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第三話 一郎と二郎

真っ黒のフードに身を包み顔は包帯で覆われている男が立っていた。

「一郎さん!」その声の主は二郎の憧れ、一郎だった。

一郎は通算四割のミリオン券、十二年連続二百本当たりを誇る歩戦界きってのカリスマギャンブラーである。

「どうして、モーガンに賭けたんだ?」一郎の静かな声は妙に鬼気迫るものがある。

「感ですよ。感。なんかモーガンから凄いオーラを感じたんです。」二郎は正直に話した。

「なるほどな。お前らしい。…… やはりお前には天賦の才がある。」一郎は続ける。「私に力を貸してくれないか? 私の目的くらい、その天賦の才で見抜いてるだろ?」

「嬉しいお言葉ですが、それはできません。敵が多すぎますし、わいには天賦の才なんてない。ただのギャンブラーの端くれですわ。」ナニをしまいながらそっと言った。

「私は確信している。早くこの腐ったゲームを終わらさなければ、人類に明日はない。私は今歩戦で稼いだあぶく銭で歩戦を終わらせようとしている。」

「どうやってですか? そない大義なこと出来るわけない。歩戦は戦争への登竜門。戦争は国と国がしているんですよ。いくらあなたでも、……」二郎は歩戦の真実を知っていた。

歩戦で良い成績を収めた者はその地域、国籍に応じて戦争のコマとして駆り立てられる。戦争と言っても、第二次世界対戦のようなものではなくむしろ団体戦の歩戦のようなものである。二十対二十の合戦、先に敵の王将を殺したら勝ちとなる。

機械が発達しすぎた今、無闇に第二次世界対戦のような戦争を起こすとそれこそ世界の破滅である。

そこで、世界の頭の良いお偉いさん達が導き出した答えが将棋戦争であった。

一郎は歩戦が無くなれば将棋戦争もなくなりそうなることでコマも無くなり世界が平和に近づくと考えているのだ。

「歩戦が無くなれば、地下の人や海底の人への差別も無くなると思うのだよ。まあ、お前の言う通り勝算はない。だが、何もしないでいるより何かワンアクション起こす必要があると思うがね。」

「あなたは昔からそうでしたね。いつも先手、先手で歩戦のルールは一郎の先手で決まるとまで言われてはった。なのに、今では夢物語のヒーローごっこですかい?」つい声を荒らげてしまった。一郎も昔はコマだった。みんなのヒーローだった。彼こそ正真正銘本物のキングだったのだ。

二郎も今の世界が良いとは思わない。だがどうする事も出来なかったのだ。

「すまない。大勝の余韻に浸る間もなく不愉快にさせてしまったみたいだ。二郎、お前は白人そして地上人なのに私に憧れて二郎と名乗ってくれているんだね。…… きっと、お前の絶望しない世界に変えてみせる。」一郎はそう言い残すと暗闇に消えていった。

この夜二人が伝説の始まりを告げ、二人は伝説を昔話に変え表舞台から姿を消した。そのうち一人は死んだ。

二郎とモーガンの人生はこれを機に華々しいものになったに違いない。ーー





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