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抹殺学園21 -成績下位は殺されます-  作者: じゃぴのこ
1章 その男、天才児
6/13

STORY5 intellect

――5分後。

 校内戦の審判の教員が特別寮に呼び出され、いよいよ始まろうとしていた。

「本当にやるの?」

「おう!生徒会長になって、この学園を改善する!」

 彼は緊張とか、そういうものは一切感じていない。

 感じているものがあたら、それは闘争心。


 校内戦のルールは、インテレクトと呼ばれる持ち点が予め両者100点ずつあり、1問間違えたり、回答するのが相手より遅れてしまった場合、10消費される。

 つまり、早押しクイズのような形式だ。

 ゲームの様な感覚で、先に相手のHPを奪ったほうが勝ち、という感じだ。


「では、これから校内戦を始めます。挑戦者、叶水光河」

「はーいっ!」

「保守者、神童寺秀良」

「はい」

 2人が大理石のフロントに向かい合い、互いに同意の返事をした。

「両者の了承を得ましたので、これより、この校内戦を正式なものとします。教科は国、数、理、英、社。先にインテレクトを失った方の敗北。では、開始!」

 教員が笛を吹くと、光河と神童寺の前、つまり空中に青いパネルが浮かび上がった。

 今で言う、クイズ番組に使用するパネルのようなもので、専用のペンで答えを書き、回答送信ボタンを押す。

 ボタンを押した時点でその答えが承諾される仕組みとなっているのだ。

 そしてパネルの横にゲージが現れ、両者、100と緑色で表示されている。

 これがインテレクト、つまり『持ち点』だ。


「国語の問題。長編小説、『浮雲』の作者名をフルネームで答えなさい」

「二葉亭四迷!」

 教員が問題文を読み終わらないうちに、神童寺はパネルに回答を書き終えていた。

 そして問題の採点が一瞬でされ、ピンポーンとチャイムが鳴る。

「正解です」

「ふんっ、ウォーミングアップにもならない問題だな」

 神童寺は楽勝で正解し、まだまだ余裕しゃくしゃくの態度。

 光河のゲージが少し縮まり、 90と表示された。

「へーっ、こういうことかぁ」

 インテレクトを奪われたものの、光河はまだ余裕だ。

「うわぁ、さすが会長すごい……!中学1年生じゃ、習っていないのに……」

 そんな光河と神童寺を、蘭華は心配そうにモップを握りながら見つめているのであった。


「では数学の問題です。内角が135°になる図形を答えなさ……」

「8角形!」

 光河は出題者の言葉を遮るように言い、問題を書き終える。

 そして、それと同時にピンポーンとチャイムが正解を告げた。

 神童寺のゲージが減り、インテレクトは両者90となった。

「ふん、どうせまぐれだろう……」

 神童寺は少し予想外だったようだが、気を落ち着かせる。


「社会の問題。中尊寺金色堂が設立したとされている年代は……」

「1124年!」

 またとしても、光河はすぐさま答えを言う。

「こ、こいつーーは……速いっ!」

 神童寺はZクラスだからと見くびっていたのか、かなり面食らったようだ。

「重水素 と三重水素による核融合に必要なプラズマに対する三つの条件のことを……」

「ローソン条件!」

 教員が一般生徒にとって訳の分からない用語を羅列しても、光河は戸惑うことなく答えを記していく。

「速い……何て速さだ……」

 神童寺は光河の答えるスピードに驚愕し、動揺する。

 光河が回答ボタンを送信している頃には、神童寺はまだ書いている途中だ。

 こうして2人のインテレクトは差がひらき、90-60となった。


「す、すげぇあのZクラスのやつ!会長をおしている!」

「あ……あぁ。にしても、よくそんな細かいことまで知ってんなぁ……」

 周りも蘭華動揺、彼らの頭脳の明晰さに圧倒されている。

「光河……頭がいいとは思ってはいたけれど、まさか会長以上なんて……」

 

 教員が問題文の印刷された紙を開き、ゆっくり読み上げた。

「国語の問題です。スタンダール作の『赤と黒』の主人公の名前を答えなさい」

 ーーこれなら分かる!


