34 元聖騎士団長
俺は夏純から逃げるように王様の元へ走った。
(なんて言えばいいんだよ・・・)
自分が1番守りたい人を自分が傷つけていた。
この事実が、まるで心臓を掴むかのように俺の心を締め付けた。
「ハルキよ。これから君には帝国へ行ってほしい。」
「帝国へ?」
何故か、その問にすぐに答えてくれた。
「帝王が死んだ疑惑がある。勇者の手によって」
「っ!」
やはりか。
先程も、観客の怒声の中に『勇者が王を殺した』とか言っていた人がいた。
「つまり確認して来てほしい。そういう事ですか?」
「そうだ。」
「分かりました」
「あと、前聖騎士長アリサ・アシュリーの生存確認もだ」
「生存確認・・・」
生存確認ということは、こちらも死んでいる可能性があるのか。
「とりあえず何があるかわからない故、急ぎ確認してきて欲しい」
「分かりました」
俺は帝国に行く為、闘技場の中心地点から飛び立とうとしていた。
「ハル・・・」
「・・・夏純」
なんて言えば良いのかわからない。
それでも、これだけは分かる。
「これが解決したら話そう」
これ以上逃げたら、それこそ夏純をもっと傷つけてしまう。
「うんっ!」
夏純の返事を聞き、俺は精霊魔術により高く飛び上がった。
──────────────────
飛んでいる時に気づいたが、俺の背中から生えている羽の色が変わっていた。
薄紫だった羽は右が黒、左が白になっていた。
「いやいや、厨二感あり過ぎだろ」
思わず言ってしまう程のTHE・厨二だった。
「まぁ、この世界なら大丈夫か」
全身鎧で歩いてる奴もいるんだ。
この程度・・・大丈夫・・・さ?
自問自答により自身が無くなりつつある俺の目に映ったのは帝国だった。
国土は広く、森や海などに隣接している所からしてかなり栄えていたのだろう。
俺の言葉が過去形になったのは、目の前に広がる帝国がそう思わせなかったからだ。
見るからに活気が無く、色で表すなら灰色がピッタリな感じだ。
「国が・・・政府機関が死んでいるのか」
俺はそれを確かめるために帝国の中心にある城に入り込んだ。
中は酷い状態だった。
壁や地面に赤い液体、刃物で出来たような傷が幾つもあった。
通路にも帝国兵と思われる者の死体が転がっていた。
攻めいられた?
誰に?
考えつくのは1人しか居ない。
だが。
「あいつは本当にこんな事するのだろうか?」
確かに嫉妬深くめんどくさかったが、それでも常識はあった。
俺の記憶の限り、ここまで冷徹な人ではないはずだ。
「帝王・・・か、部屋は多分頂上かな?」
俺は再び飛び上がり、今度は頂上を目指した。
頂上には巨大な扉があり、どう見ても『偉い人がいる部屋』だった。
「あたりかな」
俺は扉を静かに開けた。
そして。
「・・・っ!」
中も酷かった。
川の字で寝ても数人は寝れそうなベッドに眠るように横たわる1人の男性。
それを庇うかのように横たわる全身を鎧で包んだ金髪の女性。
そのどちらも白いベッドの上で赤く染まっていた。
「・・・全滅・・・なのか・・・」
俺は金髪の女性を見る。
歳は俺より少し高く見える。
20代前半だろうか?
顔立ちは美しく、長い金髪はその女性の魅力を際立たせていた。
「最後まで王を庇ったのか、凄い騎士だな」
自分の主の為に自分が犠牲になる。
その事を当たり前の様に実行したであろう彼女の死体を見て。
「あなたの役目はもう終わりましたよ」
俺は、その女性を寝かせる為にお姫様抱っこをする。鎧を来てる分重いだろうと覚悟はしていたが、予想に反してそこまで重くは無かった。
「んん?」
「え?」
死体から変な声が聞こえたので見てみると、
「「・・・・・・」」
死体と目が合った。
いや、死体がばっちり目を開いてこっちを見ているのだが・・・。
「生き・・・てる?」
鎧で気づかなかったが、よく見たら胸が上下に動いている。
つまり、心臓が動いていた。
「あ・・・」
つまり・・・ただ寝ている人を俺はお姫様抱っこで動かそうと?
「キャアアアアアアアアアアアア」
まぁ、勿論こんな反応されるわけで
この世界には魔法がある。
「吹き飛べ!【シャイニング・ピアス】!」
「ですよねぇ!?」
俺は上体を逸らし、なんとか光の槍を避けた。
「んなっ!?この距離で避けるだと!?
ならば・・・っ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
俺は必死に止めようとするが、彼女の右手にはどんどん魔力が集中し・・・一気に霧散した。
「・・・え?」
「う・・・」
うめき声を上げて倒れてしまった。
なんだ?
「王・・・は?」
っ・・・!そうだった。
こんな事をしてる場合ではなかった。
俺は帝王様の元へ駆け寄り脈を測った。
脈は・・・・・・止まっていた。
「・・・誰が。いや、コウキか」
「っ!そうだ!あの勇者は!?」
突然女性が叫び驚いた。
「え、あぁ、気絶させたけど?」
「気絶?・・・お前、何者だ?
さっきも私の魔法を避けたが、あの勇者を気絶させただと?」
女性は不思議そうな表情・・・いや、どちらかと言うと疑っている感じだ。
「あー、自己紹介がまだだったね。
俺はハルキ・アイカワ。
通りすがりの(というわけでもないが)冒険者だ」
「ハルキ・・・アイカワ?
何処かで聞いた気が・・・」
「気のせい気のせい」
さてと、ここまではいいけどどうするか。
王様に『帝王死んでましたー』って言うか?まぁ、言うしかないが・・・。
しょうがない、もう1人の生存確認をするか。
「あのー。アリサ・アシュリーって人知りません?」
鎧を着ているから騎士関係=知っている。
という思考で聞いてみたが・・・その表情は何か思い当たりが──
「そうか!あの魔王幹部の1人を倒したハルキ殿か!」
「お前の会話はそこで止まってるのかよ!?」
おっと、あまりに驚きすぎて口が滑ってしまった。
『お前』は不味かったかな・・・と思っていると。
「おぉ・・・」
なんか凄い尊敬の眼差しで見られているのですが・・・。
「いや、えーと・・・。あのー?」
そう声をかけると意識が戻ったらしく
「はっ!しまった。私とした事が・・・。
ええと、アリサ・アシュリーでしたよね?」
俺が頷くと
「それ、私です」
生存してました・・・と。
ブクマ、コメントお願いします!
来週は諸事情により投稿できないので、再来週の23日(土)に次話を投稿します!
これからもよろしくお願いします。




