死者への冒涜
少しばかり残酷な描写とも取れる部分がございますので、注意されて下さい。
──暗い。ここはどこだ。俺は今、何をしている。どうして何も感じないんだ。
──気の遠くなるような痛み。抜けていく力。鼓動を止める臓器。流れてゆく、血、血、血。倒れたのは、赤い液体の上。
──思い出した。俺は死んだのだ。心臓を撃ち抜かれて即死だった。薄れゆく意識の中で、犯人の顔がちらりと見えた。俺が所長を務める研究所の、副所長だった。
──マァ、それも全て今の俺にとってはどうでも良い事。生ある者は、いずれ必ず死を迎え、そして無に帰る。ただ、そのタイミングが予想外に早かっただけの事。
──ようやく休める。やすらかな永遠の眠りへ旅立つのだ……
「脳波レベル、覚醒状態へ移行」
「意識レベル、100に復帰」
──何だ、この声は。俺は死んだんじゃなかったのか。どうして人の声が聞こえるのだ。
「システム、全て順調です」
「よし、カメラ・アイのロックを解除しろ」
「了解。発声装置はいかがなさいますか」
「かまわん、放っておけ」
──どういうことだ。俺は今どこにいる。何をしている。いったい、何が起こっているというのだ。
「やぁ、無様だねぇ、所長」
──視界が突然戻った。目の前にヤツがいた。俺を殺した張本人が。
「いや、元所長と言った方が良いのかな。今ではこのボクが所長だから」
──なん、だと……?
「ふん、ボクに楯突くからこういうことになるんだよ。あの時、素直に所長の座をボクに譲っていたなら、命まではとらないであげたのに」
──どういうことだ!おい、お前!
「おっと、ムダだよ、ムダ。あんたのボディの連絡回路は、全て遮断してあるんだ。今のあんたは指一本、いや、アーム一本どころか、音すら出すことはできないのさ」
──ちくしょう、悪魔め!俺の体に何をした!
「くくく、あんたの考えている事なんか、声を聞かなくてもすぐに分かるよ。あんたはその脳がダメになるまで、ただの機械人形としてボクの奴隷になるんだよ」
──なっ……!?貴様、俺を一度では飽きたらず、二度も殺そうと言うのか!許さんっ!貴様は絶対に許さんっ!
「ふふふ、ムダだって言ってるだろ?おとなしく従った方が身のためだぜ?あんたの命はこっちが握ってんだ。スイッチ一つ切れば、全てのシステムがダウンし、あんたは10分と待たずに御陀仏さ。ま、もっとも──」
「ガ……、ユ、ガガ……サン」
「っ!?発声装置が作動を始めている……?
おいっ!発声装置のロックは解除しないでいいと言ったろう!」
「いえっ!ロックはかかったままです!」
「なんだと……!?どけっ、ボクが見るっ!」
──許さん、許さん、許さんっ!俺の眠りを覚ます者は何人たりとも許さんっ!
「所長っ!右肩第一モーターが駆動を開始しましたっ!」
「左足首第三モーター、ロックできませんっ!」
「くそおっ!何としてでも止めるんだっ!リミッターを最大まで引き上げろ!緊急停止スイッチを押せえっ!」
「ユル……サン、ガガ……ナンビトタリトモ、ユルサンッ」
「だめですっ!拒否されましたっ!完全に暴走しています!」
「リミッター、解除されますっ!」
──許さん、許さんっ!全員殺してやる!コロシテヤルッ!!
「ああっ!強化ガラス破られますっ!」
「なんだと……!?大砲で撃たれても耐えるという代物が……。かまわんっ!爆破だ!爆破しろっ!」
「だめです!こんな所で爆破すれば、全員爆死しますっ!」
「あああっ!!ガラスがっ!!」
──コロシテヤルッ!ツブシテヤルッ!!
「う、わ、すまなかった、ボクが悪かったっ!許してくれ、な?許し……あ、ひ、あぎゃあっ!!!!」
「あ、わ、誰か助けて……っ!」
「死にたくねぇ……、死にたくねえよぉっ!」
「うあああっ!」
──先ほど入りました情報によりますと、本日午後二時頃、○○大学工学部の第四研究所、地下研究室内で、四人の他殺体と見られる遺体が発見されました。
亡くなっていたのは、同大学工学部助教授で、同研究所副所長の○○○○さん三十八歳、同大学院生の○○○○さん二十二歳、同じく○○○○さん二十四歳、同じく○○○○さん二十五歳の計四名です。警察は殺人事件として捜査を続けておりますが、四人の死因が圧死ということや、その他にも奇妙な点が数多くあり、捜査は難航しそうです。
また、同大学工学部教授で、同研究所所長の○○○○さん四十二歳の行方が、一週間前から分からなくなっていて、警察は事件と何らかのつながりを持っている可能性があるとして、本格的に捜査を始めると言うことです。また詳しい情報が入り次第、お知らせいたします──
初めまして、針井龍郎です。試しにこんなのも書いてみました。
むむむ……。何というか……。私の作品を初めて読む方には、大変な誤解を与えてしまいそうです。あくまでも、私の普段の作品はハッピーエンドがモットーなんで悪しからず。しんみりする事はあっても、今回みたいにバッドエンドなのは珍しいです。
実はこの作品も本当は命の大切さを伝えたかったのです。殺人に対する罰、死者を冒涜した者に対する罰、望まぬ生還を果たした者の嘆きがテーマだったのですが、見事に外してしまいました。上手く伝わるかどうか……。結局、上から読んでも下から読んでも、ホラーにしかなんないな(笑)。
今回は、セリフと一人称での思考のみの構成で、情景を表現する事に挑戦してみました。最後のまとめはニュース仕立てにしてみましたが、いかがでしたでしょうか?御意見、御感想、お待ちしております!
それでは、またどこかでお会いしましょう。以上、針井龍郎でした!