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抹殺学園21 -成績下位は殺されます-  作者: じゃぴのこ
1章 その男、天才児
2/13

STORY1 運命の邂逅 

「歌永、お前またこんな点数か!これじゃあ抹殺も時間の問題だな!」

 強面の先生は、赤い雨がたくさん降っているテスト用紙を教卓に叩きつけ、怒鳴り散らした。

 ペケ、ペケ、ペケ、――二つマル。

 勿論、今回も昇格なんかせず、最低クラスのZクラスのまま。

 正直私はもう、今回のテストは自殺すると思って諦めてい挑んだ。

 なのに、ギリギリの点数で抹殺を免れてしまった。


「よく勉強しておけ!次!」

 先生はクシャクシャになったテスト用紙を乱暴に突き付けると、また怒鳴り散らす。



 ――2050年……


 日本は人口が増加しすぎ、食糧不足や土地不足が問題となっている。

 それらを解決するべく、政府は憲法や法律に背いて残虐な政策を行った。


 それが――


『抹殺』

 

 日本を発展させるために、教育を良くせねば、と政府は高校まで義務教育にした。

 小学校では抹殺は無いが、中学から高校まで抹殺がある。


 優良な人材を残すため、不良な人材は抹殺していく。

 おかげでこの学園には……この日本には、『優しさ』なんてもの、存在しないに等しい程になっていた。


 両親は私をこの学園に入学させ、海外へ仕事へ……正確には逃げていった。

 ありとあらゆる塾や家庭教師を付かせたが、一向に成績は上がらず、両親はお手上げの状態。

 両親は大企業の会長で、私に会社を継がせるつもりだったらしいが、私の成績を見て、捨てるように私を入学させてた。


 憎い、恨めしい、両親も、頭の悪い自分も――……


 毎日が戦争のようなこの日々に、私はもう疲れていた――




「はぁー……またギリギリ……」

 最下位から数えて11番目、つまりあと1位下だったら、私は抹殺されていた。

 でも、もうそれで良かったのに――早くもうこんな世界から消えたかったのに……

 いっそのこと、白紙で出せば良かったのかもしれない。


 蘭華はしわくちゃになったテスト用紙を強く握り締めながら、廊下を俯きながらトボトボ歩いている。

 周りには誰もいない、みんな教科書や参考書とにらめっこして、勉強に熱心だ。

 でも、私はもういい――1ヶ月後の定期テストで、今度こそ死ぬのだから……抹殺されるのだがら。


「おーい、ちょっとそこの人ーっ!」

 そんなことを思っていると、背後からこの学園の者とは思えないくらい明るい声がした。

 皆、暗い性格やクールな人ばかりなのに、これほどまで元気な能天気そうなヤツがいるなんて……


 蘭華が振り向くと、そこには明らかにバカに見える少年が一人立っている。

着崩した制服、青いパーカー、オレンジ色の髪……いかにもアホみたいなやつ。

「え…………お前……なんで……」

 彼は振り向いた蘭華の姿を見るなり、少し動揺している。

 何か小さい声で呟いていたけれど、何を言っているのか全く聞こえない。

「何?」

「あ!あぁ、えっと……俺、転入してきたんだけどー職員室の場所が分かんなくってさぁ。教えて欲しんだ」

「あ、貴方転入生……?別の地方から?」

「いやぁ~、俺、両親も居ないしー、今まで学校行けなかったんだよねー」

「両親が居ない……?病気か何かで?あ、答えたくないのなら……」

「……事故だよ」

 彼は何の変哲も無さそうに、しれっと言う。

 そしてその後、気まずい沈黙が2人の間に流れていく。


 蘭華はいけないことを訊いてしまったようで、少し後悔した。

 あれは、とんだ失言だった。

 重くなってしまった空気はどうにも拭えない。

「そんなことよりっ!俺は叶水光河!宜しくなっ!」

 彼は重くなった空気を拭おうとしたのか、元気な声でそう言った。

 叶水光河と名乗った男子は、蘭華に右手を差し出す。

「う、うん、宜しく…………」

 蘭華は無駄にテンションの高い光河についていけず、苦笑しながら手を差し出した。


「職員室に案内するから、着いてきて」

「おー!ありがとう!」

 蘭華は廊下を真っ直ぐ進んでから、階段を降りていく。


「叶水さん……」

「光河でいいよ」

「えっと……じゃあ光河。この学園の規則、知ってる?」

 私は、まさかとは思うが、という思いで彼に尋ねてみる。

「え?何が?」

「成績が下の人から順に抹殺していく、っていう、全国の学校で指定されたルールよ」

「あー、あれか。まー、どうにかなるだろ」

 彼は呑気に欠伸をしながら、特に驚くこともなく言う。

「抹殺って、貴方成績が悪かったら殺されるのよ!?何をそんな平気で……」

 彼はよっぽどの自信があるのか、もう諦めているのか、かなり楽観的な態度だ。

 余裕しゃくしゃくという感じで、そのまま蘭華についていく。

「要はあれだろ?成績が良けりゃいいんだろ?」

「そう簡単に言うけれど……」

 蘭華は握り締めていたテスト用紙を見て、今にも泣きそうな表情だ。

 なんせ、こんな成績なのだから、きっと今更勉強したって次のテストでは抹殺されているに決まっている。

 そう思うと、いくら死を覚悟しても悲しいものだ。


「それ、今日返されたテストか?」

 光河は蘭華の握り締めていたテスト用紙を覗き込む。

「うわーっ、ひでー点数ー」

「貴方に言われたくないっ!貴方の成績なんて知ったこっちゃないけれど、そんなだらしのない格好で……」

「格好は関係ねーだろー」

 いかにも頭の悪そうなやつに、酷い点数と言われ、蘭華は憤りを隠せない。

 自分がバカだということを自覚しても、頭の悪そうで努力していないやつには言われたくない。


「勉強しないと、あなたもいずれ抹殺されるわよ」

「まぁ、大丈夫大丈夫!何とかなるだろ」

 光河は笑いながら蘭華の肩をポンッと叩き、親指を立てた。

 蘭華はとうとう怒りを忘れ、怒る気力もなくなってしまった。

 溜息をついて呆れると、職員室前で立ち止まった。


「……はい、ここが職員室。くれぐれもハチャメチャな行動は避けておいたほうがいいわよ。死にたくなければ、ね」

 蘭華は一つ忠告すると、職員室から遠ざかり、来た道を帰っていった。


「あ、そうだ!お前の名前とクラス教えてくれよーっ!」

 光河は職員室前だというのに、大声で手を振りながら叫ぶ。

「うるさい、私は歌永蘭華。Zクラスよ!」

 Zクラス、というのは少し躊躇いがちな響きだった。

 そしてキッと鋭い視線で彼を睨むと、スタスタと早足で行ってしまった。


「歌永蘭華、Zクラスな。よし、覚えた!」

 光河はそう言うと、職員室に入り、『失礼しまーす!』と大声で言いながら入った。

 勿論、先生方が耳をふさいだのは言うまでもない。

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