 神童寺は問題を読み上げられた途端、物凄いスピードで回答送信ボタンを押す。

 光河も負けじと書き終えて押す。

 一見、2人が同時に押しているようにしか見えないが……

「……どっちだ?」

 神童寺は落ち着きない様子でインテレクトのゲージを見つめる。

 次の瞬間……

「あ、俺のが減ってる」

 光河のインテレクトのゲージが10下がり、80と表示された。

「よし!俺のほうが0.数秒早かったようだな」

「ちょっと遅かったかぁ」

 光河は残念そうに頭を掻いたが、まだ余裕そうだ。


「英語の問題。二酸化ケイ素を英語に訳しなさい」

「silicon dioxide!」

 光河は、神童寺が答えるより先に回答ボタンを送信した。

 それも、真剣勝負……というよりかは、クイズを楽しんでいるかのよう。

「これでインテレクトは80-50か……」

 神童寺は先程正解したものの、まだ光河の差が埋められない。

「くそっ、何なんだあいつは!俺のインテレクトが減っていく……」

 神童寺は無力な自分に歯ぎしりし、早く光河のインテレクトを削り取ることしか考えていない。


「理科の問題。銅とニッケル、真比重が重いのは……」

「銅!」

 光河はまた正解し、神童寺のインテレクトを削っていく。

「お前、Zクラスのくせに……何者だ!?強い……問題文を読み終わらないうちに答えやがる……」

 神童寺から、かなりの苦悩の色が見て取れる。

 彼は、問題に答えられる度に表情を歪めた。


 いよいよ、インテレクトが80-10となった。

 ここで神童寺に勝てば、光河の勝ちとなるが、ここで神童寺が正解すれば、まだ戦いは続く。

「……社会の問題。日本の21代目内閣総理大臣は……」

 両者、両目を血眼にしながら、目に見えない速さでパネルに書き上げる。

 カッカッカと、パネルにペンが激しい勢いで押し付けられる音がする。

「うおおおおおぉぉっ!」

「負けるものかあぁっ!」

 その姿はまるで、競り合う獅子と虎のようだ。


 そして……

高橋是清(たかはし これきよ)!」

 一足先に回答ボタンを押したのはーー光河だった。


「な……!?俺が……負けた、だと!?」

 光河に負けた事が未だに認められず、神童寺はインテレクトが0と表示されているのを、まじまじと見つめた。

 だが、確かに80-0と、インテレクトのゲージは空っぽになっていた。


 その後、蘭華は光河の元へモップを持ったまま駆け寄った。

「す、すごいよ!光河!あの生徒会長と校内戦で勝っちゃうなんて!」

「んー、正直しんどかったなぁ~」

 光河は歓喜の声をあげたりせず、当たり前、という風な感じだ。

「くっ――次の定期テストでは必ず1位に返り咲いてみせる!」

 神童寺は項垂れたまま悍ましい目つきで光河を睨みつけ、立ち去っていった。

 そしてその場に、『生徒会長』と書かれた腕章だけが残っていた。


「今日から、俺、叶水光河は生徒会長になりましたぁ――っ!」

 光河は床に落ちていた腕章を拾い上げ、自分の袖口に留めた。

 周りでは、前生徒会長に不満を持っていた人々が拍手を始める。

 1年2年問わず、色んな生徒が光河の元に押し寄せてきて、混雑している。

 特別寮の1階はまるで、王の戴冠式のようになっていた――


 ――そして。

 審判を務めた教員が校内戦の結果の報告書を届け、光河は正式に生徒会長となり、負けた神童寺は権力も失なってしまった。

 生徒会長の権力は、校則の変更、学園のイベントの企画、学園の費用の割り当て決めなど、多大な力を持っている。

 そのため、生徒会長になれば最早、この学園を支配できると同然なのだ。

 最も、抹殺制度は理事長にならない限り廃止できないのだが。



「ふぃーっ!んじゃ、帰るか!」

 光河は特別寮でもみくちゃにされたあと、職員室へ手続きし、校舎を出た。

 もう外は夕暮れで、2人の影を長く長く伸ばしていた。

「おめでとう、光河。正直私、貴方があんなに天才だとは思っていなかったわ」

 蘭華は今まで散々、頭が悪そうと勝手に思ってしまい、悪く思った。

「俺、天才じゃねーけど」

「貴方を天才と呼ばないなら、誰を天才と呼ぶのよ!?」

 蘭華は無自覚な光河に呆れた。


 暫くの沈黙があったあと、光河が先に口を開いた。

「んで、今日はなんの教科をやるんだ?」

「……国語をお願い」

「ん、了解!」

 そして、2人はいつも通り勉強会を行うことになった。


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