プロローグ 本と二人
《地球は青かった。というのは今では昔の話であり、綺麗に舗装された人口島が海を妨げている。人口は、増加の一途を辿り地球から人が溢れるほどである。海や山さえも管理され、その全ては機械によるものである。また、食物を作る、運ぶ、加工する等全ては機械がやっている。》
「ふーん、この文についてどう思う?」手にした本を指差し青年は呟いた。素っ気ない部屋には珍しく本棚と本が大量に置いてあり、その一言は机を隔てた前に座る少女に向けられていた。
「え? 別に。…… ただ、今の地球は何色なのかなって思ったくらい。」少女は窓に映る自分とその向こうにある世界を見渡しながら言った。
「馬鹿だなー。そっちじゃなくて機械が支配していることのほうだよ。人間はこんな大変な時でさえ、働きもせずにただ好きなことをしているだけなんだ。僕たちもだけどね。」つまらなそうに笑みを浮かべそう言うと、青年はポケットからサプリメントをとり口に頬張った。
「ごはん早くない?」少女もポケットからサプリメントを取り出し不満気に口に頬張った。地上では、食事をサプリメントで済ます者は意外と多い。それほど全てにおいて技術は発達しているのである。
「何色か見にいく?」青年は笑顔で言った。
「うん。」扉を開け二人は街に消えていく。
この時、青年は自分が何者で何故ここに居るのかを知っていた。少女は知らなかった。
だが、地球が何色かはどちらも知らなかったのである。