STORY3 Let`s try!
光河の手伝いもあり、いつもは6時くらいまで長引く掃除も、今日は4時と、かなり早く済ますことができた。
「んじゃ、早速俺の寮へレッツゴー!」
「はいはい」
光河はスクールバックをブンブン振り回しながら、軽快な足取りで寮へ向かう。
その後に続いて、蘭華がハイテンションについていけず、呆れながらトボトボ着いていく。
――本当にこんなんで勉強できるの……?
――3分後。
特別寮から普通寮まではそれ程遠くなく、歩いて3分程の距離だ。
至って普通の寮で、特別寮のように豪華ではないけれど、生活するのに支障はない。
鉄筋コンクリート造りの建物で、庭も少しある。
紅葉や銀杏などの木が植えられていて、結構広い。
寮だけはBからZクラス、全員平等だった。
「俺は男子寮だけど、女子の立ち入りもいいんだよな?」
「え、まぁ……」
蘭華は男子寮に入るのに抵抗があり、顔を隠し、俯きながら歩く。
フローリングの床を早足で歩き、人目につかないようにした。
女子が男子寮に行くなんて、如何わしい事でもあるんじゃないかと誤解されると厄介だ。
皆勉強しているのか、廊下の人影は無く、誰に見られることもなかった。
「ここが俺の部屋!221B室だ!」
光河が221Bと刻印されたプレートがぶら下がっているドアを開けると、そこには……
「うわっ!何コレくっさ!」
カップラーメンの容器やお菓子の袋のゴミなどが散乱し、色々混じった悪臭が解き放たれていた。
服は散らかしてあり、ゴミ箱には潰された箱やペットボトルなどで一杯になっている。
窓際にある勉強机には、趣味の物であろうロボットのプラモデルや接着剤、作りかけのロボットの部品などが置いてあり、とても勉強できる状態じゃない。
基本、寮の決まりとして、私物の持ち込みは可能となっている。
コンビニで買ったお菓子なども、趣味の物も持ち込んで構わない。
「……汚い……貴方、勉強しているの?勉強しているのだったら、プラモデルなんか勉強机に置かない」
「勉強なんてするわけないじゃーん」
光河は笑いながら言う。
「~っ!まずは掃除よ!勉強はそれから!」
蘭華は鞄をその辺に放り投げると、カップ麺の容器などをゴミ袋に詰めていった。
――40分程経過しただろうか。
蘭華はゴミ袋を5枚も寮母から貰い、ゴミステーション(寮のゴミ捨て場)に捨てた。
中には主に、食べ物の容器や、古くなった週刊少年マッテーとかが見つかり、分別するのにも一苦労だ。
「寮に来て日が浅いのに……もうこんなに散らかすなんて、信じられない」
「はははー、俺掃除苦手でよー。サンキューな!ま、早速やるか!」
光河大分さっきよりマシになった勉強机に、向かい合うように椅子を二つ並べた。
「で、お前の苦手教科って?」
「数学……だけど……」
蘭華はスクールバックから教科書や参考書、問題集などを取り出して広げる。
「ふーん、図形かぁ」
蘭華は三角形や四角形などが並んだ、図形のページを開いた。
本来、政策が始まる前の2015年位ならば図形の問題は中学2年生がやるが、政策が始まってから教育レベルもアップしてきた。
「そうなの。でも先生に聞いても全く理解出来なくって……やっぱ参考書を読み返して理解するしかないか。塾にも行けないし……」
蘭華は頬杖をつきながら、はぁっ……と本日何度目かのため息をつく。
光河と蘭華は、椅子を向かい合わせ、至近距離で勉強しているため、蘭華は少し意識してしまう。
――なんか、かなり近いんだけど!
蘭華がそう意識しているのも気にせず、光河は至って普通だ。
「ふぅーん、この問一とかさぁ、錯角を使えば簡単じゃね?」
「えっ?」
光河の指摘に、蘭華は身を乗り出す。
こんな頭の悪そうな人が、勉強を教えているからだ。
xの角度を求めるという問題で、蘭華が前々から悩んでいる問題だった。
「錯角なんて無いじゃない」
「いーや、ここの曲がってんとこに線分を引くと……」
光河はスッと定規で線を引くと……
「本当!錯角ができた!これなら分かるかも!」
蘭華は早速問題集に書き込み、xの角度を求める。
「うそ……本当に出来ちゃった……」
蘭華は自分でも信じられないくらい、何日間も悩まされた問題をあっけなく、あっさり解いてしまった。
「ほらな。勉強できんじゃん。だからお前、テストで死のうとか考えんなよ」
「……え?」
私、そんなこと言ったっけ?
心の中では思っていたけど……
「お前、次のテストで抹殺されてもいい、って顔してたぞー」
「うそ……」
「ホントだって。んじゃ、続きの問二、教えてやっから」
光河はシャーペンを握りながら、二ヤッと笑った。
――もしや、光河って、結構頭良かったりする――?
「そこは平行だから、∠Aと∠Cは同位角になる」
「あっ、気がつかなかった!」
不思議と、光河の説明は先生よりも遥かに分かりやすい。
疑問点が明確に解ける。
その後も、次の問題も、その次の問題も蘭華は自力で解けてしまった。
「そんな……今まで例題ですら解けなかったのに!発展問題までできちゃうなんて!」
自分自身も自分自身を疑うくらい、蘭華の向上は凄まじかった。
「やっぱ、やれば出来るんじゃん」
光河は親指を立て、グッドサインを送る。
「あ……ありがとう……っ。迷惑じゃなければ、科学も分からないところが……」
「おう、何でも聞けよ」
蘭華は大幅に光河を見直すのだった。
寮に帰った後も、蘭華は問題集を解く。
発展問題も安定して解け、元素記号もかなりの数を暗記出来た。
「すごい……叶水光河って、一体何者なんだろ……」
彼はもしかしたら、次の定期テストでCクラスやBクラスに行けるかもしれない。
意外と頭良いらしいし、Dクラスの学級委員長は余裕で勝てるんじゃないか。
蘭華は問題を解きながらそう思った。
数学も科学も、驚く程に劇的な変化が現れた。
「うっそ……難問問題も出来ちゃった……」
光河の指導があったとはいえ、彼が教えたのは基本問題のみ。
けれど勉強が楽しくなって夢中でやっていたため、難問まで出来てしまった。
「勉強が……こんなに楽しいなんて……」
自分の書いた答えと回答を、恐る恐る照らし合わせ、そして合ってきたときのその爽快感がとても楽しい。
蘭華は夕食が終わっても、夢中で勉強し続けた。