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後日
「あの桜の木、昔からあるけどちっとも花をつけないよね」
春の晩、散歩に出ると、そんな会話している家族とすれ違った。口を聞いたのは、妊娠している妻の方。
彼女は気付かなかったのだろうか。彼女の息子の瞳に映る、濃緋の桜に。
桜の木の下で、暗闇に浮かぶ白い女が微笑んでいた。
強い死の馨り。
澄んだ碧い眼は、星の光を反射している。
可哀相に。お腹の子は、もう。
顔を戻してすぐ、奇妙な男とすれ違った。絢爛な着物、黒い背負籠に隠れた、骨の様に色褪せた男。
だが、振り向いても、彼の姿はなかった。
彼は誰も救ってはくれない。