王だ。
陽綺の姿をした、陽綺でない別人の魔王。
「確かに・・・会わせるわけないよね」
夏純は腰を落とし、居合の構えをとる。
「私が、貴方を倒す。ハルとは会わせない!」
「君には無理だよ、夏純。君の大好きな俺を斬れるのかい?」
魔王《陽綺》の嘲笑うような口ぶり。
それに夏純は答える。行動によって。
「『魔刀・氷霞』、"絶"」
氷の刀身を生成し、神崎流抜刀術 "絶"を放つ。
神速の踏み込みに切断性が高い氷霞。
その斬撃は、陽綺を斬ることはできなかった。
「っ!」
魔王の背後で目を見開く夏純。
本気で、殺す気で放った居合い。
それは魔王の右手に突如現れた、燃え盛る赤い長剣によって弾かれた。
否、赤い長剣によって『魔刀』は砕かれていた。
夏純の周辺に舞う氷の破片。
それは日光によって照らされ、まるで粉雪のようだ。
「・・・どんなに速くても。軌道さえ読めればどうにでも防げる。その技が最強な理由は、初見である事が前提だよ夏純」
「ならっ!」
瞬時に納刀し、素早く居合いの構えをとる。
「君はわかってないね」
わかっていないのは魔王だ。
それを示すように、火属性の刀身が鞘の内部で生成される。
「『魔刀・火燕』!」
その場で振り抜かれる刀。
魔王との距離は6メートル。
その距離を炎の斬撃が飛んでいく。
「・・・っ!《ウンディーネ》!」
左手に生成された水を纏った白に近いような水色の片手剣。
その剣に触れた炎の斬撃は少量の水蒸気を散らしながら消滅した。
「まだまだっ!」
魔王をドーム状に囲む様々な属性剣。
「《エレメンタルブレードレイン》!」
無数の剣が魔王に迫る。
しかし
「《エレメンタルブレードレイン》」
魔王の上空から降り注ぐ様々な属性剣。
それは夏純が展開した剣を全て打ち払った。
「なっ・・・!」
驚かされる夏純。
「悪いね夏純。」
魔王は語る、最悪の事実を。
「この剣は全て、精霊魔剣なんだよ」
魔王は両手の剣から手を離す。
しかし、剣はその場に留まり浮遊している。
更に、空中に2本の剣が現れる。
鋭く硬い岩の短剣。
風を纏った深緑の大剣。
万物を焼き斬る炎の長剣。
冷気を纏った白に近い水色の片手剣。
その4本が魔王に近くに浮遊している。
「具現化」
その一言で全ての精霊魔剣が女の子の姿へ変化する。
少し天然パーマが入ってる黄色い髪の7歳くらいの女の子。
深緑の髪色をした胸部が強調されてるような20歳くらいの女性。
赤色のショートカットの中学生程の女の子。
水色のセミロングの髪に、1部三つ編みで胸元まで垂らした高校生程の女の子。
そして、全員に特徴的な部分があった。
「な、なんで・・・そんな鎖」
そう、全員は手足を黒い鎖に縛られていた。
剣から女の子に変わったところを見るに、本当に精霊魔剣なのだろう。
しかし、問題は鎖だ。
ハルのイヴやルスには無い鎖。
「あぁ、この鎖はね。彼女達の自由を縛るためのものだよ。イヴも手元に置いておきたかったけど・・・先に陽綺が取ってしまったからさ」
「貴方で本気で腐ってるわよ」
夏純は本気で魔王を見放した。
やはり、アイツはハルではない。
そう確信した。
「ハルは、絶対にそんな事しないっ!アナタはただの魔王よ!2度とハルを名乗らないでっ!」
いやー、次回のバトルがカロリー高そう・・・。
そんな事を書き終えた時思いましたね!
というわけで、風邪で体調崩しながらも薬を飲み何とか書きました!
来週は、胃薬飲みながらでも書きますかね!汗
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